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    kk_69848

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    kk_69848

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    蔵種。
    長々とお付き合いありがとうございました。
    次回は最終回となりますので、前後編に分けてアップしたいと思います。
    よろしくお願いします。

    no title2(下2) U-17代表合宿に中学生が来た日。えらいイケメンが多いやんって思いながら、俺は目ぼしい選手を探した。そん時はまだ、中学生がW杯に出られるって決まっとらんかったけど。今後徳川や毛利らと一緒に、日本代表としてやっていく奴らになるんやから気になったし。場合によっては、世話してやってもええかなとか思っとった。
     ほんで気に入ったのは、やっぱり真田やな。根性あるし、技も本人もオモロいし。あとは海堂もよかったな。まだ2年やったからあの年は代表入りせんくて、あんまり関われんかったけど。今後伸びそうやったし真面目に雑用とかやってくれそうやし、俺の1個下くらいで舞子坂におってほしかったわ。
     ほんでノスケはまぁ、安定して上手いし、落ち着いとるし。チームに一人、こういう奴がおったらええやろなって思ったけども、それだけ。真面目な奴をからかうのは好きやけど、ノスケはちょお神経質そうに見えたからあんまり関わらんかった(顔はえらい綺麗やなーとは思ったけども、ほんまに最初は全然そういう目では見てへんかったし)。
     せやけど実際はなぁ、思った以上に図太くて欲張りで、底力があって。そのギャップに完全にやられてしもたわ。そん時のW杯では、ノスケは勝てへんかったけども。でっかいモンを持ち帰って、翌年以降の大会でもえらい活躍してくれた。ナンバー2にはなれへんかったけど、どうやろ。もしもノスケが俺とタメやったら、俺とノスケのナンバーはどうなっとったんやろな。

     俺は大学1回生の夏、個人戦で優勝した。倒したいと思っとった奴らが皆プロになってしもて、優勝戴きやなって思っとったけど。ほんまにあっさりと勝ってしもて、ちょお拍子抜けしたけども。ずっと1番になりたかったから、ほんまに嬉しくて嬉しくて。嬉しかったはずやのに。その先にあったのは、俺が思い描いとった景色やなかった。
     そっからは気ぃ抜けてしもたんか、坂を転がり落ちるみたいに集中出来ひんようになってしもて。じりじりと戦績が悪なっていって。順位としてはそこまで悪ないんやけど、心情的には必死にしがみついて、ギリギリのところでようやっと踏ん張っとる感じやった。
     なんやろな。俺ってもうピークを過ぎてしもて、このまま終わるんやろかって思て。大抵のスポーツは若い方が有利。分かっとったはずやけど、まだもう少し先の話やと思っとったし。
     せやけど改めて周りを見回してみると。高校までは一緒に必死こいて練習しとった人らも、夢から醒めたみたいに引退してしもて。テレビに映る、年いっても頑張っとるプロ選手がおるんは、俺達と地続きの世界なんかやなくて。完全に断絶された別の世界なんやって気付かされて。いざ現実に直面すると心がざわついて、背筋がすっと冷たくなった。
     今年の大会は、逸材揃いと言われとるノスケ達と当たる(真田はおらんけど)。そうなったら俺ももう、どうなるか分からへん。少なくともあの輝かしいオーストラリアの夏とは、俺達の力関係は全く違ったものになっとった。
     あの年、オーストラリアから日本に帰って来て。たまたま京都と大阪っちゅう、微妙に近いとこに住んどったのが運のツキで。ノスケがテニス教えてくれって、何度も何度もうるさいから相手してやったけど。別に俺やなくてもええやろ、自分で答え出しとったやん、もう教えることないわって気持ちもあったけど。W杯中のことを思い出すと、やっぱり少し心配で。どうせ俺も大学に入るまでは時間あるし、これも今後のU-17の為やな、俺ってほんまにええ先輩やなって思いながら世話したった。
     まぁこんな関係にまでなってしもたのは誤算やったけど、ノスケみたいな奴に迫られたら大抵の奴は落ちてまうわ。中3とは思えんくらいの、大人びた見た目としっかりとした性格やのに、俺が初恋やっていうくらい純情で。付き合うのは初めてでも初恋とか絶対嘘やろって思ったけど、どうやらホンマらしくて。全部が一生懸命で、俺もつられて胸がキュンキュンしてしもて。恋愛って楽しいなって気持ちを思い出させてくれた。
     せやけど従順かと思っとったら、俺の元カノのこととかでキレるし、俺がスケベ心を出してもキレるし、俺のこと負かすとか言うし。全然俺の思い通りにはならんかったけど、そこがえらい癖になってもうて。色々あったけど、ほんまにオモロい奴やし楽しかったわ。

