チビと泥んこと。「ふんふんふーん♪」
ペタペタペタ。
大人のズボンの膝丈まである少年が、さらにちっちゃくしゃがんで泥を手のなかに丸めて遊んでいる。
カラフルなコットンキャンディのような幼い声が、鼻唄を止めるとしゃがんだ膝をしゃんと立てた。
その手のなかにはツルッとした丸い茶色い玉。
少年一チビブラックは、その様子を撮影していたカメラちゃんにズイッと玉を近づけた。
「カメラちゃん、一時間で泥団子いくつできるかなチャレンジ、スタートです!」
ニコニコしたチビブラックは、そういうとすぐにしゃがんで泥と砂を集めはじめた。
カメラちゃんは、じいっと高い声を上げると、カウンターを手にもって片手を上げた。
「じじぃー、じっ!」
カメラちゃんが手を振り下ろすと、チビブラックの手が猛スピードで動き出した。
こねこね、ささっ、ツルツルッ、とん!
どんどん積み上げる泥団子に圧倒されることなく、カメラちゃんは撮影しつつカウンターのボタンをカチカチ押している。
「おやー?せんきゃくがいますねー!誰でしょう?」
自分とにたような声に一瞬手を止めて振り替える。
おとーさんかおにーちゃんでしょうか?
そう思ったが、全くの外れで、チビブラックは隠れていない真ん丸の目をちょっぴり大きく見開いた。
そこにいたのは、自分と瓜二つの姿の少年。ご丁寧にカメラちゃんまで一緒にいる。
「きみ、だれですか?」
こちら側のチビブラックはきょとんと首をかしげている。
相手側の…仮にちっちゃなブラックと呼ぼう…は、わっと両手を上げて紹介して見せた。
「おえちゃんはブラック!あくまけいゆーちゅーばーです!こっちはあいぼーのカメラちゃん!」
「ええと、おえちゃんもブラックなんですけど」
ひゅうう…と二人の間に気まずい空気が走る。
そういうときは子供特有の仲良しの法則!
「きみ、おえちゃんとあそびませんか?」
ちっちゃなブラックが手を差し出すと、チビブラックは目を爛々と輝かせてその手をとろうとし、返事をしようとした。
「は…」
その瞬間、黒い殺気を感じた。
身に危険を感じ、ばっとバックステップをとる。
そこにあったのは、大きな鎌だった。
「うーん、やっぱりかわされちゃいますかぁー」
ちっちゃなブラックニコニコとこちらを見ているものの、一瞬油断をしたらチビブラックは真っ二つだった。
「あそぶって、こういうことですか?」
チビブラックもブラックホールから鎌を取り出すと、小さい身体に似合わずしっかりと構える。
しかし、ちっちゃなブラックは頬に指を当てうーんと考えている素振りを見せる。
「うーん、おすもうにしましょうか、おにごっこにしましょうか、迷いますねえ…」
今だ悩んでいるちっちゃいブラックに大して、チビブラックは鎌をしまい、恐る恐る近づく。
「おえちゃん、あぶないあそびはしたくないです。けがなんかしたら、おとーさんたちにおこられちゃいますし」
「あぶない…あそび?おえちゃん、いつものあそびをしただけです」
これがいつものあそび!?こわいです!
チビブラックは関わらない方がいい、と、カメラちゃんと泥団子を抱えてその場から離れようとした。
しかし。
「どこへいくんですか?」
と、喉元に鎌を突きつけられ、あっという間に身動きがとれなくなった。
「やめてくれませんか、こーゆーの。おえちゃんはただ、どーがをとりたいだけなんですが」
流石に危機感も薄れてきた。鎌を突きつけてニコニコするちっちゃいブラックに告げると、ちっちゃいブラックは爛々と目を輝かせた。
「カカカッ!そのどーが、おえちゃんもとりたいです!テーマはなにがいいでしょう?なんふんであいてをちまつりにあげるか!ですか!?」
「どろだんごをつくるどーがですが」
「クソつまんなそーですね」
ちっちゃいブラックがクソデカため息をつくと、流石にカチンときたのかチビブラックがピカピカの玉をちっちゃいブラックに渡した。
「なんですか?このピカピカ…すごくキレーです」
「これがどろだんごです」
ちっちゃいブラックがそれを太陽にかざすと、かすかにキラキラと輝いた。
ほーせきみたいです…
戦意を失ったちっちゃいブラック、その輝きに目を奪われる。
「おとーさんがいってました。どんなにぐちゃぐちゃなどろでも、いっぱいみがけば、ほーせきみたいにぴかぴかになるって」
チビブラックはにっこり笑うと、手の中の泥団子を見つめた。
「おえちゃんも、このどろだんごみたいなピカピカでキラキラなヨーチューバーになりたいです」
「なれますよ、きっと」
ふっと優しい声がした。
そちらを見ると、先程まで戦闘狂だったちっちゃいブラックが泥団子を持ってこちらを見つめていた。
「だから、その…作り方、教えてくれませんか?」
ちょっと恥ずかしそうにチラリとこちらを見ると、ちっちゃいブラックは、カメラちゃんを呼ぶ。
「きょうはコラボさつえいをしたいです。いいですか?」
二体のカメラちゃんか顔を見合わせると親指をたて、じーっ!と鳴いた。
「はい!」
チビプラックもにっこりと笑って見せた。
カラスの鳴く夕暮れ時。
公園に来たブラックはキョロキョロと辺りを見回していた。
「困りましたねー、カメラちゃんたちもそうですが、小さいオレちゃんたちも帰ってこないなんて….おや?」
砂場の方に黒いかたまりがあるのを発見し、近づいてみると、泥だらけになった小さなブラックズかすやすやと寝ていた。
カメラちゃん達もいるようで、二人とも口許に指をたてて「静かに」のポーズをとっている。
「仕方ないですね、起こさないように連れて帰りますか」
ブラックは片方を抱え、片方は背にのせて、起こさないように静かに歩く。
飛ぶと羽音で目を覚ましてしまうから。
ふと、二人が何かを手につかんでいるのを見た。
夕日に反射してキラキラ、ピカピカに光る小さな団子。
「カカッ、どうやら宝物ができたみたいですね」
「じっ」
「帰ったらお風呂、ですね」
甘く、しかし微笑ましく笑いながら、ブラックはチビ二人をつれて家に帰った。
(完)