路は短し、恋せよ少年 再開編 フィンさぁーーーん!!
ダアト千代田区。薄暗い曇天の景色に不釣り合いの朗らかな声が自らの名を呼び響き渡った。
磯野上タオ。霊感がある少女で学生の身でありながらベテルを手伝い“聖女”と呼ばれているらしい。以前品川区で出会いサホリという友人を含め悪魔に攫われた生徒達を救出していた勇敢な娘だ。しかし彼女には悪魔と戦闘出来る力は無く戦力として“ナホビノ”という少年と行動を共にしていた。
勘違いだが彼が聖女を捕虜として一緒に移動していると見ていた俺は瓦礫に身を潜めタイミングを見極め素早く斬りかかったが彼は手から放出した光の刃でこれを凌いだのである。その後は再び接近して間合いを詰めたら突如の絶叫と同時に俺を突き飛ばし遠くのビルにぶつけられたり、話をしようとしたら何故か逃げ出し追いかけて捕まえたらまた大声で叫んでどういう訳か召喚していた仲魔のキングフロストを持ち上げたまま明後日の方向へ疾走したりとその不可解な行動で散々な目に遭ったが“ナホビノ”としてそれ程の力を持っている事を思い知ったのだ。しかし…
「さぁ、青空君。フィンさんがいるよーご挨拶ぐらいはしておかなきゃねー」
「頑張って主!さっきキマイラをあっさり倒しちゃったでしょ、自信持って!」
「ホーイェア!今こそチンピをスンチャに変える時だホ!!」
「無理無理無理無理無理無理無理無理!絶対無理だからっ!!ピンチはピンチなんだよ!!チャンスに変わる訳ないよぉ!!!」
もっと不可解な事になっていた。
左腕を聖女に右腕を仲魔であろうジャアクフロストに掴まれ、カハクに背中を小さな手で髪の毛越しに押されている長い蒼髪の少年ナホビノは顔を伏せてしゃがみ込んだまま無理だのピンチだの駄々を捏ねながら両足をジタバタと上下に振り抵抗を見せつつズルズル引き摺られながらこちらに向かっている。
何が無理でピンチなのか。しかも心なしか晴れやかな笑顔で彼を引っ張っている聖女の額に血管が浮き上がっているのは見間違いだろうか、いや露骨に見えてるから違わないか。そうぼんやり思っているとナホビノは俺の足先まで運ばれてきた、その可愛い尻が擦り剥いてなければいいが。
「はい青空君、フィンさんが目の前よっ!」
っと勢い良く背中を叩き無理矢理僕を直立させるタオ、思わずいぃっ!って情け無い声を上げてしまった。だが決してフィンの顔だけは見ないよう顔も視線も自分の足元を見つめたまま固定し出来る限り平静を装いフィンと挨拶を交わす。
「…久しぶり、だね。このっ間は…沢山、迷惑掛けて…ごめんね」
「あぁ気にする事は無いさ、俺よりお前さんの方が大変だろうなかなか忙しいみたいだしな」
忙しいと言われた。逆に気を遣われてしまった、恥ずかしい…
ダアト品川区御楯橋でフィンと出逢い一目惚れの初恋をしそれが切っ掛けで彼を見るだけで発症してしまう重度のあがり症を患い、彼の姿を視界に入れなくとも凛とした声や光輝く様な存在感が近くにあると感知するだけでこの通り何気無い会話すらぎこちなくなってしまうのだ。
「ほらフィンさんに伝えたい事あるでしょ?今言わなきゃ!」
横から軽く肘で小突きながら磯野上がエールを送っている。千代田区に入る前から心の準備はしておいた筈なのにいざ本人の目先まで来ればこの体たらく…ダアトへ渡る前に研究所のターミナルルームで見送ってくれた樹島や一緒に出向いた太宰も今の仲魔達も皆応援してくれてるけどこの調子じゃ告白どころか話すら進まない。
昨日越水長官から呼び出され会議室に招集が掛かり、僕とアオガミ、磯野上、樹島、太宰に敦田の六名が揃った。浄増寺と縄印学園での襲撃事件それによる何名かの生徒が死傷・誘拐の被害を受けベテル本部がこの事態を重く見てこれ以上東京への損害を大きくしないため千代田区に構えられてる魔王城への突入及び魔王の討伐作戦が翌日決行される事になった。
しかし襲撃事件で大きな被害を受けた日本支部は作戦に参加せず待機せよとの命令があったが長官が構わず日本支部も参加する決意を示し千代田区へ向かうようにと僕らに指令を下したのである。
「青空君とアオガミ、太宰君、磯野上君は明日出向いて貰う。敦田君はここで待機を、樹島君は彼らのサポートの為研究所で職員達の手伝いを頼む」
「わかりました。次いでにラフムのシゴき方も研究しておきますね」
今えげつない事言わなかったか?
