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    お絵描き文字書き練習中/ラス為沼/文字はカラプ、お絵描きはカラプ中心に他キャラも少し

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    カラプラのバレンタイン@婚約者軸
    書いてるうちに段々わかんなくなってきて「これ面白いんか?」のループに嵌ったので供養…

    #カラプラ
    colorPlastic

    バレンタイン2024手作りチョコを渡したい。前世日本人であるプライドの中に、ひっそりと息づいている小さな野望だ。
    けれど、その小さな野望は、プライドにとってはとてつもなく大きな試練でもあった。なぜなら、ラスボスの逆チートによって、料理や刺繍といった家庭科に連なるスキルが壊滅的レベルに補正されてしまうから。手順や注意事項は理解出来ているのに、手元が勝手に期待と真逆の結果を生み出してしまう。必然的に引き起こされる事故を回避するには、ティアラの助けを借りるしかない。
    そう、借りるのが正解だ。ティアラに手伝ってもらえば、上手に、しかも美味しくできると実証されている。安全安心間違いなし。
    よし、そうだ、そうしよう、と腰を上げかけ、けれど結局手伝って欲しいと口にできずに終わってしまう。

    ――それって「わたし」の手作りと言えるのかしら。

    プライドの胸に蟠る、ひとつの問いかけ。
    工程の半分以上をティアラに頼らないといけない事実が、心のどこかで否だと答えを出している。
    ティアラとプライド、二人の気持ちを込めてプレゼントを配っている時分は何とも思わなかったのに、贈る相手としてカラムを意識した今、そんなふうに割り切れなくなってしまったのだ。
    本当に特別な、「大好きなひと」へ贈る大切なお菓子だからこそ、自分以外の気持ちを混ぜたくない。
    正真正銘「わたし」が作ったのよ、と胸を張って渡したいのだ。

    けれど。

    ちょうど日付の変わる頃、プライドは一人きりにしてもらった厨房で頭を抱えていた。

    ――どうしよう。

    案の定、現場で事件は起きていた。
    刻もうと手にしたチョコレートは無事な塊を探すことが困難なほどなすすべもなく床に散らばり、温めていた牛乳はいつの間にか沸騰して吹きこぼれ、厚く張った膜が鍋からだらりと垂れ下がっている。流し台に落とした卵は潰れた上に殻に塗れ、救出するのは不可能だ。
    せめてもの救いは、プライドが用意した食材が少なかったことだろうか。ほとんどモノトーンでまとめられた色彩のおかげで、凄惨な事件現場の様相は呈していないのだから。
    とはいえ、惨状には違いない。新しく作るにしても、現状復帰しないことには始まらない。床掃除はロッテたちに頼むしかないが、学校で教えてもらった「盥に溜めた水の中で洗う」やり方ならば、逆チート持ちでも洗い物くらいはなんとか出来る。
    気を取り直して、プライドは重い頭を持ち上げた。
    「ロッテ、マリー。申し訳ないのだけれど、片付けを――」
    手伝いを頼もうと厨房のドアを半分ほど開け、ここにいるはずのない人物の姿に思わず口を噤む。

    「夜分遅くに申し訳ありません、プライド様」

    ドアの前にいたのはロッテでもマリーでもなく、プライドの好きなひと――カラムだ。今日はもう休んでいるはずでは、とか、なぜここにいるのか、とか。彼に聞きたいことは次々に浮かんでくるものの、驚きすぎて言葉にならない。背中に事件現場を隠している手前ドアを開けることも出来ず、かといってドアを閉めてしまったらせっかくの訪問を拒否してしまうようでそれもできない。
    (会いに来てくださったのは嬉しいけれど、今はダメ!)
    プライドはドアの影に半分隠れたまま、助けを求めてカラムの後ろへ視線を投げた。けれど、ロッテとマリーから返ってきたのは微笑ましいものを見るような眼差しだけだった。否、小さく拳を握ってエールを送ってくれてもいるらしい。だけど違う、そうじゃない。
    すっかり困りきった様子のプライドに、カラムはすまなそうに視線を落とし、「不躾なのは私ですから、そのままで」と腰を折る。そして遅い時間の訪問を重ねて謝罪した。

