【現パロ】ぐりっとちゃん、恋心自覚の巻。【シルイン】【注意書き】
1 書いている人の主生息地がクロヒルです。ですが、こちらはシルインがメインです。ただ、そちらも影響してクロヒル要素もそこそこ含んでいます。
2 クロヒルweekに際してあげた小説の現パロ設定と合わせて書いたシルイン小説になります。(この設定でシルインを唐突に書きたくなったため。)こちらだけでも読める筈ですが、少し設定がわかりにくいかもしれません。
3 でも謎のこだわりを発揮してしまい長いです。ご注意ください。
4 その他 青獅子NLをメインに小説書くのはこちらが初なので気になることなどあるかと思います。どうしても気になる際はそっとご指摘いただけますと幸いです。
5 主な登場人物 シルヴァン イングリット(後半の方が出番多いです。)
アネット ドロテア ヒルダ クロード
名前だけ出る方は諸々おります。
6 何はともあれ【現パロ】です!ご注意ください。
【本編】
帰り際の学校の正門手前。本日は生徒会及び風紀委員会による風紀指導の取り締まりが行われていた。
「クロード!ヒルダ!!また貴方達は二人して学校にピアスやイヤリングをしてきて。それに部室も散らかしすぎです。やりたい放題ですか?」
「お、ヒルダー。怒りんぼの生徒会役員兼風紀委員、イングリットが現れたぞー。さーどうする?」
「んー、どうしよっか、クロード君。あ、良い作戦思い付いたから、ちょっと待ってね...」
そういうとヒルダはごそごそとスマホを取り出し、誰かにLIMEを送る。
「今すぐ来てくれるって!」
「お、誰がだ?」
クロードとヒルダが呑気に会話を続ける横で、「貴方達は二人とも風紀委員に補導されているのですよ?わかっていますか?」とイングリットは更に怒っている。
「まぁまぁ、イングリットちゃん落ち着いてー。愛しの大学生のイケメン彼氏呼んどいたから!」
ヒルダが宥めると、イングリットは益々顔を真っ赤にする。ヒルダがLIMEを使って呼んだ人物が誰かわかったからだ。
「だ・れ・が、いつ!あの男の!彼女になりましたか?というかなんでLIMEを交換してるんですか!?」
「そこですぐ特定の人物を連想してしまう辺り、イングリットは満更でもないのがわかりやすいんだよなー。」
「あたしとLIME交換してるとこを気にしてるのもね~。」
なー、ねー、と言いつつ、クロードとヒルダは全く反省の色を見せずに二人で同調する。
「貴方達は全く......、」とイングリットが新たにお説教を始めようとすると、ヒルダはそれを遮り、「シルヴァン君はイングリットちゃん達が心配であたし達に連絡先交換して欲しいって良いに来たんだよねー。証拠にクロード君とも交換してるし。」とイングリットに諭す。
「まさかシルヴァンがそんな筈は......、シルヴァンですよ?どうせ女の子の連絡先を増やしたいだけで......。私への口説き文句も他の女性に対するものと同じ意味に過ぎません。」と不要なまでに否定する。
「しかしなー、あの時のあいつと来たら、すげーわかりやすかったぞ。普段の余裕はどこにいったんだ?って感じだったな。」
「うんうん。ほんとそれ。」
「『べ、別にこれはうっかり本命大学受かったせいで滑り止めと違って思ったよりイングリットとか、フェリクスとか、幼馴染みと離れるからあいつらの事が心配になってこんな申し出してる訳でもないし、イングリットとか特に一人だけ女子だしさ。アネットがいるといえ、アネットも小さいし女子だしね?二人とも弱くて一人じゃ身を守れないでしょ。決して心配とかそんなんじゃないけど、万が一の事とか起こったら流石に気になるっしょ?だから二人とも連絡先くれると嬉しいな!うんうん、ほら、ヒルダと交換すれば女の子の連絡先も増えるしさ!』って言ってたな。」
「わ、すごいクロード君。一言一句同じじゃん。記憶力良すぎー。譜面覚えるのもいつも早いもんね~。」
「貴方達の元では一切プライバシーへの配慮がなくなるのですね。流石に少しシルヴァンに同情します。」
