Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    jojk_mokko

    @jojk_mokko

    承花LOVE

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji ⭐ 🍒 ™ 🆙
    POIPOI 10

    jojk_mokko

    ☆quiet follow

    🎃Happy Halloween2023🎃
    全てがふんわり世界線。
    ようじょりーんちゃんがほんのり出ます。友情出演的な感じです。感謝。
    この家族は全員一分の隙もなく幸せです。

    #承花
    Joka

    あたり役「さあ、君の衣装だ」
     花京院が手渡してきたのは、灰色の毛皮だった。
     もちろん本物ではない。しかしフェイクなりにもかなり獣のそれに近い手触りのするものだった。広げてみる。頭からすっぽりと被るようにできているらしい。
    「おれの、とはどういうことだ」
     衣装だと言われれば、当然着用するものであることは理解できた。しかしながら、それを着る理由が理解できない。
     花京院は決して意味のないことはしない。どんな場面においても、彼のすることには意味があり、主張がある。しかしごくたまに、花京院にとっては意味も意義もあることが、承太郎にとってはあまり重要と思えないこともある。理性的で先々を考えて動くところのある彼は、どうも一人で考えて結論を出そうとする節がある。「君の意見を聞こう」そう言ってくれることが大半ではあるが、彼は彼にしかわからない部分で、一人で結論を出したがる。そして、それは大体が、誰にとって何が相応しいかを決めつけてしまうことに由来しているようであった。
     一番最初に気がついたのは、旅の頃、互いの気持ちを自覚し始めた頃である。
    「君はぼくにはもったいないよ」
     そう言った花京院は、ひどく穏やかに笑った。花京院の笑顔が好きだったが、その時ばかりは胸ぐらを掴みあげる勢いで本気で怒った。承太郎も若かった。それから数時間後に星空の下で仲直りのキスをしたのだが、その時に約束をさせたのだ。
    「おれに聞きたいことや、して欲しいことがあれば言え」と。
     彼の判断は、彼なりの美学の表れであるので重々尊重したいところだが、こと承太郎のこととなると花京院は途端に目が曇る。彼曰く、君に釣り合おうとするといろんなところに無理の皺寄せがくるのだそうだ。そういうことをいうあたり、星空の下で仲直りする前と今とでは、根本的に花京院の気にするポイントは変わっていないように思われた。承太郎にとって、釣り合うかどうかなどまるで無意味だ。釣り合い、とは周囲から見た、外からの目線である。承太郎にとっては研究対象に与える餌の、そのまた餌用の微生物の糞ほども必要とは思えないことであった。
     お互いが必要としていることが重要なのだ。
     しかし、花京院はそれだけではいけないようだ。こうして愛を確認し合った今でさえ、まだ気にしているのだ。花京院は承太郎になんでも持っていると言うが、花京院の方が欲張りなだけではないかとも思う。煩悶する様も丸ごと花京院であるから、そばにいるならば何でも良いと思うくらいには承太郎は花京院にぞっこんであるし、花京院もこうして承太郎と一緒にいるということは、誰がなんと言おうと、ともにあるのは心が決まっているということであるし、毎晩のように言葉だけでないコミュニケーション、所謂、肉体言語でも確認していることでもある。承太郎は当然のことながら離れるつもりも離してやるつもりもなかった。
     
