After the bad weather「機嫌直せよ、シュン」
ソファのひじ掛けにもたれて顔をそむけたままでいる伊月の黒髪を、ナッシュの長い指がすくった。
「……やだ」
伊月はナッシュを横目でにらむ。触れてくる手を払いのけて、またそっぽを向く。
「おまえな。意地っ張りで頑固なのは承知だが、そこまで不貞腐れることねえだろ? 二人きりで過ごせる時間が貴重だってのはわかってるだろ。それを」
「最初にその貴重な時間を台無しにしたのはナッシュのほうだろ」
伊月はナッシュの顔を見ないまま、ぶっきらぼうに反論する。
ソファに並んで座って触れ合ってキスをして、甘い熱を互いにはらんできた頃合いにナッシュのスマートフォンが鳴った。電話のようだったがいつも通り伊月を優先するのだろうと思っていたのに、ナッシュはあっさりと伊月から手を離した。
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