    「どうしても、一番にこちらをお渡ししたく」

    ドアの前に差し出されたのは、赤い花弁が幾重にも重なった薔薇の花束だった。かさりと揺れた瞬間に上品な香りがふわりとのぼる。釣られるように隙間からおずおずと手を伸ばしたプライドだったけれど、花束とカラムを行き来する視線には疑問と困惑がありありと浮かんでいる。

    「先日お会いしたレオン王子から伺ったのですが――」

    カラム曰く、海の向こうにある国では、バレンタインデーに男性から女性に花を贈り、愛を伝える風習があるらしい。
    「近衛騎士の立場でプライド様へ花をお贈りすることは畏れ多い事でしたが、プライド様の婚約者となった今は誰に憚ることもありませんので」
    堂々と贈り物ができる立場になったけれど、なんの意味もなく贈り物をするのはプライドの負担になるのではないか。急な行動の変化で戸惑わせてしまわないか、気負わせてしまわないか。考えすぎだと思っても、プライドに対してはつい慎重になってしまう。
    「そういえば、知っているかい?」と何の気なしに異国の風習を教えてくれたレオンは、もしかするとカラムが機会を窺っていたことを見通していたのかもしれない。隣国の王子に上手く転がされているような気もするけれど、きっと彼は打算なく背中を押してくれている。と、カラムは素直に感謝した。
    「良い歳をして余裕がなくみっともない話ですが、この風習を知る他の男性がプライド様に花束を贈るのではと気が急いてしまいまして。誰よりも早く、花束を贈りたかったのです」

    「愛しています、プライド様」

    腰を折ったカラムの声は、普段よりも少しだけ近い位置から響いてくる。それはまるで、大事な秘密を告白するような真剣な声音で。とくん、とプライドの胸が高鳴った。
    真っ直ぐにこちらを見つめる飴色の瞳の中には、薔薇を抱いた自分だけが映っている。ぎゅっと胸を掴まれた気がして、プライドは慌てて目線を花束に落とした。
    カラムは、騎士隊長の業務を終えてから城下の花屋へ駆けてくれたのだろうか。それとも、事前に手配をして騎士館に届けてもらったのか。どちらにせよ、忙しい時間の合間を縫ってまで準備してくれたことが嬉しいとおもった。鼻の奥がツンとする感覚を、そっと花弁に鼻先を寄せて耐える。
    余裕がなくてみっともないのはプライドも同じだ。焦って無謀な挑戦をして、予想通りに失敗している。もっと準備期間をとって、少しずつ介助の手を減らせるように試行錯誤を繰り返せば良かった。遠回りに見えても、きっとそれが一番の近道だったはず。
    けれど。今更そんなことを言っても仕方がない。カラムは既に目の前にいて、背後は惨憺たる有様なのもどうしようもない。それでも、今すぐにカラムへ「私も贈りたいものがある」と伝えたい。好きなひとへ愛を伝えたい気持ちは、自分もカラムと同じくらいに大きいのだと知って欲しい。
    すん、と鼻を啜る。優しい香りが背中を押してくれるような気がした。

