レイニーブルー 僕が唇を寄せるとあおいひとみが揺れる。さざ波のように揺れるひとみを見つめながら、そっと唇に触れるとあおがまぶたの中へと吸いこまれていった。やわらかなあおを浮かべながら僕は唇を吸う。その唇はマショマロみたいにやわらかいから、食べたらきっとすごくあまい砂糖菓子みたいな味がするはずだ。中也とキスをするとほんのりとあまい味が口の中に広がる。
その味を思い浮かべるだけでじわりと熱が染みていった。屋上に吹き抜けていく風が僕たちを包みこむ。涼やかな風が心地よくて、僕は中也の唇を味わいながらひとみをほそめた。屋上は僕たちふたりだけのないしょの場所なのだ。古びた鍵を外して中也とこっそりあまい世界にしずむ。
まるで世界の終わり、ふたりきりで残されたみたいな感覚。
そんなあまい雰囲気に浸るのが存外気に入っていたりする。
「ん……」
小さくもれた声はとろけている。間近で見る中也の双眸はとろりとして静かに揺れていた。唇もだけどひとみもあまい味がするのだろう。青空を映しとったみたいなきれいなひとみ。手を伸ばせばすぐそこにある空は今、目の前できらめきを放っている。そのあおを見ていると耐えられなくなって僕は唇を離すと、ひとみへ手を伸ばす。皮膚のうすい目の下をそっと指でなぞった。
やわらかい皮膚が指先にしずんでいく。
「何だよ」
中也は不満そうに僕を睨みつけている。
途中でキスをやめちゃったのが不満だったのかな、ほんとキスが好きなんだから。でも中也はそれを口にしたりはしない、好きだなんて云ったら負けを認めるようなものだもの。
キスが好きだと云わないけど、口よりひとみが雄弁に語るっていうのはまさにこの事だなって思う。キスされる、そう感じると中也はひとみを揺らすのだ。唇を吸い上げると一気に体温が上がって触れ合った場所ぜんぶ、熱を宿していく。すぐにあおい双眸がとろけて震える。僕が熱を与えるたびにとろけて、ドロドロになってこぼれ落ちてしまうんじゃないかと心配になっちゃうくらいだ。もしドロドロになってこぼれ落ちちゃったりしても僕がしっかり受け止めてあげるから安心してね。それでとろけたひとみは僕がちゃんとおいしく食べてあげるからね。
あおの両目が僕の前で揺れている。
ああ、おいしそうだなぁ。
「……っ、太宰」
そう思うと我慢できなくなってまぶたに舌を伸ばす。中也は軀を揺らすとまぶたを閉じた。僕は熱の乗ったうすい皮膚を舌で転がして味わう、その奥にあるあおを思えあまい味が染み出してくるみたいだった。
もし、中也のひとみがこぼれ落ちて僕が受け止めて、そうして自分のひとみを食べる姿を見て中也はどう思うのだろう。嫌悪感をいっぱいに浮かべるだろうか、それとも怒りに震えて睨みつけてくるかもしれない。
「何してるんだよ………このッ……!」
中也はぶんぶん腕を振り上げてくるから慌ててそれを避ける。当たったらどうしてくれるんだよ、危ないなぁ。それにせっかくそのあおを味わおうと思っていたのに。