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    touka_skom

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    touka_skom

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    恋人関係の左京と臣。
    寮のお風呂の調子が悪くて、びろ~ど湯に行った時のお話

    びろ~ど湯にて            *

     扉を開けると、大きな富士山が目に入る。といっても本当の富士山ではなく、壁に描かれているものだが。サッカーの練習後などによく寄っている銭湯「びろ~ど湯」。寮の風呂も広くていいが、また雰囲気が違うから時たま一人で行くこともある。

    「おい兵頭、さすがにもうきついんじゃね?」
    「あ?まだ余裕だ。お前こそしんどくなってるんだろ」
    「万チャンも十座サンも我慢しない方がいいッスよ」

     湯船の近くには見知った顔ばかりが並んでいる。俺に気付いた太一が、おーいと手を振ってきたので片手を上げて応える。仕事が延びた関係で、遅れて合流する形になった。

    「お仕事お疲れッス!LIME見てくれたんスね」
    「あぁ、連絡くれてありがとう。大変だったみたいだな」
    「風呂入ろうと思ったら水で…。俺っち、片足入れちゃって、めっちゃ冷たかった!」

     寮にいた全員で一度に行くと迷惑だから、と組ごとに来ることになったそうだ。太一には申し訳ないけれど、久しぶりに銭湯に来られたことが単純に嬉しかった。身体を洗って、まだ湯船に浸かっているみんなと合流する。丁度いい温度の湯に思わず声が漏れる。

    「臣、おっさんみてぇだぞ」
    「え、そうか。まだおっさんにはなりたくないなあ」
    「お前もさっき同じような声出してただろ」
    「んだと?お前の聞き違いだろうが」
    「おいおい、こんなところでも喧嘩するなよ」

     先ほどと変わらないやり取りをする二人を宥めながら、そろそろ風呂から上がることを提案したがまだ勝負がついていないとか何とか言われてしまった。どうしようかと思っていたら聞き馴染みのある声が聞こえた。

    「お前ら、他にお客さんがいることを忘れるなよ」
    「げ、左京も来たのかよ。じゃあ俺お先。みんなちゃんとスキンケアしろよ。必要な道具は持ってきたから」

    莇と入れ替わるように左京さんが浴場へとやってくる。さっきの態度に対して何やら不服そうだが、やれやれといった表情で莇の背中を見送っていた。

    「お前らも長く入りすぎるとのぼせるぞ」
    「へいへい。太一も限界そうだし、莇がいる間にケアとかした方が良いだろーしな」
    「臣さんは今来たばっかりだから、もう少し浸かっててください」
    「あぁ、ありがとうな、十座」

     そう言って三人を見送ると、左京さんは湯船に一番近い洗い場に座った。俺は湯に浸かったまま洗い場の近くまで移動し、縁に寄りかかるようにして彼を見上げる。

    「左京さん、お疲れ様です。今日のお仕事は終わったんですか」
    「あぁ、一段落したから寮に帰ったら監督さんに丁度秋組が銭湯に行ってると聞いてな」

     こうやって二人でゆっくり話すのは久しぶりだ。お互い仕事が忙しく、秋組公演に向けての稽古もあったものだから時間が合わないが多かった。だからと言って連絡を取り合って無かったわけではないけれど、やっぱり直接会っていると嬉しさが増すから貴重な時間を大切にしたいと改めて思った。そんな気持ちでジッと左京さんの横顔を眺めていたら小さな溜息が聞こえた。

    「…伏見、お前なぁ」
    「え、俺、何かしましたか」
    「っ、見すぎだ。…ったく、我慢してるこっちの身にもなれ」
    「我慢って…あ」

     こちらに向けられた顔は少し赤くなっていて、でもそれは銭湯だから、とか考えていたけれど、バチッと音がしそうなくらいに合った視線の先には甘く優しく溶けそうな目があった。自分のしていたことを自覚した俺は、なんだか居たたまれなくなって「先に出ますね」とだけ言って逃げるように脱衣所に戻った。一息ついて周りを見回すと秋組のみんなは先に帰っていたようで、他のお客さんしかいなかったので少し安心した。とりあえず落ち着かないと、とガシガシ頭を拭きながら大きく深呼吸をした。