品川区での一件の後、心身共に回復した樹島は太宰と同様悪魔召喚プログラムを長官から支給されベテルの一員として戦闘に参加する事になった。だが研究所で適正を確かめるため初めて起動した時最初に召喚されたのはなんとラフムであった。
「フハハハハ!!まさか知恵自らがこの余を呼び出すとは!サホリよ!遂に合一する決心をブゥオアオエェッ!?」
「あんな真似しておいて開口一番がその台詞とか巫山戯んじゃないよ!鏡見てから言いな!!」
何処から持ってきたのか不明なデッキブラシを軽快に振り回しまるで汚物を叩きのめすかの様に容赦無くラフムにエナメル質の毛先を連続的に当ててゆく樹島、かつてラクロス部のエースとして君臨していた名残だろうか。
「いでぇぇ!サホリわからないのか!?余と合一しナホビノになればそこらの悪魔何ぞ恐怖するにも値しなくなるのだぞ!!」
「なら私も聞くけどアンタと合一すればあんな風になれるの!?」
「??」
彼女が指を示したのはもしもの事態に備えナホビノになって身構えていた僕であった。
「私も彼にみたいにアト〇ス公認の可愛さと美貌を手に入れられるの!?アンタとナホビノになればそうなれる保証があるの!?」
「あ、えっ…余はお前は別嬪だと思っているぞ?」
「煽てて誤魔化そうとするんじゃないよ!!」
「むぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
バシィィンっと思いっ切り叩き付ける音を研究室に轟かせる樹島と彼女の猛勢に太刀打ち出来ず身動ぐ事も敵わないラフム。最初の頃とは立場が逆転しイニシアチブは完全に樹島が握っている。
「わかった!合一の事は二度と言わぬ!仲魔として必ずお前の力になる事を約束する!!」
「信用出来ないわ!ならこれからは私に従いなさい!約束を破ったら今度は私が頭突きでシバき倒してやるから!!」
「頭突きだけはやめてくれえぇぇぇ!!」
ダアト品川区でナホビノから散々喰らったのがトラウマになったのだろう。“頭突き”というワードをサホリの口から出た途端ラフムは泣きベソをかき出してしまった。
力 っ て な ん だ っ け ?
目の前で繰り広げられてる滑稽劇を眺めながらそんな途方も無い疑問に耽るナホビノと学生3名、そして研究者数名は暫しの間その場で呆然と佇んでいたという。そんな中ナホビノの意識内にいるアオガミと部屋のドアの横で壁に背をつけ凭れかけてる越水長官は眉間を親指と人差し指で挟むように押さえ悶々と悩まされていた。
「「我々の立場も危うい…」」
そうこうあって凄惨な仕打ちを受けながらもラフムは樹島の初仲魔として迎え入れられると思ったら彼女が「やっぱり生理的に無理」との事で一体だけ譲って欲しいとお願いされたので僕のストックからモスマンを寄越した、ふわもふな体毛に七色の翼とつぶらな赤い瞳の可愛い幼獣族の悪魔だ。コウナン四丁目にいるリリムが僕に捕獲壺を押し付けて十体捕まえてこいとせがむ程の愛くるしさがあるのだ。そして戦闘要員として弱点である衝撃属性をカバーするため耐性を、持久戦に備えて魔脈とリストア、駄目押しにジオダインを継承させて合体で呼び出したそこらのより強力に仕上げた頼れるモスマンだコイツなら樹島も受け入れてくれるだろう。
悪魔はラフムみたいにロクデナシな上に老害で気色悪い奴等ばかりではなくアオガミの様に常に僕をサポートして人間の事を何処までも深く理解しようとしてくれたり邪な悪魔に連れ去られたミヤズや生徒達を保護して治療も施してくれる妖精達に一緒に見守ってくれる女神イズンや地母神イシズ、そして顔も心も綺麗でイケメンな幻魔フィン・マックール…僕の想い人、いや悪魔だけど……押し付けがましくなるけど彼女には悪魔の事をもっと知って欲しい。このモスマンみたいにカワイイのもいれば見返りを求めず人間を助けてくれたりする者もいるのだと。
「私、この子となら上手くやれそう…青空君本当に譲ってくれるの?」
