※未完成 路は短し、恋せよ少年 邂逅編ー感情の起伏が乏しい、無表情、お人形さんみたい
散々他人から言われてきたが自覚はしている、それはダアトに飛ばされナホビノとして戦っている今でも変わらない。
ーただ、成り行きで此処まで来た
どんな苦境や鬼門だってその一言ですべて乗り越えて、くぐり抜けてきた。最初は恐れていた悪魔も逆に自分に恐怖を覚えるようになる程だ
ー今日もやり過ごせるだろう、そう思っていたのに…
あの瞳の、あの輝きを見た瞬間。
芽生えた知らない感情に、心の臓を揺さぶられー
サホリを攫ったラフムを追うためダアト品川区を進み続ける僕とタオはアオガミが探知した気配を便りにコウナン四丁目方面へ向かうべく御楯橋を渡っていた、この辺りに悪魔はいない事を確認し、彼女と慎重に歩を進めていた。
ー刹那、殺気がよぎる
ビルの外壁であったであろう瓦礫の向こうから何者かが高速でこちらに飛び込んで来たのを察知し、瞬時にブレードを放ち攻撃を塞ぐ、相手は剣を振り下ろしぶつかり交わる刃と刃の間で火花が散っている。
これは強敵か。相手の弱点を探るため姿を見て、顔を見て、目を見てー
その時、僕の中で異変が起こった
澄んだ翠色の、例えるならエメラルドのような深奥から煌めく神秘的な瞳を見据えただけの僅かな間、この心に今まで感じたことのない気持ち、感情が急激に湧き上がってきて、胸から始まり首、顔、更に腕と脚、手と足の爪先まで一気に駆け巡り全身丸ごと支配してしまう程に熱くて痛くて辛くて苦しい何か
わからない、これはなんだ…?
『少年、左手からブレードを!』
この戦況に最も的確なアドバイスを送ったアオガミの声が脳内に響いた事によりはっと意識が戻った。今のはバステか?しかし相手は一つもスキルを発動していない筈だ、もしや他に仲魔がいるのか?
気を引き締め直しもう一度相手を見遣った。
しかしこの判断が間違いであり、これまでの自分自身を否定するかの如く僕の全てを変えた、今しがた僕に攻撃を仕掛けた剣士の容姿に衝撃を受けた。
金糸雀を思わせる輝かしい金色でふわりと絹糸の様に軽やかに揺れる長い髪を真ん中で三つ編みに結わいており、肌は透き通る位に白く「純白」という単語が具現化しているかのようだ。
そして先程僕を困惑させたあの目だ、改めて見て確信した。
あの煌めきが、麗しい翠が、僕へ投げかける鋭い視線が、飛んできた槍に胸を突き刺され貫通したかの様なショックを与えられたことによりこの身体と思考が停止してしまったかよう、もはや釘付けだ。
相手は、目の前の美しき者はただ剣を構えてこちらの動きを見切ろうとしているだけ。
これはバステなんかじゃない、僕がおかしくなってしまったからだ。
タオは混乱していた。何故なら隣で両手からブレードを出し臨戦態勢に入っている筈の彼とその向かいで同じく再び剣撃を繰り出そう身構える謎の悪魔、お互い見つめ合ったまま何秒間いや何十秒間だろうかバジリスクの目を見てしまい石化したかと疑う程二人ともそのまま微動だにせず立ち尽くしているからだ。
どうしてこの二人だけ時間が止まってるの?
「はっ!磯野上、大丈夫か!?」
それはこっちの台詞だよ
先に動き出したのは青空君の方だった、君の意識は一体何処へ飛んでいたの?
するとつられるように悪魔も目が覚めたのか瞬きを2,3度してこちらを険しく睨む。
「貴様がどんなに美麗であろうと…このフィン・マックールが討つ!」
え、今コイツ「美麗」って言わなかったか?ていうか誰の事??
タオが急に吹っかけられた疑問に困惑し始めた途端フィンと名乗った悪魔が青空君へ剣の切っ先を真っ直ぐ構えて高速で直進して来た。
「青空君危ない!」
その猛進に呆気を取られた彼は一気に間合いを掴まれてしまった。
拙い、やられる
タオは彼の絶対絶命を目の当たりにした、が
「うわあああああああああああああああ!!!!」
突然鼓膜が破れてしまいそうな程に大音量の絶叫を放った彼が間近まで接近して来たフィンを両手で思いっきり突き飛ばしたのだ。想定外の行動だったのだろう、フィンは驚いて身を引こうとしたが間に合わずバアァンと盛大な衝突音を響かせた直後彼とタオが渡って来た御楯橋の反対側にある廃ビルの中心辺りの階層に激しくぶつかった、ボロボロと砕けてゆく瓦礫ともくもく煙のように立ち込める塵と埃。
「えええぇぇぇ…」
何 故 そ う な る ?
この一連の流れを見たタオは驚愕を通り越して放心してしまった。
両手からブレードを出していたのは何のためだったのか…テンノウズアイルから此処まで冷静沈着で取り乱さず賢明な判断で切り抜る彼の戦いぶりを見てきたタオには度肝を抜かれるような行動だった。
ヒホオォォォォー!?
