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    ruruyuduru

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    エンエイ。エンテンのお誕生日に間に合わなかったけどお祝いの気持ちだけはこめまくった。

    ##エンエイ

    especially for you.クライン大陸には、エイトがもといた世界で定番だった食材があったりなかったりする。
    それから、味や食感がそっくりの別物や、初めて見聞きする植物や魔物の肉──いわゆるファンタジー食材も数多く存在していた。
    そして今エイトの目の前には、誰にとってもお馴染みの小麦粉と、トマトソースみたいな味のする調味料、味も食感も豚肉を彷彿とさせる何かのミンチ、四本足の見慣れない動物のミルクとそれを原料として作られたチーズ、あとは見覚えがありそうでなさそうな数種類の野菜やスパイスなどが置かれている。
    エイトがいる場所は、エンテンの屋敷の厨房にいる。本来は他所からやってきた人間が立ち入れる場所ではないのだが、使用人の大半に“主の特別なお客様”と認識されているエイトはいともあっけなく許可を得た。
    エンテンに料理を作りたいと包み隠さずに打ち明けたにも関わらず。それはつまり、エイトがエンテンに毒を盛るなどあり得ないと誰もが認識しているということだ。
    とはいえ、エイトは決して料理上手と自負しているわけではない。より正確には、どちらかと言えば苦手とさえ思っている。
    もとの世界にいた頃ならともかく、この世界には電子レンジやクッキングヒーターはもちろん、便利グッズの類も、つまみを回すだけで火力を調節できるガスコンロさえ存在していないのだ。
    包丁で野菜の皮を剥くのにさえ苦戦するエイトにとって、この世界で料理を作るのはなかなかにハードルの高い行為である。
    それでもあえて挑戦しようと決めたのは、エンテンが物より思い出を重要視する印象を受けたからに他ならない。誰かが自分のためにしてくれたことを、一緒に食べた料理を、その味や温かさを、そして差し出された気持ちを受け取って大切にしまい込んでいるのだと、おのずと想像できてしまったのだ。
    経験を重視するという点だけを考慮すれば一緒にどこかへ出かけるという選択肢もあるにはあるが、別の世界からやってきたエイトが、クライン大陸で生まれ育った人間をエスコートするのは無理がある。
    エスターに相談すれば、あるいは書庫にある本を読み漁れば、絶景スポットや有名観光地のひとつやふたつは見付かるだろう。
    しかし観光や旅行の計画を立てたところで、肝心のエンテンの都合がつかなければ意味がない。自分自身の誕生日ですら、いつもと変わらず政務と鍛錬に明け暮れていた男だ。気軽に連れ出せないことは重々承知していたし、もし仮にいい返事をもらえても、自分のために無理をさせてしまったという罪悪感がつきまとうのは目に見えていた。



    どんなに忙しくても、基本的にエンテンは食事を抜かない。日々の鍛錬をしっかりこなして十分な食事を摂ることで健康な身体が作られる──エイトの世界における常識を、正しく理解して実践しているのだ。
    だからエンテンのために、身体作りに重大な栄養素のひとつ、つまりたんぱく質が豊富なメニューを作ることにした。
    とりあえず肉、あとは乳製品とか卵とか。過去に関係を持った筋肉自慢の男たちに聞いた話を思い出しながら、必要な食材を紙に書き出した。エイトが次にしたのは、それらの食材をふんだんに使って、なおかつこの世界に来てからは食べたことのない料理を考えることだった。
    そして閃いた。ラザニアを作ろうと。見た目には豪華だし、作業としては平べったいパスタとソースを交互に重ねていくだけだし、どうにかなるだろうと結論付けた。
    作りたい料理の完成予定図を描いて、材料や味の説明をして、エンテンの屋敷の料理人に相談して、必要そうな材料を出してもらったまでは良かったが、ここにきてエイトのあてが外れた。
    すでに成形されて茹でるだけとなったパスタを入手できるつもりでいたのだが、それらしいものは見当たらない。つまり小麦粉から自分で作る必要があるということだ。
    瞬時にしてエイトは弱気になった。やっぱり無理です、失礼しました。そんな捨て台詞を残して厨房から逃げ出してしまいたい。
    それができなかったのは、料理人たちが期待に満ちた目でエイトを見守っていたからだ。たとえエイトが料理を作ったところで彼らの負担が減るわけではないし、むしろ余計な仕事が増える可能性が高い。それでもエイトがエンテンに料理を振る舞うという行為に、屋敷の人々の気分までもが浮かれていた。
    だからエイトは腹を括った。やるしかないと自分に言い聞かせて。もとより力不足は承知している。すべてを自分ひとりでやる必要はない、とりあえず食べられる物を作ろうと、周りの協力を得て、どうにかそれらしいものを作るところまではこぎつけたのだが。