えー、今のなんかダメだったかなー、さぁなー、と見え透いた寸劇をクロードとヒルダが始めたところで、後ろからふと大きな人影が現れた。
「オレがどうしたの~、愛しのイングリット?」
話題の主であった、ちゃらついた格好の19歳の男が現れる。
「シルヴァン。貴方はもう在校生ではありません。学園の敷地を踏みたいならきちんと入校許可を取って......、」とイングリットはシルヴァンにお説教を始めようとする。
するとシルヴァンが「まぁまぁ、イングリット!オレはまだ校門の線を踏んでいない。だからギリギリルールも犯してないし、ただここを通りががっただけの人物に過ぎない訳だ!」なんて馬鹿げたことを答えるので、「詭弁です!」とイングリットは益々起こってしまう。
「しかもシルヴァン、貴方とこんな話をしていたお陰で、あの不良生徒二人を取り逃しました。」
シルヴァンが辺りを見回すと、確かにいつの間にか、自分を呼んだ筈のヒルダもクロードも音を立てずにどこかへ消えていた。
「いや、あいつらは今日位の違反ならほっといても良いんじゃないの?違反つっても、イヤリングとピアスだけでしょ?」
「ヒルダのスカート丈もですし、色付きの口紅もです!恐らく目にもなんかやってますし、眉も整えています。」
「ああ、あれかー。オレん時も『芸能活動の一環で先生達から許可貰ってるの♡』とかテキトーな言い逃れしてたよ。多分嘘だけどさ。まーもしかしたらほんとかもしんないし、嘘でも大したことじゃないからほっといても良いんじゃない?」
「先輩でありながら後輩に模範を示せないとは困ったお方です。真似してるのか唆されてるのか、クロードも最近遅刻寸前だとフェンスを飛び越えていきますし、身体に纏う装飾はジャラジャラしてますし、あれで入学試験最高得点とは、我が校の名が廃ります。」
「会長はクロードのこと、面白い友達が出来て嬉しいと面白がってたけどなー。」
「うっ......、それは確かにそうですが......。」
会長といえば生徒会長。この学校で生徒会長といえば当然ディミトリの事であった。本来なら高校二年生から務める生徒会長なのだが、様々な事情の兼ね合いで、高校入学当初の一年から務め続けている偉大な生徒会長だ。イングリットの尊敬する人物の一人である。
生徒会長のディミトリと入学主席のクロード、何かと注目される二人は縁あってか、なにかにつけて対抗心を燃やす、良きライバルとなっていた。
故に、クロードは「秘技・ディミトリ召喚!」とか失礼なことを言って、たまにイングリットから逃げることがままある。その騒ぎを知り、苦笑しながらディミトリがやってきて、「イングリット、クロード、二人とも白熱しすぎだ。」と注意するのは一年生から二年生になる間に、それなりに鉄板の光景と化していた。
「なんなんですか、シルヴァン貴方は先程から。風紀を破ることを認めろというようなことばかり言って......貴方も確かに風紀を破るタイプの風紀委員でしたが、卒業して尚......。」
「いやいや、オレは決してイングリットの努力を否定したかった訳じゃないから!そういう厳格な所も、イングリットのすげー良いとこだし!ただ、いつもしかめっ面じゃつまんないだろ。だからなんていうかほら、えーっと、あの、そのーだなー...、イングリットに笑う?笑うつっーか......まぁなんていうか、楽しそうにして欲しくてさ。」
「ふふ、なんですかそれは。意味がわかりませんよ、シルヴァン。貴方は時々本当に、クロードとヒルダから聞いた通りの反応をするのですね。一体何故ですか?」
「え、あーっ、えーっと......それはー、なんでだろうなー......、うん!」
シルヴァンはきょどりつつも、内心で「あいつら、補導から逃げるためにオレを呼ぶのは良いが、ぜってー余計なことまで教えたな......。」とクロードとヒルダにわずかに憤りを覚える。
しかし話してしまったことに今さら不満を覚えても仕方ないと割り切り、話題を変える。
「ま、何はともあれ、補導対象は行方不明だし、生徒もどうせあの不良二人で最後だろ?もう暗いし、車で送って帰るぜ、イングリット。親御さん達にも宜しく言われてるからさ、な?」