「オレ様コンなカわイ子ちャンと一緒でイイのかヨ!最&高だゼイヒー!」
両者共に第一印象が良さげらしい。早くも意気投合しこれならお互いすぐに打ち解け合い、モスマンは問題無く樹島の仲魔になれそうだ。
「キサマッ!!羽虫の分際が余の半身に擦り寄るでないわぁ!!」
「かァ気持ちワリィ!やだオメェ…灼熱地獄でも喰ラエ!!」
「うなあぁぁぁ何故キサマが火炎魔法を使えるのだぁーー!?」
実を言うとラフムとの戦闘に備えて奴の弱点である火炎属性のアギダインも覚えさせておいといた。とは言うものの僕が単身で倒してしまったためマッカと写せ身の無駄になってしまったかとちょっぴり落胆してたがまさか思わぬ場面で役に立つとは予想だにしなかった。別に御厳不足で僕の火炎適正が間に合わなかったとか金欠で強い火炎要員が合体で呼び出せなかったとかそういう事はない、断じて。
「可愛くて強いって最&高じゃない!」
早速厳島にモスマンの口調が感染ってしまったがこの調子ならラフムが暴走しても抑えこめそうだ。
その後僕のモスマンを正式に仲魔として迎えてくれた厳島は戦闘に慣れるよう訓練するため僕と磯野上の同伴のもとダアト港区へ連れて行き弱い低級悪魔を相手にしながら基礎から注意点まで僕がレクチャーし、モスマンと共闘しつつ悪魔を倒す術を学んでいった。
「ねぇ青空君、私の訓練に付き添ってくれて有り難いけどフィンさんの事はいいの?」
ピシリッ
その一言で僕は凍りついてしまった。
戦闘の基本については一通り教えられたのでキリの良いところで休憩を挟み、ハママツチョウの龍穴近くにある洞窟内で一休みしていた時、それは樹島の口から唐突に放たれたのである。因みに此処を巣にしていたダイモーン達は僕が全員血祭りに挙げてやった。
「あっそう言えばフィンさん、また会う機会があったら今度こそ青空君とちゃんとお話がしたいって言ってたよ?」
更に追い討ちをかける様に磯野上がとんでもない爆弾を投げつけてきた。
「えっちょそれ何時の事!?初耳なんだけど!!??」
「君がキングヒーホーを重量上げしてスタコラフットした後だよ」
フィンに追い掛けられて一度捕まった直後か、確かあの時フィンを怒らせてしまい右手首を掴まれたまま怒鳴られていたが眉目秀麗という言葉を具現化したかと思わせる程耽美が過ぎる顔面が目前まで迫っていたので説教されてた筈だけどちっとも話を聞いてなかったのである。
「そうだよ、あの時気がついたら僕のせいで前半身地面に埋まったキングヒーホーを仲魔達と皆で引っこ抜いてその後御楯橋に戻ったらフィンは居なくなってたんだよね…?」
「そうそう、君が戻ってきたのフィンさんがどっかに行っちゃってからすぐ後だったよ」
「すれ違いかぁ…あれは流石に怒らせちゃったよね……」
「話してた感じだとそうでもないような気がしたけど…青空君に怒ってる様子じゃなかったと思うよ?」
「えっでも僕を捕まえてた時は間違いなく怒っていたのに?話す相手が磯野上だからじゃ…」
「ほら青空君、そこでまた大声出したでしょ?フィンさんそれを目の前で浴びたものだからすっごい驚いて怒りも吹き飛んで暫く放心してたみたいだよ」
そんなに凄かったのか、僕の叫び声…取り敢えず彼の怒りは鎮まったらしいがそれ以上に自分のあがり症の方がよっぽど問題だ、これがなかったら大声をあげたり自分でも意味不明な行動を起こしたりなんてしなかったのにとんだ恥曝しだ。
「大丈夫だよ!またフィンさんに会えるチャンスが巡ってきたんだよ、それもフィンさんからだよ!」
「でも会えたとしてもあがり症のせいで顔を見るのも話をするのもまともに出来ないし…」
「だったらオイラも手伝うホ!」
何処からともなく響いてきた軽薄な悪戯っ子の声音がその台詞を形成す、聞こえた方に振り向くと僕の仲魔であるジャアクフロストがストックから勝手に出現したのである。
「手伝うって何を?」