    「……あちゃー、火加減を間違ったか」
    パンやケーキを焼くのに使われる窯でしばらく焼いたラザニアを取り出したときには、見るも無残な姿になっていた。
    端的にいえば、黒焦げである。幸いまだ材料は残っている。失敗を踏まえて今から作り直せば、エンテンの食事の時間には間に合うだろう。
    すぐに気持ちを切り替えて、エイトは再び調理に取り掛かる。しかし、さっきまで快く手伝ってくれていた料理人たちは微動だにしない。
    「まあ、呆れられても無理はないよな」と溜息をひとつ吐き出して顔を上げた瞬間に、エイトもまた硬直する。視線の先に、エンテンが立っていた。形のいい眉を寄せた不機嫌にも見える表情で、厨房の中を見渡している。
    「何やら焦げ臭いと思って様子を見に来たが……これはいったいどういうことだ?」
    「えーっと……とりあえず皆のことは怒らないでやってくれ。俺が厨房を使いたいって頼んだせいなんだ」
    委縮する料理人たちとエンテンの間に割って入るようにして、エイトは弁明する。
    黙っていろとでも言われるかと思ったが、エンテンの注意はエイトひとりに向けられた。
    「君が? いったいなぜ……」
    エンテンの訝しむような眼差しを受けて、エイトは困ったように頬を掻いた。君の滞在中は質も量も十分な食事を摂らせているつもりだが、何か不満でもあるのか。そんな心の声が聞こえてくる気さえする。
    「お前に俺のいた世界の料理を作ってやろうと思ってさ。まあ、失敗しちゃったんだけど」
    特別な思い出を作ってやりたかった。それから、存外好奇心が旺盛な彼に、自分のいた世界のものを教えてやりたい気持ちもあった。なかなか思い通りにはならないし、この様子だとリベンジのチャンスをもらえるかどうかも危ぶまれる。
    「君が、私に……」
    エンテンは独り言のような声で呟くと、調理台のうえに目をやった。そこには表面が真っ黒になった失敗作が置かれていて、香ばしいの範疇には留まらない独特の異臭を放っている。
    「もう少し料理の練習をしておけば良かったなあ」とエイトがほんのわずかな後悔を胸にひとり反省している間に、エンテンは調理台へと近付いていく。
    そしてあたりを見渡して、目に入った一本のスプーンを手に取ると、立ったまま、しかし育ちの良さをうかがわせる美しい所作で、料理の表面をひと掬いする。
    表面を覆う黒い膜の内側から白いソースが見えてきた瞬間に、エイトはハッと我にかえった。ひとまず視線の先にあったエンテンの手首を掴んで物理的に動きを阻止すると、上手く回らない頭で考えついた制止の言葉を口にする。
    「俺が食うから!!」
    貧しい土地だと知っている。一日に一回の食事にすらありつけない人間が数多く暮らしていることも。だからこそ食べ物を無駄にすることは許すまいとして、突飛な行動に出たものだと思ったのだ。
    しかし実際のところは違ったらしい。わかりづらくはあるが、エンテンの頬、さらには目元や耳さえも薄らと赤くなっている。
    「うるさい! これは君が私のために作った料理なのだろう。誰にもくれてやるものか」
    そう言うが早いか、エンテンは手首をつかむエイトの手を振り払った。性急に、けれども決して乱暴ではない動きで。
    「なっ……お前」
    すっげえ恥ずかしいこと言ってるぞ。真っ先に頭に浮かんだ言葉は、どういうわけか声にならない。実際のところは自覚している。エイトもまた、エンテンのいつになくストレートな殺し文句にすっかりやられているのだと。
    心なしか、料理人たちにも生温い視線を向けられている気がする。その実感が、エイトの羞恥心に拍車をかけた。
    人前でこんな恥ずかしい思いをさせられるぐらいなら、ふたりきりの部屋の中で「愛してるよ」なんてリップサービスしてやる方がよっぽどハードルが低いかもしれないな、と。
    行き場を失った手と想いを誤魔化すべく、エイトが耳たぶをつねっている間にも、皿の中身はどんどん少なくなっていく。
    最終的に残ったのは、黒くて苦い塊と、どうしようもなく甘酸っぱい気恥ずかしさだけだった。






    2022.08.11
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