夕景、鼓動を打つ。【注意点】
1.モブがそこそこ出てくる。モブ男君とクロード君が仲の良い友達です。
2.現パロ(学園モノ)です。
3.年齢は操作していませんが、現パロ年齢操作時空での過去回想が入ります。
4.年齢の方に合わせたため、ヒルシュクラッセが全員同じ部活に所属していますが、同じクラスではなくなっています。
*
ここは由緒正しき家柄やスポーツ特待の生徒のみが通う、エリートの為の学校。
2年A組。クロードは休み時間に友人らと『誰が一番ペン回しをした場合の毎分ごとの回転数が多いか』を競いあって遊んでいた。
そんな中、教室の扉をコンコンと鳴らす音が聞こえてきた。
「クロード君いますかー?」
彼女がそういった途端、教室がざわつく。
「あの子やばくね......?」
「え、クソ可愛い上に胸大きい。最高じゃん。」
クロードは周りの声を気にもとめずに少女の元へ駆けていく。
「どうしたんだ?ヒルダ。学校で会いに来るなんて珍しいな。つーかちゃんといるのが珍しいレベルだな。」
「クロード君に相談があってさー。ほらあたしさ、今、読モとかやってるじゃん。それでこの後進路相談なんだけど、何て言おうかなって思って。クロード君に相談しにきたのよ。」
「自分の進路を迷いなく年下の男に頼りに来るなよ......。」
クロードは呆れながら言う。
「えー、でも、普通じゃない?クロード君が高校卒業したら、一緒に住むんだし!」
「おまっ......。初めて聞いたぞその予定!いや、予め予定があってもこんな公衆の面前で言うなよ!」
「なによー、その反応。もう付き合ってるんだから同棲考えるなんて普通でしょ。それともクロード君ったら、他に女がいるの?」
「いや、いねーけどさ......。同棲してもいいけど、進路は自分で決める!どうせヒルダの事だから服飾の専門学校か、そっち系の大学に行くかで悩んでんだろ?それを相談してくればいいんだよ。読モだって、芸能界に行きたくてやってる仕事じゃねーんだしさ。」
二人の発言を聞いた瞬間、教室がざわっとする。クロードとヒルダは双方そこそこ声が大きく、更に通りやすい声の持ち主であった。クラスメイトたちに会話は筒抜けである。
とある男子は「え、あの雑誌オレ読んだことある。ヒルダさんってあの子だよね?ファンなんだけど......。」と落胆し、クロードを『イケメンなのに女の影がない!』と囃していてていたクラスの女性陣は強いショックを受けるのであった。
*
「それもそうねー、ありがとー!」と言い、ヒルダが教室を去っていった瞬間、クロードは親しい男友達に囲まれていた。
「お前、どんな裏切りだよ!?学校内に彼女がいる上に、それが読モで、更には同棲の約束までするような仲!?一つも聞いてない!オレはお前の事、友達と思ってたのにさ!」
「いやー、まぁ、隠してた訳じゃないんだぜ?ただ、聞かれなかったしな......。」
「聞かれなくても彼女の有無くらい報告しろよ!何繋がりなんだよ!!吐け!全てを吐け!そしてこの後今すぐ別れろ!」
「こればっかりは答えられないなぁ。二人だけの秘密さ。でも友人の幸せ位、素直に祈ってくれよなー。」
「うるせぇ!オレはクラスの女性らに配慮してるだけだ!!顔がよくて女には優しいお前なら、ファンだってきっとそこそこいたよ!お前に女いないと思って別の男ふったり、別れたりしたかもしれないだろ!」
「あー、そりゃそんな子が本当にいたなら、大変ありがたいし、相当悪いことしちまったなー......。」
明らかにクロードの友人Aがテキトーな事を言ってるだけなのだが、その指摘は案外かなり的を得ていた。
「え、うそ、ショック......。」等と、女性陣は未だにざわついている。ヒルダを睨むものもいれば、彼女の容姿やスタイルを見て「仕方ない。」と諦めてしまう者など、多岐に渡り。
そんなクラスの雰囲気を察したヒルダは「え、クロード君付き合ってること誰にも言ってなかったのー?女泣かせね~。」とコメントする。「別にオレが誰と付き合ってようと、大して誰も気にしねーって。」とクロードが答えると、「本当に罪作りよね~。」とヒルダはくすくす笑った。
「おー、そうかもなー。」とクロードはヒルダを受け流しつつ、「面談が終わっても解決しなかったことは相談に乗ってやるからさ。」と言い放ち、一旦自らの教室へと帰らせた。
