あたり役「さあ、君の衣装だ」
花京院が手渡してきたのは、灰色の毛皮だった。
もちろん本物ではない。しかしフェイクなりにもかなり獣のそれに近い手触りのするものだった。広げてみる。頭からすっぽりと被るようにできているらしい。
「おれの、とはどういうことだ」
衣装だと言われれば、当然着用するものであることは理解できた。しかしながら、それを着る理由が理解できない。
花京院は決して意味のないことはしない。どんな場面においても、彼のすることには意味があり、主張がある。しかしごくたまに、花京院にとっては意味も意義もあることが、承太郎にとってはあまり重要と思えないこともある。理性的で先々を考えて動くところのある彼は、どうも一人で考えて結論を出そうとする節がある。「君の意見を聞こう」そう言ってくれることが大半ではあるが、彼は彼にしかわからない部分で、一人で結論を出したがる。そして、それは大体が、誰にとって何が相応しいかを決めつけてしまうことに由来しているようであった。
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