第一回【ゲッコウクラゲのダンス】あいつはどんな顔をしていたっけ。
ゲッコウクラゲのダンス。どうしてこんな風習ができたかは興味ない。いつもだったら寝静まるこの町で人が海に集まるイベントだ。まだ暑さが残るこの季節の海は、正直長居はしたくはない。行く予定はなかったけれど、サクラが俺と見たいというものだから来てしまった。…甘い自覚はある。
でもまあ、昼間のイベントよりは、好意的ではある。
あの夜。クラゲが海から漂ってきては人工的な明かりを反射させた。その先にはあいつがいて、青い光に照らされていたのを覚えている。
男にこんな感情を抱くのは初めてだった。いつも晴れた空のような瞳は深い海のようなそれに変わり、しかし子供のように輝いていた。陳腐だけど宝石のようだと、波のように漠然と思った。
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