*
「じゃあね、クロード君、マリアンヌちゃん!」
そういってヒルダが帰った瞬間、教室は大騒ぎである。
クラスの中心であるクロードに彼女がいた。しかもその彼女が読モの先輩だった。クラスにそんな存在が訪れた。更にさりげなく同棲の約束をしていた。後ヒルダはなんでマリアンヌにも挨拶したんだ。など、騒ぐ内容は山程ある。
「クロード、お前せめて、出会いを......出会いを教えろぉ!余程の理由があるなら無罪だ!」
切迫した勢いで詰めてくる男友達に「やれやれ。お前今なに言ってもキレるだろ。」と言いながら、クロードは語り始めた。
「仕方ねーから、気分転換にお伽噺でもしてやるよ。今となっては昔、あるエリート高校に入学した男子生徒がおりました。16歳の彼は部活をやろうかと考え、部活見学に行ったところ、軽音部の部室で一つ歳上の先輩と出会いました。そしてーー......」
「見学に来たんすけど、覗いてもいいですか?」と軽く声をかけ、「はいどーぞー。」と返事がくる。そして部室に入った瞬間、視界に入ったのは桃色の長い髪を纏う美しい少女。男性にしては長めの紫色の髪を纏う青年。
「ごめんね、今いるのは二人なの。ここは軽音部。そっちがローレンツ君で、あたしはヒルダ。うちに興味持ってくれてありがとー!気になることはなんでも聞いてね。」
「ふん、貴様は入学式の時、新入生代表で気だるそうに送辞を読んでいた男か。僕の名前はローレンツ。まぁ好きにくつろいでいくといい。」
なんだか既に個性の強そうな先輩方に「はは」と苦笑しつつも、ヒルダと名乗る一つ歳上の先輩に早速質問を行う。
(ローレンツよりは、なんだか性格が読みやすそうだ。)
「ここって、メンバーは先輩達二人だけなのか?」
最大の疑問を投げかけると、「ううんー。ここ、軽音部って名前だけどバンドみたいなもんでさ。今は高三のレオニーって先輩が手伝ってくれるよ。近所の大学に進学するらしいから、今入部しても今後も付き合いあるんじゃないかな。それに年下もいるわよー。中等部のリシテアちゃんって子が時々来ててさ。体が弱くてしょっちゅうはこれないんだけどねー。」と明瞭な返事が帰ってきた。
「高二は二人だけなんっすね。」と言うと、「あたしには敬語じゃなくていいわよー。クロード君♪」とヒルダは答え、「お察しの通り、高二は二人だ、クロード。というか君がクロードにタメ口を使わせると、僕だけ気を遣わせてるみたいになるだろう!仕方ない。僕にもタメ口で構わないぞ。」とローレンツとやらが言い出した。
「やー、でも今は入り時よー。今年の一年生、外部からの入部希望者が結構いてさー。やっぱジェラルトさんに習ってるレオニーちゃんの力って偉大よね。」
「ふむ、それはその通りだな。確か既に一年生ではラファエル、イグナーツの二人が入部届を共に出して行った。」
「マリアンヌちゃんも入部予定だしね~。」
「彼女は君が多少無理矢理連れてきてるように見えなくはないが......、そこまで嫌そうでもないので、まあ良いだろう。」
「で、まー、そんな感じで、賑やかになる予定はあるわけだよ。顧問っていうか、コーチのせんせーも変な人だしね。面白い事したいならうちの部に入って~!」
「君は全く......。クロード、他に聞きたいことはないか?」
ローレンツとやらが何とか仕切り直し、オレに改めて問いかけてみる。まー、面白そうだし入部してみるのもありかな、とすると軽音だとかバンドで大事なのは......やっぱりあれだよな!となる。
「楽器ってどういうのが余ってるんだ?」
そう尋ねると、「お、よくぞ聞いてくれました~!勿論、なるべくやりたいのをやってくれて良いわよー。あたしもローレンツ君もいくつか楽器できるし。」と最初にヒルダが返事をした。
それに今度はローレンツが続く。
「リシテアは体が弱いので吹く楽器はやらせない。やるにしてもボーカルやキーボードだ。しかしまぁ、ここにはハンネマン先生という優秀な専属保健医がいるし、時が経てばもう少し善化しているだろう。」
そしてまた、「ま、ボーカルはやりたくない人以外皆に回るようバラバラだけどねー。みんなやりたくない時はなんでもできるせんせーがやるし。レオニーちゃんも全部できるよね。ベースとかギターやってることが多いけど。マリアンヌちゃんも多分キーボードとかそっち系にいくよねー。案外ギターかもしれないけど。」とヒルダが付け加えて。