     そうして、冒頭の毛皮に戻る。
     しげしげと毛皮を観察する承太郎を見つめる花京院の瞳は、いっそ悲壮なほどに真剣であった。
    「明日の夜、これを着るんだ」
     花京院は決定事項を告げる口調で重々しく告げた。承太郎にとってはまさに今聞いたことで、いつも予定を書き込んでいる手帳にも夜の予定について書き込んだ記憶はなかった。そう、久々にゆっくりと過ごせるはずだった。手帳に書くとするならば、家族でゆっくりと食事し、眠る前に映画などを観るのもいい、と書き込むかもしれなかった。
    「明日、何の日か知っているかい?」
     承太郎はわずかに首を傾げた。
     明日は、十月の最後の日である。
     承太郎にとっては平日の火曜、という認識しかない。しかし、季節の行事を大切にする、言い換えればイベント毎に敏感な、日本人らしいところもある花京院のことである。何の日か、聞くからにはきちんと正解がある。
     潮の満ち引きには詳しいくせに、あまりにも行事に興味を示さないことに呆れた花京院が「君が気にしなさ過ぎなんだ。ホリイさんはしっかりと用意してくれたろうに」と、つい最近も言われたように思う。
     確かにそうだ。日本人の嫁になったのだから、と母がいつも張り切って仕切っていたものだった。だから、知っていたのだ。近年、日本でも幅を効かせるようになった行事は、確か。
    「ハロウィン、か」
    「さすが、空条博士」
     皮肉にしか聞こえない言葉も、花京院が言うなら素直に喜んでしまう承太郎も大概だ。
    「ニヤニヤしている場合じゃあないぞ」
     いつもなら、「もう、君ときたら」と、この辺りで花京院のはにかみを指先で前髪に絡める眩しい笑顔が拝める頃合いだったが、今夜はその展開は望めないようである。
    「昨日のことだ」
     花京院はソファに腰掛けると、某ロボットアニメの司令のように両の手を顔の前で組んで俯いた。
     昨日、と聞いて承太郎は手帳に書き込んだスケジュールを思い出す。母に一晩預けていた徐倫を花京院が迎えに行っていたはずだった。
    「あの子には内緒よって言われたのだけど……」
     徐倫が庭を駆け回っている間、ホリイが花京院に玉露を進めつつはにかむように口を開いた。
    「承太郎とのりくんが『徐倫のために、仮装の準備をしてくれてる』って言うのよ」
    「え⁉︎ ぼくたち、何も準備していませんよ……困ったな。どうしてそう思ったんだろう」
     まいったな、と呟く花京院を、慈愛に満ちた眼差しが励ます。それとね、とホリイは贔屓の店の饅頭を勧めながら少しだけ花京院に近づいた。花京院はそれとなく耳を寄せた。
    「のりくん、私はのりくんが承太郎と仲良くしてくれてとっても嬉しいって思ってるってことを踏まえて、お伝えしてもいいかしら」
    「……どうぞ」
     必然的に小声になる。ホリイは承太郎と同じ美しい瞳の上の、少女のようによく動く眉をきゅ、と寄せた。
    「徐倫たら『パパたち、夜にこっそり二人でわたしを脅かす練習をしているのよ。きっと、パパが狼男で、ノリアキは日本のユーレイってやつなんだわ。だって、パパは怖いくらい低く唸ってて、ノリアキはすすり泣きしてるんだもの』……って、ああ、ごめんなさい、デリカシーがなかったわよね。でも子供の言うことでしょう? 私、『きっとそうよね、ハロウィンが楽しみね』って言っちゃって」
    「……それは……、はは、ええ、そう、なんというか、その、あの……ありがとう、ございます……」
     この時点で、花京院のライフはゼロだった。乾いた笑いすら出てこない。これ以上は一ヒットポイントたりとも受け止めることはできなかった。ライフがマイナスになってしまう。吸血鬼との死闘を生き延びたというのに死因が恥ずか死だけは避けたいところだった。
     