最初は断ろうと言う構えだったが、「親の方からお願いされてるなら貴方の名誉のためにも受けない訳にもいきません。」と言い、なんとか受け入れてくれた。
*
車を停めていた近所のコンビニで買い物をし、そそくさと車に戻る。
「好きなとこに乗って!」というと、イングリットは助手席に乗り、自主的にきっちりとシートベルトをした。
エンジンをかけ、出発する。左折し、暫くは大通りを直進となったところで会話を始める。
「イングリット、オレと同じ大学の法学部受けるんだって?」
「はい。先生方にも会長にも勧められましたし、私自身も法学には興味がありますので。」
「一年でもうA判定なんだよ?優秀なこって。オレ、この大学入るために結構徹夜したんだぜ。」
「ええ、なんだかんだいってあの大学の理学部に合格しているシルヴァンは優秀なのだと思います。私は今はA判定ではありますが、あの模試はまともな指標にはなりません。高校三年生が受けてるような模試のように浪人生が入ってきませんし、二次演習もありませんし、どちらかと言うと難易度の低い模試です。」
「イングリットに二次なんて要らない気がするけどねぇ。風紀委員に生徒会、槍術部までやって内申もバッチリと来た。成績も良いし、推薦でちゃっちゃっと受けちゃえば受かりそうだけどねぇ。」
「いいえ、推薦は選ばれし才能を持つ方以外は自信を持ってはなりません。昨年受験した軽音部の高三生はスポーツ面で結果を残しての推薦合格だと聞いています。」
「去年の軽音部の高三っていったらレオニーか!あいつ、軽音と弓道両方やってたし、助っ人も色々出てたし、何かで取ったんだろうな。確か体大に行くって聞いた気がする。」
「......シルヴァン、貴方は女性の情報ならなんでも知っているのですか?」
「いや、レオニーは一個下で目立つ奴だし、クロードとヒルダのSNSでのレオニー合格祝い通知はうるせーし、嫌でも知ることになったつー感じかな。全国的に有名な芸大や体大に行くのはあのクラスの悲願だし、教師が祭り上げてたのもある。」
「......人の価値とは偏差値や体育の才能のみで決めていいものなでしょうか。」
「急に哲学科に行きたくなったのか?イングリット。それを考えるのは、とりあえず後悔しない程度の力を身に付けてからの方にしたが良いぜ。ま、イングリット相手には、本当はなにも心配することなんてないんだけどな。」
「そうですね。能力を持った上で言わなければ、それはきっと努力してこなかった者の言い訳としか取られないのでしょう。それに、私にも学業以外の心配事はありますよ。」
「おっ、なんだい?イングリット。シルヴァンお兄さんが聞いてあげようじゃあないか!」
「急にふざけないで下さい!......気になるのは、恋愛のことです。アネットも校則の範囲内で色付きリップを使ったりと色気付いていますし、ドロテアなんてもっとです。周りを見ていると、私は人よりそういった点で周りより遅れているのではないかと、時々思うのです。」
そんなイングリットの意外な悩みを聞き、シルヴァンは「へぇ」と驚いて少し目を見開く。まともに車を回せばもうすぐイングリットの家につく間際だったのだが、シルヴァンはイングリットにはわからないようにこっそりと回り道をした。
「そんなに恋愛が気になるなら、オレと付き合ってみる?あいつらのからかうような冗談とは違う意味で......ま、なんてか、イングリットだとなんかうまく言えねーけど、ガチの意味でさ。」
シルヴァンは顔を逸らし照れながら、少し低い本気の声で言葉を絞り出した。
そんな自分の告白を聞き、「ふふ、シルヴァン。思い悩む私を気遣ってくれているのですね。ありがとうございます。貴方はつくづく、根は優しい人だと思います。」とイングリットは答える。
色々と面倒になり、「あ~もう、イングリットの鈍感!オレ、結構今本気だったんだぜ?本気で!好き!なの!イングリットのことが!わかる!?」とやけくそで叫び声紛いのだっさい告白をすると、初めてイングリットの頬が赤くなった。