「二人は何をメインでやってるんだ?」と問いかけると、ローレンツは「僕はキーボードやベースだ。ボーカルもやる。」と答え、ヒルダは「あたしはー、なんだと思う~?」とオレにクイズを出してくる。
余ってる楽器的からして、消去法で「ドラム......か?」と自信なく聞いてみると、ご名答だったらしく、「せーかい!あたし、バンバン叩いちゃうし歌っちゃう!でもあたしもローレンツ君もボーカルよくやるし、なんなら踊るし、体力も面子も足らないのよねー。クロード君が興味あるなら、手取り足取り教えちゃうわよ?」と返答がきた。
しかし、ドラムねぇ。ギターやベースに比べりゃ、馴染みのある楽器かも。ガキの頃家にあったせいでよく勝手にいじってた、民族系の楽器は確か打楽器だった。
楽しそうかもな。
「ああ、確かにドラムには興味がある。良かったら教えてくれないか?」
そういった瞬間、「ってことは、入部してくれるってこと!?」とヒルダが目を輝かせ、早速入部届を引き出しから取り出す。
「まぁ、人が多い方が良いだろう。今年は豊作だな。」とローレンツとやらも満足げだった。
*
一時間程度、入部書類を書きつつ、交流がてら談話したところで、「では僕は今日は塾があるので、すまないが先に帰らせてもらう。ヒルダ、手続きをやっておいてくれ。」と言い、ローレンツは帰っていった。ヒルダは「えー、はーい。」と生返事をし、今座っていたところから、オレの隣に座り直した。
すると、ヒルダが自分の顔をじーっと見つめ、「クロード君って、一目見た時からずっと思ってたけど、すごーく格好いいよね。濃い顔じゃあるけど、とってもイケメン。」なんて言われてしまう。
目の前の先輩がそんなことをいう意図がよくわからず、とりあえず部員が逃げないよう称賛してくれるのか?と思い、「そんなに心配しなくても、入部してすぐ逃げたりしないぜ?」と自分にしては殊勝な態度をとってみる。
「んーん、心からの本音。なんかつい見惚れちゃうっていうかー、もしかして、すっごくタイプなのかなー。」とヒルダは言った。その表情がどこか艶っぽくて少しだけドキッとする。
ヒルダはそんな人の気持ちを知ってかしらずか、「へへ、でもこんなに余計な話ばかりしてたら『昨日僕が帰った後、君達は何をしてたんだ!』って明日ローレンツ君に怒られちゃうね。今からドラム教えてあげる!」と言い、その日は付きっきりでドラムを教えてもらうことになった。
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そして次の朝がきて、また次の朝がきて、月日は巡って。先輩に関して言えば、高三のレオニーがたまに顔を出し、ある日は塾でローレンツがおらず、ある日は仕事とやらでヒルダがおらず。
時々中等部のリシテアに出くわして。スポーツや芸術の特待生を集めたらしい、Cクラスのイグナーツやラファエルと仲良くなって。教室の隅でいつも大人しくしているマリアンヌがヒルダと知り合いで、そのつてで軽音部に入ることになったことも聞いて、わずかに会話して。ちょっぴり無口で変人な頼れるコーチもできて。
そして今日もまた、ローレンツが塾に抜け、次のイベントのためにラファエルとイグナーツは二人で買い出しに。マリアンヌはリシテアと別所でキーボードの練習をしに行ってしまい、ヒルダと二人きりのドラム練習がはじまる。
「そういえば、ヒルダは仕事で抜ける日があるが、仕事って何してるんだ?バイトか?」
「うん、そー。読者モデルのバイト。兄さんから『家でごろごろしてばかりではいけない。学業や部活を捨て去る必要はないが、学生のうちにお金を稼ぐ経験も少しはしておいた方がいい。好きなので良いから、何かやっておくと良い。』って言われちゃってさー。たまに化粧品の試供品とかもらえるし、美意識上がるし、悪くないと思って続けてるのよね~。」
その内容を聞いて、少し驚いてしまう。入部初日に自分を格好いいといった当の本人が容姿をウリにする仕事だったのだから。
