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    konoka396

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    konoka396

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    序盤の序盤
    ボツになるかも

    ごちごちサンド(予定) その小さな男士の姿を見かけたのは、演練場の隅、ロビーとお手洗いを仕切る壁の前に設置してあるベンチの上だった。

     後家兼光……いや、もしかしたら後家兼光と審神者の子なのだろうか。10歳くらいの身長だが、赤髪に黒ジャケットを体にかけ、美しい拵えの刀を抱いて寝ているその姿は、不思議と刀剣男士の神聖さを纏っているようにも見える。
     しかし、その後家兼光をそのまま小さくしたような体は傷だらけ、包帯だらけで、周りの審神者は存在に気がついていないか、関わりたくないと見ないふりをする人たちばかりだった。

    「えっと、大丈夫……ですか……?」
     観葉植物の葉に隠れるようにして寝ていた彼に、私は躊躇わずに声をかける。
     今日の近侍は第一部隊の隊長も兼任していて、演練中の今は側に誰もいない。本当はこんな状況で声をかけるべきではないとわかっていたけれど、生来のお節介がつい顔を出してしまった。

     意識はあったようで、ゆるゆると瞼が開き、ぱらぱらとした赤髪の間から薄水色の瞳が覗く。
    「……だれ」
     弱々しくて掠れた声だったが、声変わり前の、高い声であることが伺えた。

    「私は……一介の審神者です。あの……お腹、空いてない?」
     手元の紙袋から、ラップに包んだおにぎりを取り出そうと中に手を入れる。
    「……別に。ボクは大丈夫。ただここで寝ていたただけだから気にしないで。ボクなんかよりも、そのおにぎりは食べるべき人がいるんじゃないかな」
     驚くほど冷たい声だった。年不相応な突き放し方に、私はこの子とは関わりがないはずなのに、心がぎゅうっと冷え込んだ。

    「……じゃあ、私が戻ってくるまで、この紙袋を預かってもらえないかな?演練午前の部が終わったら、うちの第一部隊と一緒に食べようと思って多めに作って持ってきていたのだけど、お手洗いに行きたくなってしまって。食べ物を持って入るのもあまり良くないから、どうしようかなって困っていたんです」
     怪訝そうな顔をする彼に紙袋を押し付けて、「ちゃんとお礼はするから!お願いします!」と小走りでお手洗いに向かった。


    「ごめんなさい、待たせちゃいましたよね……!」
     お手洗いから大急ぎ戻ってくると、その子は暇そうに地面につかない足を揺らしていた。
    「うんん。たいして待っていないよ。……これはちゃんと見ておいたから、もういーよね?」
     ベンチからひょいっと飛び降り、預けていた紙袋をこちらにずいっと押し付けてくる。目が合わないように背けられた顔からは、ここから離れたがっていることが読み取れた。
    「ちょ、ちょっと待ってね、今おにぎりを……」
    「いや、だからボクなんかよりも……!」
     もう一度紙袋に手を入れ、その子が断ろうとする。お手洗い前にやったことの再現をしかけた、その時だった。

     ぐぅぅぅ〜〜〜っ!
     大きな音が鳴った。
     誰かのお腹の音だろうか。あまりにも大きな音に、思わず紙袋からおにぎりの入ったタッパーを取り出す手を止めてしまった。
     私の腹の音ではない。周りの人も、いくら大きかったとは言え、腹の音が聞こえるほどの距離にいるのはその赤髪の少年しか居なかった。
    「あっ、えっと……これは、その、ちがくて……」
    「あの……ぜひ、貰ってくれないかな。誓って毒は無いし、変なものは入れてないから」
     お腹を押さえて俯く少年に、タッパーの蓋を開けて差し出す。
     押し付けがましいかなとか、なんかこんな感じの世話焼きおばさん居るよなとか、ちょっと一瞬思ってしまったけれど、心配になったんだから仕方ない!の気持ちで打ち消した。

    「ここの端三列はうこぎ、ここからここまでは赤紫蘇、この列は梅おかかで……あ、エビマヨとかちりめん山椒とかが良かったら、もう一つのタッパーの中にあるから言ってね。白米のみとか、塩結びとかも作ってあるので」
    「すごい。本当に、たくさんおにぎりが……」
     赤髪の隙間からきらりと目が輝いたのが見えた。感心したような口ぶりに思わず嬉しくなる。
    「今日の第一部隊、よく食べる刀ばかりで。つい腕を振いすぎちゃったんだよね。だから、少しだけ貰ってくれると嬉しいな」

    「……わーかった。そんなに言うなら、ありがたくいただくよ」
     その子は少しの間考えてから、顔を上げ、そう私に言った。初めて真正面から合わせてくれた目は、やはり後家兼光そっくりだった。
    「これ貰っていい?ボク、うこぎが好きなんだ」
    「どうぞ。……ふふっ、うこぎが好きなところも、やっぱりそっくり」
    「……それは、キミの本丸の後家兼光のこと?」
    「うん、そう。私の本丸の近侍をやってもらっているの」
    「ふーん」
     あれ、嫌な話題を話してしまったのだろうか。沢山のおにぎりを見て輝いていた瞳が陰り、また顔が逸らされてしまった。

    「……そういえば、貴方の名前を聞いても良いかな?」
     無言の時間が少し居た堪れない。彼の名前を聞いていないことに気がついて、そう間を埋めるように切り出した。
    「ボク?」
     ごくんっと口いっぱいに頬張ったおにぎりを飲み込んで、きょとんとした顔が向けられる。
     こくりと頷き返すと、その少年はすうっと目を細めた。

    「……ボクは後家兼光。戦う条件が満たせなかった、バグ個体、ってやつだよ」


    ***


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