(やっとオレの思いが伝わったらしい。)
*
「はい、じゃ、ここでね、イングリット。さっきの返事はゆーっくり考えてくれて良いし、関係壊したくないとか悩むくらいなら、無理に答えなくても良いからさ。高校生って、大事な時期だしな。」
そんな想いを告げた後、イングリットの家の手前に一時駐車し、彼女を下ろし、扉に入るまでを見送る。
「シルヴァン......私は......、」イングリットは何かを言おうとしたが、結局言葉に詰まり、その言葉を発するのをやめてしまう。
「いえ、送って頂きありがとうございます。また今度。」
淡々とそれだけの言葉を発して、イングリットは扉の中へとそそくさと入ってしまう。
シルヴァンはといえば一人車の中に佇み、溜め息をつく。
(あー、あの反応......。失恋かなぁ......。いや、まだわかんねーけどなぁ......。)
そんな憂鬱な気持ちに浸りながら、帰路に着くのであった。
*
一方その頃イングリットはと言うと、動揺し、柄にもなくLIMEで恋愛相談を何人かに持ちかけていた。全て同じ文面をコピーして、「今まで本気で意識したことがなかったある男性に告白されました。どうすればよいでしょうか?」と。
一人目はドロテア。日頃仲良くしてくれているし、こういうのに長けてると思ったから。シルヴァンと歳が近いから。
「あら、グリットちゃんとうとう告白されたの?」
二人目はアネット。信頼できて、歳も近く話しやすいと思ったから。
「え~、イングリットちゃん告白されたの!青春って感じ!素敵でもお化粧っ気ないのに可愛いし、納得だよね~。」
三人目はヒルダ。日々補導からは脱走し続けてる癖に、こういうメッセージだけは無駄に返事が早いから。ドロテアと同じく、シルヴァンと歳が近い立場だから。
「あ、イングリットちゃんとうとう告白されたんだー!おめでと~♪おめでたいから今日のことは見逃してねー!」
一通目の返事は性格は出るものの、似たような内容であった。ただしあくまで似ているだけだ。問題は二通目。届いたメッセージの内容は、全員同じものだった。
「相手ってシルヴァンよね?」
「相手ってシルヴァン?」
「相手ってシルヴァン君?」
イングリットは焦る。
何故全員何も言わなくてもわかるのですかと。いえ、ヒルダは今日の流れを目撃していたのでまだわかります。ドロテアとアネットまでどうしてわかったのですか。心内で焦っていると、「多分誰でも相手わかるよ!」と真っ先にヒルダから心を読んだようなメッセージが飛んで来た。
(これ、恐らくクロードが隣にいますね。彼はたまに他人の心を読んでくる。情報筒抜けですか。)
本当に辛うじてだが、付き合わない限りはなんだかんだいって他人の秘密は意外に守る二人。この際、その情報漏えいの問題は後回しで構いません。
イングリットは考える。
そしてとりあえず、ドロテアとアネットに「そうです。何故わかったのですか?」と、ヒルダに「クロード以外にまで話さないで下さいね。何故シルヴァンとわかったのですか?」と無機質な文字を打つと、やはり三人から似たような内容が返ってきた。
「グリットちゃんもわかりやすいけど、そもそもシルヴァンが物凄くわかりやすいものねぇ。」とドロテア。
「んー、シルヴァン、ある時期から結構わかりやすくなったしなぁ......。アッシュ君なんか、生徒会に分かりにくい男はいませんよ、って言ってた位だし。」とアネット。
「シルヴァン君ってなんかイングリットちゃんにだけー、動揺して女慣れしてないチェリーボーイみたいになってる事多いからわかりやすすぎって言うか~。」とヒルダ。それに加えて「もっと言えば、ほっとくとあいつ多分失恋したとか思いこんでんぞ~。秘密はちゃんと厳守するから、ややこしくなる前にちゃんと答えとけよ。」と、クロードが書いたと思わしき文章もついてきた。
私でなく、シルヴァンがわかりやすい......?ということは、皆シルヴァンは私の事が好きと思っていたということ......?
