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    ruruyuduru

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    ruruyuduru

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    エンエイ。エイトさんお誕生日おめでとうございます!
    誕生日の数ヶ月前ぐらいの時期を想定。エンテンの願いとエイトさんの決意の話です。
    もともと予定していた話を書いている途中で検定60とクラインスターを浴びてしまって……エンエイは最高だなぁの気持ちで軌道修正を頑張りました。

    ##エンエイ

    未来を切り開く光を太陽の都の首長を務めるエンテンは、自分にも他人にも厳しい男である。法を犯せば年端のいかない子供にも厳しい刑罰を与えるし、武器の握り方もなっていない少年兵にも敵は容赦なく殺せと要求する。
    知り合って間もない頃、エイトの目にはエンテンが冷酷無比な独裁者に見えていた。自分がエンテンのやり方を嫌うのと同様に、彼が定めたルールに反感を覚える民は少なくないだろうとも考えていた。
    しかし表立ってエンテンを疎んじているのは、街の周辺で悪事を働く盗賊たちぐらいのものである。かつて本人に向かって「俺はお前が嫌いだ」と言い放ったエイトさえ、交流を続けていく中でエンテンの可愛らしい一面や不器用な優しさに気付くたび、密かに好感を募らせている。その事実をエイトが素直に認めるかどうかはまた別の話になるのだが。
    いずれにしても、エンテンは美しい容貌やカリスマ性、それから為政者としての才覚といった目に見える部分以外にも数々の魅力を備えている。だからこそ彼は太陽の都の統治者として、多くの民に支持されると同時に慕われていた。エイトが話題の食べ物や珍しい工芸品を目当てに街をぶらついているだけでも、彼にまつわる噂が自然と耳に飛び込んでくる程度には。
    近頃は大陸の東から運ばれてきた果物を好んで食べていること、ならず者に襲われていた行商人を単身で救い出したこと。そして、今や太陽の都を象徴する存在となったエンテンが夏の盛りに生まれたこと。
    その話を耳にすると同時に、エイトの脳裏には件の人物の姿が鮮明に浮かび上がる。燃えているように揺らめく赤い髪、そして陽光の寵愛を受けたかのような褐色の肌。なるほど、夏生まれとは実に彼らしい。ひとり納得したエイトは、その日の夕食の席で耳に挟んだ内容──つまりエンテンの誕生日について詳細を尋ねることにした。正確な日付については軽く聞き流した(少なくともエイト自身はそういう体を取ったつもりでいる)し、具体的な過ごし方に関しては、貴族のエドモンドと同様にいろいろ面倒なしがらみがあるらしいと認識するに留まった。
    会話の途中で何かを言い掛けたエンテンが、「いや、何でもない」と言ってそのまま押し黙ってしまったせいで。とはいえ、これまでの会話の流れを踏まえればエンテンが呑み込んだ言葉、もとい質問を察するのは容易い。自身の誕生日を明かした流れで、エイトの生まれた日を尋ねようとしてやめたのだ。それはもちろん、エイトに「自分も孤児だった」と打ち明けられた事実を覚えているからに他ならない。
    この世界では、物心つく前に親を亡くしたり捨てられたりして、自分の誕生日を知る術を持たない子供も少なくないのだろう。嘆かわしい現実を知っているからこそ、エンテンはあえて踏み込まないことを選んだのだ。平然とした態度で他の話題を振ってくれたら、エイトとしても軽く受け流せただろうに。エンテンが難しい顔をして押し黙ってしまうから、嫌でも彼の思慮深さと不器用な優しさに気付かざるを得なくなる。
    とはいえ、エンテンの心配は杞憂でしかないのだが。エイトが生まれ育った世界とクライン大陸では、様々な面でだいぶ事情が異なっている。少なくともエイトが育った孤児院では、すべての子供の名前と誕生日が名簿に記載されていた。実際に生まれた日とは多少の誤差があるかもしれないが、公的な証明書の生年月日の欄にも「6月17日」と記載がある
    だからもしエンテンに誕生日を問われても何も問題はない。自分から打ち明けてやっても良かったが、エイトはあえて何も言わないことを選んだ。
    今のエンテンは、“名義上の主人”としてではなく、エイトという個人に興味を抱いている。そして恐らくは、好意的な感情も。それを証明するかのような穏やかで優しい沈黙の中で、エイトは密かに心をざわつかせた。
    ともすれば緩みそうになる唇を必死に引き結んでいるエイトを他所に、エンテンは何やら考え込んでいる。もうエンテンの関心は、エイトの誕生日とは別のことに向いているのかもしれない。安堵とも落胆ともつかない想いを胸に、エイトはエンテンを盗み見る。
    考え事をするときの癖なのだろうか。口元に指をやる仕種が妙に色っぽくて様になる。その身に刻んだ紋様を除くすべての装飾を取り去った手で触れられたことを思い出して、エイトの肌は粟立った。
    知り合って間もない頃の冷めきった眼差しや突き放した態度が嘘みたいに思える。かつてエイトの拳を軽々と受け止め、骨を砕きかねない力強さでその腕を握った男の手付きもまた、以前とは別物になっていた。
    近頃のエンテンからは、以前の粗雑さがどんどん失われている。強引に付き合わされた鍛錬中に姿勢を正されたり、水を手渡されたり、背中や肩を軽く叩いて褒められたりするたびに、彼の手指が触れた部分から、じわりと熱が広がっていくような心地を覚えるのだ。
    それはセックスの最中も例外ではない。エンテンは実に物覚えが良く、手先も器用だ。エイトの指導の甲斐あって、その技巧は上達の一途を辿ってはいるが、テクニシャンと言ってやるにはまだ早い。そう思う気持ちとは裏腹に、近頃のエイトはこの年下の青年の拙いスキルを笑い飛ばせなくなってきていた。
    動きが洗練されてきたわけではない。むしろ、遠慮や躊躇いが前面に出てきたことで、以前の勢いは損なわれた。強引に性感を高めるような動きにもそれはそれで味があったのだが、近頃のエイトは彼が不意に見せる優しさと健気さに、すっかり参ってしまっている。普段の自信に満ちた高慢な態度とのギャップも相まって、胸と腹の奥とが思わずキュンとしてしまうのだ。
    エイトがしばらく振りに太陽の都を訪れた夜──つまり昨夜の情事を反芻して、エイトは熱っぽい吐息を漏らす。身体の奥底に生じた情動を紛らわすために。今ふたりがいるのは食堂だ。冷たくて甘い食前酒から始まって、この地域の伝統料理を心行くまで味わった余韻の中で、のんびりと会話を楽しんでいたのだが。
    空になった食器がすべて下げられた今、傍に控えていた給仕たちの姿はない。ふたりきりの部屋の中、エンテンはずっと黙り込んでいる。手持無沙汰なせいで余計なことを思い出してしまったのだと、エイトは視線の先にいる男を睨みつけた。
    エイトとしては、不満と怒りをあらわにしたつもりである。しかしその視線に気が付いたエンテンは、唇をふっと綻ばせた。そして非の打ちどころのない微笑みを浮かべると、おもむろに口を開いてこう言った。


