とある女性の独白春も近づく心地よい陽気を感じながら、その人は庭のベンチに腰掛けていた。田舎の2階建ての一軒家、手入れされた庭の片隅にはいくつかの野菜が育っており、家庭菜園もあるようだ。鳥の囀り、風に吹かれた木々のざわめきが聞こえると同時に家の方が少しさわがしい。窓も扉も大きく開かれ、箒や掃除機をかける音が混じってくる。そんな自然の音と人工の音をまるで旋律のように楽しみながら、彼女は本をゆっくりゆっくり読んでいるようだ。
「おおばあちゃん」
小さな子どもに呼ばれ、彼女は顔を上げる。白に染まった髪色、眼鏡越しの目尻には年数が刻まれた皺。彼女が長く生きてきた印である。
家から聞こえる騒がしい旋律は引っ越し後の荷解きや掃除の音だ。片田舎に独りで暮らす老女を心配して孫息子夫婦たちが引っ越してきたのである。埃が舞ったり、重いものを運んだり、作業することがたくさんあるので、庭にいてくれと言われたのだ。
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