一つの解にたどり着いてしまったイングリットは向こうからの気持ちといえ、周囲にここまでバレバレだったことが急に恥ずかしくなってくる。
「どうこたえればいいのでしょうか」と必死の気持ちで3件のLIMEを打つと、全て『自分の気持ち』とすぐに同一のテキストが返ってきた。
(皆さん同じ答えということは、それだけ恋愛に慣れているのですね......。)
シルヴァンに相談したコンプレックスの内容が少しだけ蘇る。イングリットはあの話がきっかけで告白されたのでしたね、と思い返す。
ドロテアからは追加ですぐに、「グリットちゃんがまだ自分の気持ちがわからないなら、素直にそのままその気持ちを伝えても良いんじゃないかしら?」というメッセージが来た。その言葉に少しだけ安堵する。
確かに私は私の気持ちがよくわかりません、と返事すると、「わからないのに振るのも、何か違うと私は思うわ。」とアドバイスが帰ってきた。
それは確かにそうでしょうと納得する。曖昧で不明なまま雑な返事をし傷付けるなんて、失礼きわまりないものです、とイングリットは感じていた。
すると今度は示し合わせたようにヒルダから。「でもまー、なんとなくで付き合ってみても良いんじゃないの?ふらなきゃ相手は傷付かないしさ~。ま、好きか嫌いかなんてなんとなくだし、考えすぎてもねー。」と、真似できなそうな感性。ただ、考えすぎてもわからなくなるものという点は少し理解が出来た。
アネットからは少し遅れて、「イングリットちゃんの気持ちはこうじゃないかなぁって見てて思う部分はあるんだけど、それはイングリットちゃん自身が考えて答えを出さないと、シルヴァンに失礼になっちゃうきがするんだ。だからイングリットちゃんは、恋するって事がどんな気持ちか、まずは理解する所から......なのかな?(なんだか上から目線な言い方になってごめんね汗)きっとその気持ちとおんなじ気持ちなら、それはシルヴァンが好きってことなんだと思うよ。」と少し長めの真剣な文章。
「わかっていないのは事実です、気にしないで下さい。」とだけアネットにすぐ返答をする。
そしてまた少し考えて、「恋をするとはどんな気持ちですか?恋した事がありますか?」と問いかけてみる。三人に聞けば、一人くらいは自分に近い答えが出る気がしたのだ。
ヒルダからは即レスで「一緒にいると楽しい気持ちになれて、ドキドキして、気付いたら目で追っちゃって~、」と届いた。しかし、文章の途中から雲行きが段々怪しくなっており、その辺りで途切れたので、恐らく隣にいたクロードが自分達の関係に気を遣い、余計なことを書かないようにスマホを奪い取ったのだろう。
(相談したのはこちらなのに、気を遣わせてすみません、クロード。貸しが出来てしまいましたね......。)
アネットからは「るんるんして~、楽しくて~、沢山話したくなるの!なんでいつもあーなのかなぁって思うけど、気になって仕方なくてさー。でもなんかとにかく、毎日が楽しいんだ!」なんて返ってきた。
ドロテアは「そうねぇ、一緒にいて楽しい人や、この人の為にならなんでも頑張れる!って思ったりすることじゃないかしら。グリットちゃんは、『シルヴァンの為に○○したい!』って思ったことはない?思えない?○○はお化粧でも、お洋服でも、大学受験でも良いのだけれど。ダイエットでも良いわね。」
「シルヴァンの為に何かを......。」
イングリットは無意識にドロテアからのLIMEを声に出していた。こちらはあるかないか、すぐには答えがでない。同じ大学を選んだのは、どうしてなのかわからない。
「シルヴァン君に色んな事して貰えて嬉しい!好き!も、好きのうちよ!LIME届くの早かったよね。例えば今日の帰り道。送って貰ったんじゃないの?」と、クロードからスマホを返して貰えたらしいヒルダの通知も追加で飛んで来る。
「シルヴァンに色んな事をして貰って嬉しいか......。」
シルヴァンにしてもらったことという点ではいくらでも心当たりがある。ヒルダのいうように、今日の送迎。ふとしたときに生徒会によく差し入れを今も持ってきたり。在学中は暴れる男子生徒に言うことを聞いて貰えず、彼らの遊んでいた箒が弾みでぶつかりそうになったところに、どこからともなく急に現れ、片手で受け止めたり。