    「私の部屋に行くぞ」


    エンテンの言葉を聞いた瞬間、エイトはみずからの情動を気取られたのだと確信した。睨みを利かせたつもりが、物欲しげな視線として受け止められてしまったのだろうとも。不機嫌に徹しきれない自分に呆れはしたが、意地を張るのも馬鹿らしい。たまには素直になるのも悪くないと開き直って、エンテンの言葉に頷いた。そして席を立った彼と並んで廊下を進む中、ふたりで過ごす夜への期待をゆっくりと着実に募らせていたのだが。
    「しばらく待っていてくれ」
    「は?」
    エンテンは自室に入るなり、エイトを寝室に迎え入れるどころか、来客用のソファに座らせた。そして隣や向かいに腰を下ろすでもなく、そのまま部屋の奥に姿を消してしまう。「今のは完全に部屋に入るなりなだれこむ流れだったよな!?」とエイトが苛立ちと困惑が入り混じった思いでいるとも知らないで。
    いっそこのまま宛がわれた客室に戻ってしまおうかとも考えたが、食堂で目にしたエンテンの表情が気にかかっていた。何か思い悩んでいるのだろうか。祭壇や眷属の契約に関わる問題を抱えているとしたら、不貞腐れて立ち去るわけにもいかないだろう。
    責任感という枷に阻まれて、大人しくソファで待つことしばらく。「待たせたね」という声がしたほうを振り返ると、やはり難しい顔をしたエンテンがすぐ近くに立っていた。その手には、一本の短剣が握られている。知り合って間もない頃なら、殺される恐怖を味わったのかもしれないが、今のエイトは呑気なものだ。エンテンに殺意があるのなら今頃は身体に刀身が突き刺さっていたはずだし、そもそも声をかけてもこなかっただろう。
    特に意識したことはなかったが、エイトはエンテンという男をとっくに信頼しているのだ。でなければ、容易く自分を殺せる相手を激昂させかねない不満や冗談を口に出せるはずもない。
    とはいえ、武器を向けられるいわれはない。エイトはエンテンの顔と彼が手にした武器を交互に見比べる。質のいい武具の蒐集を趣味とする彼に、何度か似たような短剣を贈ったことがある。気に食わなかった物を突き返されたのかとも思ったが、そういうわけでもないらしい。武具の類にまったく造詣のないエイトの目にも、その武器の特別さは明らかだった。
    「……なんだよ、そんな物騒なものを持ち出してきて」
    「私のコレクションのひとつだ。君にあげよう」
    その言葉が終わるや否や、エンテンは手にした短剣をエイトの膝のうえに置いた。エンテンは片手で軽々と持っていたが、金属製の──生き物を傷付けるために作られた武器はずしりと重い。金や銀や宝石で装飾された鞘を外したところで、おもちゃの剣のようには振り回せないだろう。エドモンドに剣の扱い方を学んだこともあるにはあるが、実戦で通用するレベルには到底及ばない。
    自分の好きな物をプレゼントしたい。その発想自体はエイトにも理解できる。美味しい物を食べたり、面白い本を読んだりしたときは、特別な相手と同じ感動を分かち合いたくなるものだ。とはいえ、それはあくまでも「あいつならわかってくれる」という信頼ないし期待があって初めて成立する。エンテンのコレクションを見学するだけならともかく、自分で武器を所有したいとか、ましてや振るいたいと思ったことはないに等しい。
    「よりにもよって、どうして俺にダガーなんか……」
    「君にこそ必要なものだ」
    エンテンの感性を否定するつもりはない。それでも唇から零れ落ちた困惑混じりの本音を、エンテンは耳聡く拾いあげた。
    「俺に必要? なんでだよ」
    「私は……いや、他の眷属たちも、常に君の傍にいて守ってやれるわけではない。君自身で身を守る手段があったほうがいい」
    エイトは息を詰まらせた。眷属たちが傍にいてくれてもなお、死にかけた瞬間を思い出す。魔獣の群れに襲われたとき、大型の魔獣の鋭い爪が、牙が目の前に迫ったときの無力感が蘇ってきた。それから、皆の前で「自分の身を守る力が必要だ」と話したことも。
