🍙救出編Booom
思いきり呪力を込めた拳をぶつけて、鋼鉄でできた分厚い扉をこじ開けた。
「What」
「Who is he」
狗巻くんを取り囲むように立っていたアメリカ兵達がガヤガヤと騒ぎ立てて五月蝿い。こちらに銃を向ける無謀な兵士もいる。
「Don’t move.」
容赦なく呪言をぶつけると、ガキンッ!と音を立てて兵士達の動きが止まった。
準1級の呪術師である狗巻くんを攫うくらいだから、よほどのレベルの呪詛師がいるはずだと思ったのに、周囲は非呪術師ばかりで驚いた。
(こんな奴らに狗巻くんが…?)
優しい狗巻くんの事だから、非呪術師に呪言で応戦するのを躊躇したんだろう。こんな状況でも自分よりも相手の事を優先してしまう君が愛しくて憎い。
(高専に戻ったら、もう一度よく言い聞かせなきゃ。)
そう心に誓いながら、狗巻くんの元へ急いで駆け寄った。
ぐったりと気を失った狗巻くんは、胸元が大きくはだけたバスローブ姿のまま椅子に縛り付けられていた。呪言を恐れたのか口には猿轡をはめられ、攫われる際にかなり抵抗したようで、まだ新しい痛々しい傷跡が身体中にあった。
(美しい君にこんな傷をつけるなんて…)
猿轡を外して、薄く開いた口にキスをしながら僕の呪力を流し込み、反転をかける。狗巻くんは一瞬うっすらと眼を開けると、僕を見て安心したように笑い、もう一度意識を手放した。
体の奥底から抑えきれない怒りが湧き上がる。周りを見渡すと、なぜ突然動けなくなったのかもわからないまま固まった間抜けな兵士達の姿があった。
(こいつらの身体の自由を奪うくらいじゃ生ぬるかったな。もっと痛めつけてやるべきだった。)
怒りを必死に押さえつけながら、これ以上痛い思いをさせないよう細心の注意をはらって狗巻くんの拘束を解いていく。
バタバタバタと大勢の足音が聞こえ、背後が俄に騒がしくなった。
「HeyPut your hands up」
「We’ll shoot you if you move」
僕が何者かも知らずに駆けつけたのか。どいつもこいつも馬鹿ばかりで笑ってしまう。相手が言っている意味はわかるが、こちらには最も優先すべきものがある。外野の戯言は無視して作業を進めた。
「HeyYou」
愚か者の1人が僕に向かって発砲した。
「リカ」
「あいっ!」
リカが弾除けとして僕の背後に立ち、弾を弾き返す。リカが見えない非呪術師の兵士達は驚愕し、慌てたように何発も僕たちの方へと打ち込んできた。散々射撃訓練を受けてきた猛者ばかりなのかもしれないが、そんな事僕には関係ない。彼らが何発打とうとも、僕には1発も当たらないのだ。
銃声をBGMに、狗巻くんの身体をそっと抱き上げる。久しぶりにこの手に抱いた重みに様々な感情が込み上げてきた。狗巻くんに回した腕に思わず力が入ってしまったようで、「うぅ…」と狗巻くんが小さく呻いた。狗巻くんが身体を捩った拍子に、バスローブの裾が捲れ上がり、トロリとした透明な液体が狗巻くんの太ももを伝っていくのが見えた。
僕の頭は真っ白になった。
(やっぱり僕は狗巻くんほど非呪術師に優しくできそうにないよ…)
狗巻くんが目を覚ましたら、こっぴどく叱られるかもしれない。だけど、この例えようもないほど凄まじい怒りを鎮める術を僕は他に知らなかった。
「F✖️ck」
「What’s that」
「…Monster …」
僕の事を口汚く罵ったり、恐れ慄いたりしながら未だに無意味な攻撃をし続けている。これで世界第一位の大国が所有する軍隊だと言うのだから呆れてしまう。
「That concludes our talk.」
僕が呟くと、銃声も人々の話し声もピタリと止んだ。狗巻くんを大切に抱え直して、唇に誓いのキスをする。
(僕が絶対にみんなを救ってみせるよ。)
にっこりと笑った顔のまま後ろへ振り向き、微動だにしない兵士達と相対する。
「さぁ、始めようか。リカ。」