「キミのフィンへの愛の告白にオイラが付き添ってやるんだホー!」
まさか悪魔からも恋愛の助力を受けるとは、それも昨日合体で呼び出したばかりの黒雪ダルマに。
「それなら私も一緒に行くよ!フィンさんからの伝言を預かってたのも私だしね」
磯野上も挙手した。好きな男子に告白する勇気とチャンスを友達から貰い背中を押されてる女子生徒の心境とはこんな感じだろうか、いや僕は男なんだけど。しかも相手は自分達が住む東京ではなく荒廃した街に悪魔が蔓延る危険なダアトにいるのだ、学園の教室内みたいな雰囲気には到底ならない気しかしないので甘酸っぱい青春の一頁を彩れるシチュエーションが思い浮かべないのだが。
「ホープロブレム!キングの名を捨てジャアクと化した今のオイラならあの時みたいにオクレはとらないホー!!」
このジャアクフロスト、合体で呼び出される前はダアト品川区で僕のせいで目がぐるぐる回ったり持ち上げられて明後日の方向へ連れ去られたり勢い余って地面に叩き付けられ前半身を埋め込まれた先程述べたキングフロストだったのだ。あの騒動の後僕はアオガミと一緒に極めて丁重に且つ全身全霊で謝罪の意を彼に示した。
合体前キングが「今度はしっかり立てる足を持ってオイラの意のままに歩きたいホ」と言っていた事を今でも覚えてる。品川区で僕がやらかした迷惑行為を根に持っているのだろう、足が生えてるジャアクフロストになって二度とあんな目に遭わないための強さと自身が欲しかったのかも知れない。
「付き添うって…アドバイスをくれるって事?」
「それも愛の伝道師であるオイラの役目だけど今回はナホビノ君の仲魔として強くなったトコロを見せるため一世一代のラブシーンをKYな悪魔共にジャマさせないためにラストまでゴエーするホ!」
つまりSPか。強くなった自分自身を誇示したいのかお気楽道楽な性分であるジャアくんが自らお堅い役回りに打って出るとは余程僕にキングの頃とは違うのだと知らしめようとする意思を覗える。
「私は東京でいい知らせが来るのを祈ってるよ、この子達と強くなりながら待ってるから」
「オイラも応援してるぞー!」
「ナホビノ君に幸あれ~」
「頑張れ♪頑張れ♪」
「チミから溢れるラブとパッションのシナジ~~~」
「ハートを燃やしていけぇー!」
僕が戦闘について教えている間に樹島が仲魔にしたオンモラキ、コダマ、スダマ、モコイ、アイトワラス達も声援を送ってくれている、まさか余所の仲魔からも励まされるとは。しかし見た目が可愛らしい面々ばかりなのは彼女の趣味なのだろうか、或いは半身が相当な不細工だからその反動が彼女のストックに影響を与えているのか。
そういった経緯で何やかんやあって今に至るのである。目の前にいる僕が想い慕う悪魔フィン・マックールへ気が狂う程のこの恋情を伝えるべく一人の人間と二体の悪魔を連れ(てかれて)彼のもとへやって来たのだ。色んな人や悪魔達から声援を得て再び彼と相見えたのである。
しかしフィンとは暫く合っていないのであがり症も品川区の時より落ち着いているだろうと見込んでいたが遠く離れた位置から彼の姿を目にした途端あがり症が再び胸の中で暴れ回る様に発症しはじめ堪らず僕はその場でしゃがみ込んでしまったのだ。
あがり症が更に酷い状態まで陥ってしまっているようだ、恐らく原因はこの病の根源である“僕がフィンに恋心を抱いている事”を自覚したからではないかと“僕がフィンの事が好き”だという気持ちに気付いてしまったのが火に油を注ぐ事態に転じたのでは。
そんな僕を見かねた磯野上達は腕を掴み引っ張るなり背中を押すなりで無理矢理僕をフィンの傍まで運んで行ったのである。ていうか磯野上、君の腕力可笑しくないか?物理プレロマを積んでいるのか??
「俺も丁度お前さんと話がしたかったんだ、また会えてよかったよ」
そうだ、僕は今彼にこの気持ちを告げるためここにいるんだ、狼狽えてばかりじゃ…ん?フィンは今何と?