    「――実は。今、カラムさんにあげるチョコレートを作っていたんです……」

    失敗しちゃいましたけど、と付け加えた声が小さくなってしまったのが、この期に及んで情けない。笑われたりしないと分かっていても、呆れられはしないかとか、がっかりさせてしまうんじゃないかとか、不安な気持ちがむくむく胸に湧いてくる。
    「あの、上手く出来なくって……ごめんなさい」
    口元を花で隠したまま、上目にカラムの表情を窺った。まんまるになった飴色の瞳が、とろけるようにゆっくりと細められていく。ほんのり朱を乗せた目尻が喜色に滲んでいるのがはっきりと分かって、逆にプライドの目が丸くなってしまった。
    「このような遅い時間まで、私のために?」
    チョコレートよりも甘い声に、返す言葉が見つからない。カラムから注がれる眼差しも声音も、自分たちを取り巻く空気までが甘ったるくて擽ったくて、それがものすごく恥ずかしい。プライドは耐えられないといった様子でさっと花束を持ち上げ、小さくなってその陰に隠れた。隠れきれない耳朶が薔薇の花よりも赤く色付いている。
    「でも、失敗してしまったので、お渡しできるものが……」
    「プライド様、チョコレートは少し残っていますか?」
    「え?え、ええ。ちょっとだけなら、あると思います」
    「私のとっておきがあるのですが、御一緒に作るのはいかがでしょうか。手間も時間もさほど掛かるものではありませんので、よろしければ」
    カラムのとっておき。
    途轍もないパワーワードだ。プライドは花の陰からパッと顔を出し、一も二もなく頷いた。
    準備をしてくるというカラムを見送って、無事なチョコレートを救出すると自室にて待機する。お菓子を自分ひとりで完成させられなかったのは残念だけれど、その気持ちは「一緒に」作る楽しみにしっかりと上書きされている。ソファに腰掛けて待つちょっとの時間が待ち遠しい。
    間もなく戻ってきたカラムは、色々なものを抱えていた。
    ワインボトルとグラスが二つ。木の匙、瓶詰めミルク。そして、ミルクパンとアルコールランプ、最後に三脚。
    「お部屋で火を使うことは、くれぐれも内緒でお願いいたします」
    ソファーの前、ローテーブルにそれらを並べながら、カラムは人指し指をひとつ立てて悪戯っぽく口端を上げた。ひそめられた笑い声が漣のように広がっていく。
    「今夜だけですよ」
    「プライド様もお口を滑らせないようにお気をつけくださいませ」
    カラムを真似て口元に一本指を立てた侍女たちに、プライドも頬を緩めて指を立てた。

    アルコールランプの柔らかな炎がミルクパンを炙る。
    小鍋の中に入ったミルクを掻き混ぜている様子は料理に違いないけれど、鍋を支える三脚のせいか、小型のアルコールランプのせいか、料理というよりも実験とか、調合と評する方がしっくりくる。慣れた手つきで火加減を調整するカラムは、もしかすると自室でこっそり料理を楽しんでいるのかもしれない。想像するだけで楽しそうだ。
    「チョコレートをひとつ、落としてくださいますか」
    言われた通りに、砕けたチョコレートをぽとんと落とした。
    懸念していたラスボスの逆チートは出ていない。料理というより実験みたいだと認識したのが功を奏したのだろうか。異常事態に陥ることなく、チョコレートはゆっくり溶けて白色の中に混ざっていった。
    茶色になったミルクに、赤ワインが注がれていく。くるくる混ぜられ、程よく温まったところで三脚から小鍋が降ろされた。
    「ホットチョコレートワインです。温まりますよ」
    手渡されたグラスに触れると、指先にじんわりとした熱が伝わってくる。ふう。そっと息をふきかけてから、熱すぎない温度のワインを口に含んだ。とろとろに甘くて、あたたかい。
    「あ、美味しい……」
    ほうと零れた感嘆の吐息に、カラムの口元が柔らかくほどける。
    「お口にあったようですね」
    ソファに並んで、ひとくちひとくちゆっくりと味わう。
    「こんな幸せな飲み物、初めてです。さすがカラムさんのとっておきですね」
    プライドが真剣な顔で唸り、カラムのささやかな笑い声が甘い香りに混じっていく。香り以上に、ふたりの空気に酔いそうだ。

    「バレンタインデーじゃなくっても、また一緒に飲みたいです。――お花も、贈ってくださってありがとうございます」
    プライドの睫毛が重たげに揺れる。夜更けの邂逅から随分と時間が経っていた。アルコールが回ったせいもあるのだろう、いつの間にかプライドの身体はカラムにぴたりと撓垂れ掛かり、今にも舟を漕ぎだしそうだ。頬に掛かった深紅の髪を指先で払い、カラムはあやすように髪を梳く。
    「ええ、また」
    「ふふ、また」
    くすくすとささやかな笑みが零れ落ちる。名残惜しさに後ろ髪を引かれるけれど、さすがに休まなければ明日に響く時間だ。おやすみなさい、また明日に、と束の間の別れを惜しむ中、マリーの落ち着いた声がココンと釘を打つ。

    「おふたりとも、お部屋で火を使うのは今夜だけでございますよ」

    贈り物の口実を探すより、王女の自室で火を使う理由を探す方が難しいようだと、プライドとカラムはまた小さく笑うのだった。
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