っという叫び声がフィンが直撃して倒壊したビルの麓辺りから響いてきた。もしや橋の手前にある龍穴のすぐ横で座り込んでいたジャックフロストなのでは?
「青空君!大変だよさっきのヒーホー君が「あうあうああああああああああああああ!!!!!!」えっちょ、待ってぇ!何処行くのぉ!?青空くぅーーーん!?!?」
フィンを突き飛ばした当の本人は未だ叫び声を上げたまま呼び止めるタオを置き去りにして明後日の方向へと全速前進で走り出したのである。
『待て!駄目だ少年!聖女から離れたらいけない、すぐに戻るんだ!!』
初めてではなかろうかアオガミがとても焦ってる声音で僕に静止を促してるが今の僕では何を言われても止まれなかった。
どうなってんだ、どうなってんだよ
怪我もダメージも何一つ負ってないのに胸が心臓が深い奥底から熱い!痛い!辛い!苦しい!それなのに嬉しくて、気持ち良くて、甘酸っぱくて、心地良くて…こんなバステいやもはや病気なのか、もう訳が判らない!何なんだ、一体どうすれば…
「サホリよ、今こそこの余と一つになり己が望みを「嫌よキモい」何ぃっ!?」
一方その頃シナガワ駅付近の廃墟にてサホリとラフムが一悶着を起こしていた。
「何故だサホリ!余と合一すればウヌに降り掛かる恐怖も悔恨も全て消す事が出来るのだぞ!」
「だからその“合一”って何なの!さっき言ってた一つになるって意味なの?だったら嫌!絶対に嫌!!」
「だから何故だぁぁぁっ!?」
「キモいって言ったでしょ!!」
サホリはラフムとの合一を頑なに拒否していた。理由はしてしまったら後戻り出来なくなるかも知れないと危惧しているから、そしてただ単にラフムが気持ち悪いからである。
「だってアンタ馬鹿デカい生首が浮いてるような外見だしその髪の毛みたいなのだって臭くてきったないし特にその触手!見た目も動きも変な液が出てるのも本当に気持ち悪い!!もう無理!生理的に受け付けられない!!」
言いたい放題である。自らの半身から罵詈雑言を浴びてしまったラフムは遂に痺れを切らした。
「気が済んだか…?」
「あ、」
サホリは後退る。
「余はウヌの復讐に加担し恨む人間達を殺してやった、だから次はサホリよウヌがこの余、邪神ラフムの望みを叶えてやる番なのだぞ。…それなのに余に対し謗りに罵り、蔑みの言葉をぶつけるとは…」
ラフムは全ての触手を出し宙に漂わせる。
「無理矢理でも構わぬ!ウヌを取り込んででも我はあるべき姿に取り戻すのだ!」
触手がサホリを捕まえようと迫ってきた。
私ここで死ぬの?せめてタオにちゃんと謝って、それから感謝の気持ちを伝えてから死にたいのに
お願い 誰かー
「助けてくれえええええええええええええ!!!」
「グほぉあぁっっ?」
!?
私が言いたかったことを突然横からぶっ飛んできてラフムにロケット頭突きを嚼ます青空君が何故か大声で叫んでいた。いや彼なのだろうか?顔は同じだがそれ以外が全く見覚えのない姿形になっている、それに私が知る限り青空君はこんな真似するような人では無いイメージなんだけど。
「おのれ小僧!貴様また余の邪魔をす「だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」うげぇ!ぬおぉ!だぁはあぁ!!何をすぶへぇぐうぅ!!!」
地面に倒れたラフムの話を聞く間も無くのしかかり勢いが衰えることなく頭突きを何発もブチ込んでいく青空君。やっぱり別人かな?
「何なんだ何なんだ何なんだ何なんだ何なんだ何なんだ何なんだ何なんだ何なんだ何なんだ」
「いぃっ!貴様何を言っブヘェっ!!!」
助けてくれ!誰か本当に助けて欲しい!!
あの悪魔の姿が煌めいて目の前から離れない!あの声が凛と響いて耳の中で木霊し続けている!あの翡翠の瞳が輝いて眩しさで前が見えない!
何度も頭を板(?)に打ち付けているのに、痛みも感じているのにさっきのあの悪魔の映像ばかりが勝手に再生されてしまう!心臓が信じられない程にバクバクと激しく鼓動して息も上がりっぱなしで呼吸を整える事も出来ない!今まで色んな悪魔達を見てきた、けれどこんな訳が判らない状態になったのはアイツが初めてだ!それも一目見ただけで!!
何なんだこれは、何なんだ一体、何なんだ本当に!!!
「何なんだっ!この気持ちはああああああああああああああ!!!」
貴様が何なんだぁ…
そんな消え入りそうなつぶやきを残し、ラフムはピクリとも動かなくなり事切れた。そんな寸劇を眺めていたサホリは何故か隣にいたネコショウグンと共に宇宙空間へ放り出されたような感覚に浸っていたという。