「ねぇ、君…今“また会えてよかった”って、言った?」
「あぁそうだが、何かおかしかったか?この世界では再会を果たすのでさえ容易くないからな、兎に角あの時と変わらず元気そうなお前さんを見れて安心したぜ」
紳 士 か よ っ ! ! !
この叫びをどうにか声に出さず心の内に収めた僕だがジェントル度高めなフィンのその台詞回しに胸がズキュゥゥゥンと不意打ちを喰らい狼狽えないと気を引き締めたばかりなのに一瞬で解けてしまった。だってフィンが僕の事を心配してくれていたなんて…突き飛ばしたり逃げ回ったり酷い事も失礼な事もしてしまったというのにこんな僕と再会するのを期待していたなんて…
『少年、たった今瞬間的だが急激な心拍数と平熱を上回る体温の上昇を確認した。大丈夫か?』
アオガミが脳内で何時も通りの淡々とした機械的で無感情な声音で心配をしてくるがそれを聞いて僕は逆に怒りを覚えた。だって今でも品川区の時でも合一しておいて一番僕の心境を理解してる筈なのに身体の様態を分析・計測して身を案じるばかりでこの気持ちを、僕のフィンへの想いを一片も解っていない…いやわかって堪るか!アオガミの様な人外おっさんなんかにこの繊細でもどかしい恋心を知れるものか!
この思わぬ一撃は僕が受け止めるにはあまりに強烈だった。一旦退け僕はそそくさと磯野上達のもとへ駆け寄り作戦会議を始めた。
「(ふあぁどうしよう!フィンが前より格好良くなってる!イケメンが過ぎるよぉ…)」
「(落ち着いて青空君、フィンさんが格好良くてイケメンなのは当たり前!もはや常識なの!紳士的な台詞が言えちゃうのも当然の事だよ!)」
「(そうだよ主!私あの悪魔を見るの初めてだけどあんなに綺麗で男前だなんてびっくりしちゃった!流石公式認定だね!)」
「(何ならオイラが代わりに伝えようかホー?)」
「「「絶対ダメ!!!」」」
「ヒ~ホ~…」
ジャアクフロストの申し出に断固として否を示す僕と磯野上にカハクの三名、多少厳しめに言い付けてしまったがこればかりは他者に任せられる事じゃない。このフィンへの想い、僕が彼に恋しているという気持ちは自らの口から僕自身の声で伝えなければならない。この感情は特別なもの、フィンだけにしか抱けない唯一の真心だから。
「ちょっといいかいお前さん」
「ひゃえぃ!?」
背後から突如飛び込んで来た爽やかが過ぎるイケボにときめきという名のザンバリオンを受けまたしても奇声を上げてしまったが先程と同じく足元に視線を釘付けにしたまま僕はフィンの声がした方向へ振り向いた。
「さっきから俯いてばかりで疲れている様だし本当に忙しそうだな、手を出しておくれ」
「え?…うん」
言われるがまま手を差しだしてみると彼が僕の掌に何か小さい物を置いた、丸くて固いビー玉と同じ位の大きさだ。手を引いて見てみるとチャクラドロップが一粒あった。
「その程度の物しか持ち合わせていないがソイツで少しだけでも疲れをとるといい」
実際のところ大して疲れてないがこんな体たらくの僕を見てフィンがチャクラドロップをくれたのだ。また気を遣わせてしまった、フィンが僕の事を心配してくれてる…そしてこれをくれた…
…フィンからの…プレゼント、フィンが…僕に…あげた…プレゼントを…?
「むじゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
こんな嬉しい事あるかぁーーー!!!!チャクラドロップなんてそこらで拾えたり敵から剥ぎ取ったりでたまに手に入る程度のアイテムでしかないのにフィンから貰ったのなんてもはや木彫りの山羊級の重要アイテムじゃねぇかよ!!!!
「嬉しいが過ぎるんだよおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「あ、青空君!もう急に走り出すのはやめてよぉーーー!」
「待って主!追い着けないよぉーーー!」
「速いが過ぎるホォーーー!」
暗雲犇めく千代田区の空に歓喜の咆哮を響かせあらぬ方向へと爆走を始めたナホビノ、品川区でも見た光景にフィンは一つぼやきを落とす。
「すこぶる元気そうじゃねぇか、また勘違いしちまったか…」