     俺はあの頃二人で通ったコートが懐かしくなって、スマホを手に取った。せやけどその写真のデータがもう入ってへんことを思い出して、スマホを元の位置に戻した。空いてる方のベッドに寝転がって、隣のベッドで眠っとるノスケを見る。すうすう眠るノスケの左手の薬指には、金色に光る指輪がちらりと見えた。
     俺は何もはまってへん、俺の左手を見た。最近は焼いとる時間もあんまり無いし、昔より肌の色も薄なったと思う。俺の肌に合うと言ってノスケがくれた金色の指輪。あれを俺がしとらんことに対して、ノスケは何も言わへんかったけど。不安に思っとるんやろなっていうのは、ひしひしと伝わってきとった。俺があの指輪をしたら、きっとノスケは喜ぶし安心する。だから俺はあの指輪はもう、捨ててしもたわ。
     指輪だけちゃう。手紙や第2ボタンやプリクラや、形のあるものは全部捨てたし、写真のデータも全部消した。
     写真はちょお惜しかったな。俺のスマホん中のノスケの写真フォルダを見れば、最初はぎこちない顔で写っとったけど、だんだん柔らかい笑顔になっていって、最終的にドヤ顔になっとるのがほんまにオモロかったけど。そないなデータを持っとるから、俺も人に「彼氏や」言うて見せびらかして、ノスケの負担になることをしてまうから。俺も悪かったなって思て反省して、全部消したわ。
     そうやって何もかも捨てても、ノスケ本人は捨てられんくて。俺はこうして、今ここにおる。ほんまに情けない。俺はもう、あの指輪が似合う男やなかった。

     思えば大学1回生のあの夏の日、負かしてくれるって言うたノスケに、俺は負けとけばよかったのかもしれへんな。俺もついムキになって勝ってしもたけど、あそこで引導を渡してもらっておけば、俺のテニス人生も綺麗に幕を閉じることが出来たのかもしれへん。引き際って大事やん。
     この間の大会なんて最悪やったわ。毛利に負けてしもたのに、悔しいって気持ちが全然湧いてこんくて。周りは励ましてくれたけど、当の俺は遂にかって思うだけで、なんの感情もなくぼーっとしとるだけやった。
     そもそもノスケと付き合い始めたタイミングが悪かった。俺のテニスが一番上手くいっている時に、俺達はテニスを切っ掛けに付き合うてしもた。
     俺のテニスの腕と、俺という人間自体を混同して、キラキラした目で見詰めてくるノスケが、いつか目を覚ますやろうということは分かっとった。いつかテニスで俺と肩を並べたり、追い越していくことやってあるんやろなって、分かっとるつもりやった。
     せやけど現実は無情で、俺が一人で勝手にテニスを見失って、一人で勝手に抜け出せんくなっただけやった。
     真田はほんまに偉いわ、真っ直ぐにプロになって。プロはなぁ、なるだけやったらなれるけど、その先がな。そらほんまに上位の人らの賞金額はすごいけど、一部の人しか食べてけへん厳しい世界や。
     そもそも俺、飛行機乗られへんし。プロやなんてどんどん世界中の大会に出て、どんどんランキング上げてかなあかんのに、国内の大会しか出られへんとか無理やしな。もしくは船で飛行機並みに早く移動出来たらええんやけど。まぁ無理な話やし、ほんまに俺には縁のない話や。
     せやけどこれまでずっとテニスを続けとったのに、いきなりテニスの無い生活とか寂しいし、耐えられへん。ほんでこれからのことを考えると、テニスと関わりのある仕事も他に色々あるし、俺って結構コーチとかも向いとると思うし。そういうのもええかなって考えとったけど、やっぱり俺はまだ人のサポートに回るんやなくて、自分でテニスをしたい。
     せやから俺、実業団に入ろうかと思っとる。ありがたいことに、今の俺の成績でも声を掛けてくれとる企業もあって。どこかの実業団には入れそうやなって感じにはなっとる。
     ほんまのことを言うと今日東京に来たのも、明日この近くの会社の面接が入っとるからなんやわ。俺、こっちで就職しようと思っとる。ノスケにはまだ、言うてへんけど。
     夢の国に行かへんやろなって怪しまれとったけど、夢どころやないんやなぁ。現実や現実。
     俺がこっちで就職したら、例えノスケが俺を追って東京に来たとしても、大阪の薬学部を卒業するまでに5年は遠恋になる。5年とか無理やろ。俺達が出会ってから今までよりも長い時間や。そんなん続く訳がない。卑怯に思われるやろうけど、その5年で疎遠になって自然消滅したらええなって思っとる。
     何やったらノスケも大学生になったら忙しなるし、新しい出会いもあるやろし。今、疎遠になってくれてもええなって思て、ノスケには前々から少しずつ冷たくしとる。幸いノスケは、俺を抱いたことはあっても抱かれたことはないから。俺と別れても、上手く女の子と付き合えるやろう。誰にでも堂々と紹介出来る、可愛らしい女の子と。

     俺はひとしきり物思いにふけってから、間接照明の明かりを落として目をつむった。ふと、平等院の持っとった優勝トロフィーが頭に浮かぶ。俺はその姿を、明日の経路とか、こっちに住むんやったらどこに部屋借りよかとか、これからの雑多なことで塗り潰した。
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