付き合い始めの蔵種(後編)俺は、俺が一人で勝手に舞い上がって種ヶ島先輩の家まで来たことを。誰にも知られんように、急いで駅まで走った。
早く早く、誰にも気付かれんように。息が上がって喉が焼けて、肺が燃えそうになってもお構いなしに。1ミリでも先に足が届くように、ちぎれそうになるくらいに限界まで足を伸ばして。
周りの景色は溶かしたみたいに長く伸びて、ラケットバッグが振動に耐え切れず、うるさいくらいにガチャガチャと鳴った。
そうしてたどり着いた駅のホームで、丁度到着した電車に滑り込むように俺は乗り込んだ。
「……っ、はぁ」
そこそこ混んだ列車内で、俺は激しく肩を上下させた。苦しい。電車の窓ガラスには、情けない顔をした俺の姿が映っとって。俺は窓ガラスが視界に入らんよう、視線を落として電車に揺られた。
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