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    ruruyuduru

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    エンエイ。だいぶ絆されているエイトと、完全に片想いだと自覚しているエンテンが獣棋(ボードゲーム)で勝負する話。

    ##エンエイ

    なかったことにされる夜太陽の都の首長が暮らす豪華な邸宅。屋敷の主の寝室には、腕のいい職人が手掛けたランプが灯されている。温かみのある色をした明かりが醸す柔らかな雰囲気の中、ふたりの男が小さなテーブルを挟んで対峙していた。
    部屋の主であるエンテンは余裕綽々といった表情でグラスに入った酒を堪能している。その一方で、彼の客人であるエイトは卓上に置かれたゲーム──獣棋の盤上を難しい顔で睨みつけていた。その眉間には、深い皺が刻まれている。
    ふたりは今、真剣勝負の真っ最中だ。【負けた方が勝った方の命令をひとつ聞く】という条件のもと。エイトの表情が物語っている通り、戦局は明らかにエンテンが優勢にある。序盤から中盤まではいい勝負をしているように思えたが、それさえも相手の思惑通りだったのかもしれないと、エイトは密かに歯噛みする。
    「……おや、もう降参かな?」
    「気が短いやつだな……もう少し待てよ、形勢逆転の一手を見付けてやる」
    「それは楽しみだ」
    エンテンは満足げに鼻を鳴らすと、見事な手腕で奪った駒のひとつを長い指で弄び始めた。エンテンの部屋にある獣棋盤は、初めてこのゲームに興じた日に使った物とはまったく異なる作りをしている。強盗の標的にされたという数奇なきっかけで親睦を深めることになった少年が持ってきた獣棋盤は、装飾のひとつもない素朴なものだった。
    しかし今ふたりが使っているものには、美術品と言われても遜色のないデザイン性がある。上品な光沢があって触れるとひんやりする、大理石のような素材で作られているゲーム盤。そのうえに置かれた駒も、宝石のように艶々と輝いている。
    エスターとエンテンの絢爛豪華な邸宅を行き来しているとはいえ、エイトの一般的な金銭感覚は今もなお健在だ。もしかしたら本物の宝石なのかもしれないと思い至った瞬間には、「傷を付けたらどうしよう」と背筋をヒヤリとさせたものだった。とはいえ、エンテンにとっては調度品の位置付けだ。わざと破損させない限りは口煩く文句を言ってこないだろうと思い直して以降は、目の前の勝負に集中している。もとより負け惜しみを言うつもりはないが、「気が散って冷静に考えられなかった」と自分に言い訳することもできないというわけだ。
    負け惜しみを言うつもりはない──それはつまり、エイトがもともと負けを視野に入れていたことを意味している。
    そもそも初めて遊んだ時点で、手加減を知らないエンテンにコテンパンにやられていた。エスター邸に戻ってからも使い魔や眷属たちと勝負することもあるにはあったが、相手は傾いていた国ひとつを立て直せる頭脳と、物事の先を見通す鋭い目を持ち合わせた男。多少の経験を詰んだぐらいでは、この知略的なゲームでエンテンに勝利するのは難しいだろう。現時点での実力差は、誰よりもエイトが理解している。
    途中放棄はしなかった。打つ手がなくなるまで必死に食らい付いた。さらに言えば、エンテンを唸らせる手を一度ならず二度も繰り出した。負けはしたものの、エイトの中に悔しさはない。整いすぎた顔に勝ち誇った笑みを向けられた瞬間は、さすがに拳を握り締めずにはいられなかったが。



    十中八九負けるとわかっていたうえで獣棋での勝負に応じた。さらには、エイトみずから不利な賭けまで持ちかけた。それは久々に会ったエンテンが、ひどく疲れた顔をしていたからに他ならない。なんでもひとりで抱えがちで、仕事だけでなくストレスまで溜め込んでいるのだと察するのは容易い。ただ、八雲やガルにするように甘やかしてやるのは抵抗があったし、たとえエイトがみずからの葛藤を振り切って行動を起こしても、エンテンが大人しく甘えてくるとは思わなかった。
    だから気分転換を兼ねた勝負をしたうえで、エンテンのわがままをひとつぐらい叶えてやろうと思ったのだが。頭も勘もいい青年は、エイトの最大限の譲歩に気付かない。わかったうえで情けなどいらないと素知らぬ振りを決め込んでいるのかもしれないが、エイトにエンテンの真意を知る術はない。
    「君にしてもらいたいことはもう決まっているんだ」
    「へいへい。好きなだけご奉仕してあげますよ。口でする? それとも……」
    自分の勝利を確信していた口振りに、思わず不貞腐れた態度を取ってしまう。それ自体はいつものことだが、今日のエンテンは眉をつり上げて、明らかに怒った顔をした。
    「それだ。今夜はその口を閉じてもらう」
    「んぐ!?」
    エンテンの人差し指がエイトの唇を押さえつける。想定外の行動に戸惑っているエイトを睨みつけながら、エンテンは深い溜息を吐き出した。
    「まったく、すぐに品のないことを言う……」
    嫌いじゃないくせに。俺の明け透けな物言いでお前のチンコがでかくなるって知ってるんだからな。それ以外にもいろいろと思いはしたが、エンテンの人差し指に従って、大人しく唇を引き結んでいた。エイトが舌でぺろりと舐めでもすれば、その指はすぐに離れていくと知ったうえで。
    「……君に憎まれ口を叩かれると、私もついムキになってしまう。たまには最後まで黙って話を聞いてくれ」
    言葉を奪うために伸ばされた指が、エイトの唇をひと撫でする。その優しい手付きは、エイトの背筋をざわつかせる。「何の話だよ」「内容次第では今までも大人しく聞いてやっていたと思うけど?」そんな思いを胸にエンテンを睨み付ければ、小さな溜息が降ってきた。特に何も言われなかったが、喧嘩腰の態度を咎められたのだろう。
    嫌な予感がしている。ならば逃げればいいと頭ではわかっているのだが、なぜか唇だけでなく、全身が硬直したかのように、エイトは身動きを取れずにいた。沈黙や拘束の魔法をかけられたみたいだ。エンテンなら出来なくもないのかもしれないが、あくまでもエイト自身の問題で、実際に何かされたわけでないことも理解していた。
    「さて、それでは君を口説かせてもらおうか」
    君が何も言えないなら拒絶もされなくて済むからね、と。決して受け入れられないと確信したうえでの発言に、エイトは密かに苛立ちを覚える。何もかも見透かされているのだ。少なくとも今の時点では、エンテンの気持ちに応えるという選択肢がないことも。首を横に振るとか紙に文字を書くといった手段を使ってまで気持ちをはね退けはしないことも。
    一方的に言いたいことを言って気が済んだら、エンテンは何事もなかったような顔でこの夜をなかったことにするのだ。エイトの心のあちこちに、無数のしこりや棘を植え付けて。







    2022.05.26
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