                *

     完全にやってしまった。帰る準備をしながら脳内で一人反省会をする。久しぶりに二人で話をして、あんな愛おしいものを眺めているような表情で見られたからって直球すぎた。我慢の限界だったのは本当だけれど、今言わなくても良かった。先に出た四人はきっと帰っているだろうから、伏見と少しゆっくりしてから寮に帰ろうかと考えていたんだが、先程の失言によってそれは叶わないものとなっただろう。
     番台にいた店主に挨拶をして暖簾をくぐると、店先にあるベンチに今一番会いたい人が、いた。すぐさま駆け寄ると、パッと笑顔になって立ち上がる。狼というより大型犬だな、と思ったのはここだけの話にしておこう。

    「伏見、もう帰ったのかと思ってたぞ」
    「ちょっと湯冷まししたくて。それに折角なら左京さんと一緒に帰りたいなって」
    「それは、俺も思ってたが」

     ハハ、同じこと考えてたんですね、と笑う伏見の頭を撫でてやると、眉を下げてはにかむものだから心臓がまたドッと跳ねた。それをごまかすように両手で髪をかき混ぜてやった。

    「ちょっと、何するんですか。びっくりしましたよ」
    「…うるせぇ。ほら、帰るぞ」

     そう言って伏見の手を取って歩き出す。えっ、あの、とか何とか言っていたが、所謂「恋人つなぎ」をしたら恥ずかしくなったのか何も言わなくなった。すっかり暗くなった街並みを歩く。街灯も人通りも少ない道だから、なんだか世界に二人っきりになったみたいだ、なんて柄にもなく考える。

    「なんか、こういう歌、ありましたよね」
    「歌?」
    「恋人同士で銭湯に行く、あの歌です」

     あぁ、あの歌か、と頭の中でメロディをなぞると同時に歌詞を思い出し、ハッとなった俺は伏見を抱きしめた。

    「っ!左京さん…?」
    「少し冷えてるな。待たせて悪かった」

     伏見は何が何やら、という顔をしていたが、会話の流れから経緯を察したようで、ハハと笑いながら抱きしめ返してきた。

    「そんなに長く待ってないですし、今日は暖かいので。心配してくれてありがとうございます。」

     そう言って俺の肩に顔を埋めながら「それに」と続ける。

    「左京さんがポカポカなので、こうすれば体温分けてもらえますから」

     あの歌の二人もそうだったのかもしれないですね、なんて言葉が俺の耳に届く前にもう一度強く抱きしめて、額に軽く口付けた。

    「なんか…今日の左京さん、甘々過ぎませんか?俺、驚かされてばかりな気がします」
    「それはこっちのセリフだ。かわいいことばっかり言いやがって」

     なぜかお互い喧嘩腰になって、それがおかしくて二人で笑った。ひとしきり笑った後にまた抱きあって唇を何度も触れ合わせる。お互いの吐息に熱がこもり始めた時、遠くからクラクションが聞こえてきた。そういえば外だった、と正気に戻った俺たちは、身体をパッと離して何事もなかったように振る舞ったが、周りには誰もいないし、大根芝居すぎてまた笑った。

    「そろそろ帰りますか?カントクたちも待ってるでしょうし」
    「そうだな。…お互い仕事が落ち着いたら、温泉でも行くか」
    「いいですね。俺、行ってみたいところがあって」

     自然と手を繋いで再び歩き出す。さっきとは違う優しい雰囲気に包まれて、こういうのも悪くないなと、嬉しそうに話す伏見を見てそう思ったのだった。

                            終わり
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