「芸能界に進みたいのか?」と聞けば、「んーん、どっちかっていうと服飾の勉強がしたいのよねー。でもまー家の方針もあるし、どうなるかなー。うちは兄さんが優秀だから、あたしがダメでも心配ないと思うけどさ。」なんて意外に真剣な答えが帰ってきた。
気の効いた言葉が思い付かず、色々ちゃんと考えてるんだな、とだけコメントをすると、「18歳、精々20何歳までで人間の資本的価値が決められる今の世の中って、なんだか息苦しいわよね。」なんてヒルダはらしくないことを言った。
「別にいつだって遅くないんじゃないのか。やりたいことがあるなら、50代からでも、60代からでも。勿論、今からでも。」
「クロード君って前から思ってたけど、夢想家ね。でもそんなクロード君の隣にずっといれるなら、とっても楽しそう。」
何気ない会話の中に挟まれたさりげないヒルダの発言を思い返し、「ん?」と疑問視する。
「ヒルダ、今のもう1回言ってくれないか?」
「えーと、確かこんな感じだっけ。クロード君って夢想家よね。でもそんなクロード君と......ってあぁ、やっぱり今のなし!」
「いーや、オレは確かに聞き取っちまった。待ったは無しだ。」
部室には窓から美しい夕陽が差していた。そんな状況で夢想家のオレは何も行動せずにいられなくて。
「なぁ、ヒルダ......。好きだ。お前さえよければ、付き合わないか?」
顎をくいとし、真剣に見つめていう。するとヒルダはあまり間髪を入れずに返事をしてきた。
「うん、あたしもクロード君が好き。クロード君と一緒にいると、なんだか楽しいっていうか。」
「そっか。ありがとな。ああ、ちょっと目をつむってくれないか?」
そうしてクロードはヒルダの唇にそっとキスを落とした。
*
初めてのキスの後、「ねぇ、今日、一緒に帰らない?」とヒルダに聞かれる。「ああ。」とクロードが答えると、ヒルダは「やった!」と喜び、その後「実は今日ね、お家にお母さんもお父さんも、兄さんもいないんだ。だからさ......。」なんて爆弾発言をしてくる。流石にさっきの今でと驚いて次やる曲の譜面を落とすと、「ふふっ、クロード君ったら初々しくて可愛いなぁ。今のは冗談よ。今日のところはね。」なんて言われてしまい、やっとからかわれたのに気付く。
その笑顔がなんだかむず痒くて、二人きりの時だけ鈴の鳴るような声で話すその姿にドキリとして、以前よりも部室の中で目で追うことは多くなって。
何となく暫くは誰にもこの特別な時間を誰にも秘密にしておきたい気もして、友人からの「お前結局どこの部活に入ったんだ?ここ部活多いし、どっかは入ったんだろ?」なんて問いかけにも、今の今まで受け流していて。
会う度により好きになっていった。そして思ったより家が近いことや、親同士仕事で交友を持った事があったことが後から後から発覚していって。
親同士の部下達がライバル関係だったらしく、一時ひと悶着あったこともあった。しかしそれは自分達が交友を深めていたお陰でなんとか問題は解消し、いつの間にか家まで行き来する仲になって、互いの将来までも意識するようになっていて。
*
「......そう、気づいたらこんなところまで来てしまっていて、オレはいつお前達に言い出せば良いかわからなくなってた訳だ。」ととぼけてみせたところで、友人からは「映画か!お前の恋愛は映画やドラマかなんかか!てかお前軽音部だったのか!」という突っ込みが入った。
「そーそー、ま、文化祭では流石にばらすつもりだったんだぜ?だからまぁ許してくれよな、我が友達よ!」なんてぼけてみせれば、奥の席にいたマリアンヌがわずかにくすりと笑う。
ああ、そういや、マリアンヌはオレ達の関係を知ってはいたが、詳細なきっかけまでは話していなかったんだったな。微笑ましいと思ってくれたようなら何よりだ。
「ま、人生も、青春も、今も、楽しんだもん勝ちってことさ!」
ヒルダには不評のウインクをバッチリと決めてみせると、クラスメイトの男共からキャーと野太い歓声が上がった。
「お前らなぁ!揃いも揃って息合いすぎだろ!」
「良いだろこれくらい!リア充など破滅してしまえ!喰らえ、陰キャビーム!これを浴びることでお前は明日彼女と別れる!むしろ今日の夜別れる!」
「ぜってぇ浴びたくねぇなそれ......。」
日常は、今日も平和である。
どうしてかこんな普通でたまらない平和な日々に酷く安心する自分がいるのであった。
-Fin-