お弁当と告白 中也は料理を作るのが好きだ。だから毎日弁当を持って来ている。それは自分が食べるためであって誰かのために作った物じゃない。
辺りを見回して誰も居ない事を確認すると鞄から弁当箱を取り出す。包みをほどいて弁当箱の蓋を開ける。今日の卵焼きはうまく焼けた。それは中也がつやつや黄金色をした卵焼きを箸で摘み味わおうとした時の事だった。口に入るはずの卵焼きはどうしてか目の前から消滅えてしまっていた。
「えー私は自分卵焼きはしょっぱい方が好きだって云ったのに」
太宰はそう云いながら中也の箸を奪い弁当を食べていく。しかも食べながらこの煮物は味付けが濃いと文句を云ってくる。
「文句云うなら食うなって云ってるだろ」
何回も同じ事を云っているが文句を云いながらも中也の弁当を奪うのをやめようとしない。タチの悪い嫌がらせだ。どんどん弁当箱の中身が減っていくが、止める気にもならずに中也は溜め息を吐く。
「手前、ここんとこ毎日じゃねェか」
「うん」
「うんじゃねェ! 集りにくンな鬱陶しい!」
「えーだって中也の料理なら毎日食べたいし」
太宰は顔を上げると笑顔を浮かべる。余程嫌がらせをしたいらしいからたまったものじゃない。
食べる事に興味もないくせに中也への嫌がらせは執拗だ。料理をするのは嫌いじゃないが太宰のために作ってる訳じゃない。
「何で毎日手前のために作ってやらなきゃなんねェんだよ。巫山戯ンな」
「だから僕は毎日中也の料理を食べたいんだって」
「嫌がらせかよ……」
どうあっても中也の弁当を奪う気なのは変わらないらしい。ならいっそ弁当を作るのはやめようかとも思う。
「じゃあ俺弁当持ってくるのはやめるわ」
「何でよ!」
「持ってきても手前に食われるだけだろ」
「それの何がいけないんだよ」
「俺は手前のために弁当作ってる訳じゃねェ」
「中也の莫迦」
莫迦呼ばわりされる筋合いはない。いつもの事だがなんて自分勝手なのだろう。こんな奴の相手をしてるのも莫迦らしくなって立ち上がろうとしたのだが、腕を掴まれて阻止されてしまった。
「何で判らないの!毎日って云ったらそういう意味だよ! どうして気付かないのさ…………」
「そういう意味って」
「私は毎日中也の料理を食べたいの」
毎日料理を食べたいなんてまるで告白みたいだ。そんな訳ないだろうと思ったのだが、告げた太宰の顔がほんのりと赤く染まっている事に気付いて中也は瞳を丸くする。
「だから毎日お弁当作ってよ」
とどめの一言を受けて、自分の頰もまた赤くなっていくのを感じた。