    あのときはまだ、エイトとエンテンに面識はなかった。苦い経験をエンテンに打ち明けてもいない。しかしエンテンは、事あるごとにエイトを鍛錬に連れ出した。その心と身体を鍛え上げるために。いつ誰に命を狙われるともわからないエイトが、生き延びる可能性が高くなるように。そしてエンテン自身が、エイトを失いたくないと望むがゆえに。
    「……そっか」
    エイトはこれまでの行いを反省する。このままでは駄目だと頭では理解しているのに、実際は暑いのも痛いのも苦しいのも嫌だと弱音を吐いてばかりいる。どれだけ魔力が豊富でも、魔法が使えなければ意味はない。頼れるのは自分の身体しかないのに、隙あらば手を抜きたがる自分を恥じた。
    深呼吸をひとつして、エイトは鞘から銀の刃を引き抜いた。エンテンのコレクションはすべて、見た目の美しさと実用性を兼ね揃えていると聞いている。この刃で誰かを切りつけたら、その身体には深い傷が刻まれるのだろう。そして心臓を目掛けて一突きすれば、命さえ奪えるに違いない。
    エイトは背筋を震わせる。自分が生き延びるためとはいえ、誰かを傷付けたり殺したりする覚悟はなかった。エンテンが片手で軽々と持ってきた短剣は、エイトの手には余る代物だ。重すぎる。その刃も、誰かの命も。もし仮に窮地に陥った際にこのダガーを持っていたとしても、鞘から引き抜ける自信がない。たとえ敵に刃を向けるに至っても、実際に相手を傷付ける段階になったら躊躇してしまう。エイトはさらに想像する。その先に待ち受ける未来を。エンテンからの贈り物が敵の手に渡った挙句に、その刃によって自分が殺される。そんな最悪の事態を想像した瞬間に、エイトは心の底から「嫌だな」と思った。もしそんなことになったら、エンテンはきっとエイトに短剣を贈ったことを後悔する。そのせいで彼の基盤が──絶対の自信が揺らぐ事態になったら、あまりに後味が悪すぎる。
    エイトは思う。自分の想像をすべて打ち明けたら、自惚れすぎだと鼻で笑われるだろうかと。とはいえ、あながち間違いでもない気がして、結論だけを口にする。



    「やっぱり受け取れないよ。お前のコレクションってことは、貴重な物なんだろ? ただ……」
    エンテンの贈り物を辞退する言葉を述べながら、エイトは膝のうえで両手を動かす。そして柄の部分にきつく巻かれていた革紐をやっとの思いで解すと、それだけを手の中に握り込む。
    「これだけはもらっておくな!」
    そう言ってエイトは、手に握った革紐をエンテンに見せながらニカッと笑う。ダガーを贈ろうと思い至ったのはついさっきのことで、前々から準備していたわけではないはずだ。コレクションの中からエイトでも扱えそうな物を選んでくれたに過ぎないのだろうが、奇しくもその先端には色違いの──彼の目の色によく似た青緑色と深紅の丸い石が結び付けられていた。
    「これがあれば、離れてるときも多少は鍛錬を頑張れそうだからさ。なんていうか、お前に見張られてる感じがするし……」
    せっかく選んだ贈り物を突き返されて少なからず落ち込んだらしい。エンテンは浮かない顔をしていたが、エイトの言葉を受けて普段の調子を取り戻す。
    「ふっ、どうだかな」
    「その顔……信じてないだろ。見てろよ、次回までにもっといい身体になってやるからな」
    挑発的な笑みを浮かべる端正な顔に見惚れそうになりながら、なんとかエンテンの言葉に反論する。お前の──エンテンの“名義上の主人”に相応しい俺になってやる。そんな本音を打ち明けることはしなかったが。
    努力の成果を見せるときは、ビフォーアフターを比較するのが手っ取り早くてわかりやすい。だからエイトは、自分の服に手をかける。今この瞬間の自分の姿を、そして肌の手触りを、エンテンの瞳と身体にしっかり焼き付けてやるために。








    2022.06.17
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