そんなことは沢山あって、あげ始めればキリがない。
だがしかし、一つどうしても気になることがある。これは他の人に聞くしかない。
「シルヴァンが女性に優しいのは、誰にでもではないでしょうか?私固有だとは思えません。」
三人ともにこれを送ると、いつも返信の早かった三人ともが5分以上停止した。全員忙しかったのかと思うと、アネットから「ちょっと待ってね!」というLIMEだけが先に来た。
そしてヒルダのLIMEが今度は届く。「シルヴァンは確かに女子皆に優しくするが、本音を出したり、わざわざ危ない目にあってないか毎日のように心配してんのはお前だけだって。」という文面。恐らくヒルダが投げ出し、クロードが書いたのだろう。
そういわれてみればそういう節もあったような、と心当りがいくつも思い付く。
「この間があるってことは、気付いてなかったのか?笑 あいつも難儀なもんだな。」と最早クロードが書いていることを隠す気が更々ない文章が送られてくる。
これにどう答えたものかと悩んでいると、アネットから通知が来て「シルヴァンの優しいには種類があるんだよ、イングリットちゃん!」と書かれていた。
イングリットは全員の話を聞き、少しずつシルヴァンの気持ちが本気であることと、自分の気持ちが少しは見えてきたような気がしていた。
一人ずつに「ありがとうございます。今なら先程より、自分の気持ちがわかりそうです。これ以上お付き合いさせるのも悪いので、一度ゆっくり考えてみます。」というメッセージを送る。すると、「ゆっくりで大丈夫よ。時間は大丈夫だから、なんでも相談してね。」だとか「頑張ってね!応援してる!」だとか、「ま、みてる限り、悪い方に転ぶとは思わないけどねー。またなんかあったらきーて!」だとか返ってきた。
*
スマホを置き、柄にもなくベッドに雑に寝転び、枕をいじくりながら考える。
(私の気持ちは......。)
イングリットは暫く考えた後、またスマホを取り、LIMEを開いた。
今度は先程の三人とのトーク画面でなく、シルヴァンとのトーク画面。
送信したメッセージは「明日はお休みですが、会える時間はありますか。」の一言だけ。
するとすぐに既読がついて、「いつでも歓迎!どこかに行きたいなら、迎えにいく。」といつものシルヴァンのメッセージが返ってきた。
では明日の朝10時にうちに来てください、とだけ返事すると、OKを意味するスタンプが飛んで来る。
何故だろう。今まで意識したこともなかったただのLIMEのやり取り一つですら、急になんだか恥ずかしさを帯びてくる。
(いえ、答えは先程考え抜いた筈です。)
明日の為にも、シャワーを浴び、浴槽に浸かり、髪の毛を乾かして、後は最低限いつもやっているような肌の手入れをするだけ。余計なことはせず、今宵は早めに瞼を落とすことにした。
*
次の日。
「早かったですね、シルヴァン。」
九時半には「近所の喫茶店にいるよ」と連絡してきたので、さっさと出迎える事にした。
「今日はどんな用?」
「少し行きたいところがありまして。でもその前にお話があります。」
「......昨日の続き?」
「はい。」
「結論から申し上げますと、私はシルヴァンの事を、自分が思ってるより好き......なのかもしれません。けれど私は貴方ほど恋愛に慣れておらず、この気持ちがどういう類のものかまだちゃんとはわからないのです。貴方の気持ちに誠実に答えたい。待っていただけますか?シルヴァン。」
「イングリットからそんな言葉を聞けるなんて思ってなかったかんなぁ。オレ、失恋したと思ってたし。待つくらいならいくらでも。そもそも高校生に手だしたりしたら犯罪になっちまうし、最低2年は猶予あるぜ、よゆーよゆー。仮にイングリットがオレを好きじゃなくても、好きになって貰えるよう頑張るさ。」
最後の方は場を和ませるため、茶化すために言った言葉であろうことを察する。
「じゃ、今からどこに行く?」
「海に行きたいです。」
「OK、じゃ、車飛ばそっか!」
アクセルを踏んだ車が勢いよく出発する。二人の旅路はまだ始まったばかり。青い海と青い春のため、車は動き出した。もう簡単には止まらない。