名月『今夜は月が綺麗ですね』
『しみゅれぇたぁでの無粋な形ではあれど今宵は暦の上では十五夜。お月見を楽しむと致しましょう。』
カルデア内シミュレーションルーム。藤丸立香はサーヴァントの1人蘆屋道満に誘われ隣同士に並び共に月を眺めていた。
『此方にエミヤ殿特製の月見団子もご用意致しましたぞ』
小ぶりながらもピラミッド型に積まれた団子が道満の手にあった。道満が持つと更に小ぶりに見える。
「わ、可愛い♪」
立香が喜びの表情を見せる。
『月見とは当初は平安貴族が月を肴に酒を嗜む戯れ事等もございましたが江戸の頃には丸い団子を月に見立て、収穫への感謝の気持ちを表すために供え、またその団子を食べることにより、幸せと健康が得られるという言い伝えもあったとか、』
道満の解説が続く─。
『十五の団子を山形に盛りその団子の先端部が「霊界」に通じるとも言われておりまして十五、にちなんで、一寸五分(約4.5㎝)の大きさの団子を作ると縁起が良いとされていました。ただし、真ん丸は死者の枕元に供える『枕だんご』に通じているとも、』
「その死者に供えるまんまる団子を私にくれるワケね…」
『まぁまぁ、そう幼気な従者を揶揄されまするな、』
〈いたいけな従者とはどの口が〉
という顔をしつつ、立香が道満を見上げる。
《拙僧のこの口にて》
という顔をしつつ、道満が立香を見下ろす。
『何はなくともささ、どうぞ』
そう言いながら道満は団子を立香に差し出す。
立香も何気なく一番上の団子をつまみ、ひと口かじる。
「うん。美味しい。」
立香が月見団子に舌鼓を打つ。その様子を見た後、尚も道満が話を続ける。
『あぁ、そうそう。月見団子にはまだ謂れがありまして、「嫁入り前の娘は絶対食べてはいけない」と言い伝えられていたとも…丸い月と丸い団子が妊娠を連想させるからだという説もあるそうで、』
「ングッ…!」
その言葉に思わず団子をひとのみしてしまい喉に詰まらせそうになる立香。
『月草に衣はすらむ朝露に濡れての後はうつろひぬとも』
そう詠んだ道満が立香の肩に手を置き自分の元に抱き寄せる。
道満の目元と口元がまるで三日月の様に弧を描き笑顔を見せた──。
~了~