彼にキスをした日(空ver) 背中越しにひゅうひゅうと引き攣ったような呼吸が聞こえる。
掠れた息は時折苦しげな呻き声と共に吐き出され、じわりと業のような闇が視界の隅に滲む。
「大丈夫? 魈……」
どうにかしてやりたいと思ってもできることは彼の手を握り、痛みをやり過ごす時間を共にする程度。
魈はその決して大きくはない己の身の内に淀んだ怨みつらみを封じるようにただただ耐えていた。
少しでも痛みを分かち合えやしないかと魈の手を握ってみても彼はその爪を食い込ませることすらしない。
ただ、魈は空の熱を確かめるように幾度となく握り直していた。
優しい鬼神のような人。
いずれ我を見失う日までそう在る積りなのだろう。
空は手を握ったまま振り返るとその顔に指を伸ばす。
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