     そうして、準備の良い我らが聖母が持たせてくれたのが、狼の仮装一式とユーレイの仮装一式だったという。
    「だから、責任として絶対にこれを着て真剣に演じてもらう」
     ズアッと立ち上がった花京院はすでに額に三角の布をぎゅッと巻きつけていた。その下には例の決戦の時に装着していた細いサングラスでもかけそうな勢いである。
     手には白の着流し。
     承太郎は全てを理解した。とても真剣に頷いてみせた。
     花京院は安堵したのか、殊勝に頷いた承太郎を満足気に見て、そうしてやっと微笑んだ。いつもよりも儚気で、少しやつれた面差しにその微笑みはひどく扇情的であり、一言で言えば、目に毒だった。時刻は草木も眠る丑三つ時である。それこそユーレイが活躍して当然の時間だった。
     承太郎の頷きに合わせて、花京院はうんうん、と頷いていた。伝わったという安堵が、瞳を輝かせてもいた。しかしその輝きは数秒後に凍りつく。
     承太郎の一言。たったひとつの明確な提案であり、導き出された答えでもあった。
    「わかった。それじゃあ、今から予行練習ということだな」
    「……君、本当に残念だな」
     瞳は冷めていても、頬はぽっと薔薇色に染まっている。
    「もったいないんじゃなかったのか」
    「いまは別の意味でもったいないよ」
    「真剣にやるんだろう」
    「そうだよ、明日に備えてもう真剣に眠るべきだ」
    「役作りにはちいとまだ足りねえ気がしているんだが」
    「今の話を聞いて、どこからそんな元気が湧いて出るんだ」
    「てめえとのことはいつだって真剣だからな」
    「また聞かれたらどうするんだい」
    「明日の夜、もう今夜か。ちゃあんと演じきりゃあいい」
    「ぼくとしてはこれ以上の予行練習は必要無いと思うが」
    「花京院。トリックオアトリートだ」
     もう本番ハロウィン当日なのだ。お菓子を持っていないものはイタズラされて然るべき日である。丸腰の花京院は当然お菓子などは持ち合わせていなかった。いつも準備と覚悟が出来ている花京院だが、さすがにこの深夜に懐に菓子を仕込むことまではしていなかった。
    「お菓子をくれないからイタズラ大決定だぜ」
    「……衣装を汚すのだけはやめてくれよ」
     菓子を仕込めなかったのではなく、仕込まなかったが正であることをこの時点で承太郎は確信した。
    「てめえの協力次第だ」
    「全く、君ってやつは……」
     承太郎が聞こえなかったように振る舞うのは、花京院にとっては不利益で、しかしそれを補ってあまりあるほどに有益であることも双方理解していた。差引損益を弾き出す花京院の算盤は共に過ごすうちによい具合に狂って、今では自己評価にまで反映されているようだ。花京院は黙って着流しを握り締め俯いた。耳たぶまでが赤くなっていた。睨んだとは言えない上目遣いの目元は濡れたように潤んでおり、しどけなく緩む口元はユーレイではなくて淫らな小悪魔のそれだった。
     承太郎が望む方向において準備は整っていた。
     

     そうしてその夜、雄オーラ全開の狼男と着流しの首元にアザを覗かせたユーレイは、設定上墓場から出てきたとは思えないほどに生命力に満ち溢れていた。ほんの時折、ユーレイの腰がおぼつかずヨロヨロと歩く様などはまさに迫真であった。二人はしっかりと演じ切った。
     これ以上ない、あたり役である。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖😂👏👏👏👏🌋💖💖😍💖💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    jojk_mokko

    DOODLE🎃Happy Halloween2023🎃
    全てがふんわり世界線。
    ようじょりーんちゃんがほんのり出ます。友情出演的な感じです。感謝。
    この家族は全員一分の隙もなく幸せです。
    あたり役「さあ、君の衣装だ」
     花京院が手渡してきたのは、灰色の毛皮だった。
     もちろん本物ではない。しかしフェイクなりにもかなり獣のそれに近い手触りのするものだった。広げてみる。頭からすっぽりと被るようにできているらしい。
    「おれの、とはどういうことだ」
     衣装だと言われれば、当然着用するものであることは理解できた。しかしながら、それを着る理由が理解できない。
     花京院は決して意味のないことはしない。どんな場面においても、彼のすることには意味があり、主張がある。しかしごくたまに、花京院にとっては意味も意義もあることが、承太郎にとってはあまり重要と思えないこともある。理性的で先々を考えて動くところのある彼は、どうも一人で考えて結論を出そうとする節がある。「君の意見を聞こう」そう言ってくれることが大半ではあるが、彼は彼にしかわからない部分で、一人で結論を出したがる。そして、それは大体が、誰にとって何が相応しいかを決めつけてしまうことに由来しているようであった。
    4102

    related works