恋愛ベタはどっち「俺が花だとしたら、どれだと思う?」
「……は?」
飴の修行が一段落して、やっとの休憩に小さく息を吐いたひゅーいに降りかかった質問は、あまりに唐突なものだった。
疲れたねぇ、とボヤいた声なんて橙真の耳に届いていなかったのだろう。じゃなければ、こんな脈絡もない質問が飛んでくるはずがない。
差し入れして貰ったジュースに伸びた手を引っ込めて、橙真が向けてくるスマホの画面いっぱいに映る四択を覗き込む。バラ、ガーネット、カーネーション、ユリ。正直、どれも橙真の印象からはほど遠い。
「う、うーん……強いて言うなら……ガーネットとか?」
「………………そうか」
「えーと、なに? これ」
橙真がこうして会話の流れを無視してくることは珍しくない。橙真は口数が多くない上にじっと考え込んでから言葉を発するから、畳み掛けるように喋るひゅーいとたまに会話が噛み合わなくなる。それでも、ひゅーいにとっては世界の誰より橙真の言葉が大事なのだけれど。
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