心中「将軍様より一足先に、永遠を手にしてしまおうか」
横にいた彼がそう言って笑ったのは、須臾のような春の夕暮れだった。
逃げ込んだ先、蒼く煌めくちいさな洞。拙者も友も愛している、鎮守の森に咲く花に似た煌めきである。稲妻城の直下。海岸からすこし離れ、草木が生い茂る岩室の、奥へ奥へと進んだ先だ。
ここにまっさらな静寂はない。かちかち、とオニカブトムシが切磋琢磨しあう音と、我ら人間が草を踏みしめる音が響く。
現在、稲妻では「目狩り令」が下されている。
神の眼差しを向けられた者は、その象徴たる神の目を捧げる。それは将軍様の糧となる。
捧げる、なんて面白くもない嘘をつく。強奪だろうに。
神の眼差しを向けられた者は、いま、天領奉行に追われている。天領奉行に神の目を奪われるのだ。
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