①赤月:第三者視点
「貴方の目に、彼はどう映っていますか?」
そう聞かれたとたん、男は硬直した。睫毛を揺らす瞬きひとつすら出来ない程の緊張と困惑に襲われたのだ。彼、と、そう示した対象が誰なのか。彼は身体の半分では理解していたし、もう半分では理解を拒絶していた。彼、なんて親しみのある呼称を使って良い相手ではないのだ。あの方は。この街の支配者は。我々の教祖様は。それでも男は、その呼称が使われたことに怒りを覚えなかった。あの方を彼、なんて呼べるのは、きっとこの方だけに違いない。それは男だけでなく、その他大勢の信者たちにとっても共通の認識であった。教祖たるあの方の番。比翼の鳥の片割れ。赤服の傍で月のように寄り添うこの方だからこそだ。
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