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    むぎぴ

    @hoping_mugi

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    むぎぴ

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    一那×四季SS
    四季といろんなところに出かけるうちに、突然一那がプロポーズすることになる話

    その先が見たいから「もう、行けるだろ?」

    デッドマターとの戦いが終わった後、シキはそう言った。
    頭の中の声が聞こえなくなり、一那自身、以前よりは人混みは怖くはない。行きたい所は本で読んだ中に色々とあったが、まだ1人では難易度が高い場所ばかりだ。
    正直にそう伝えるとシキは笑いながら、毎回出かけるのに付き合ってくれた。


    最初に行ったのは、国立大劇場の再開第一弾演目の歌舞伎だった。
    イザヨイが持っていたチケットを奪っ……否、譲り受けたものだ。
    華美な衣装を着た登場人物たちが目を引く演目で、大分前の歴史の話だった。戦いの場面が多くあり、以前の一那なら理性が持たなかったかもしれない。ただ言い回しが古かったためか、内容を理解するのが難しかった。

    「一那、どうだった?初めての観劇は」

    「……結局どちらが勝ったのか……話がよく理解できなかった」

    劇場を出て早々に呟くとシキも笑いながら「俺もだよ」と言った。



    シキの大劇場のおすすめは活動写真だというので、翌週公開のチケットをその場で買って帰路についた。翌週、改めて劇場で一緒に見た活動写真はわかりやすいストーリーでアクションラブストーリーだった。一那には人を愛する気持ちはよくわからなかったが、ハッピーエンドで最後に幸せそうに笑う2人の姿には、心が温かくなるような気持ちになった。


    そんな活動写真を見た後に昼飯に入った飲食店で、見慣れないじゃがいもメニューがあったので店主に聞いたところ最近始めた夜限定のメニューだという。夜は居酒屋になるとのことで、翌日の夜に改めて2人で食べに行った。
    話し上手な店主からは日本酒に合うと勧められるままに酒を飲んでいた。酒にあまり強くない一那はフワフワしたまま昨日観た活動写真の話を始める。
    その様子をお銚子を傾け、シキはご機嫌に「一那ってそんなに酒強くなかったんだなぁ」と笑っている。ほろ酔いの一那は途中で出てきた白いうさぎが可愛かったという話を何度もしていた。

    「一那がそんなに言うなら今度は庭園のふれあい動物園にでも行くか?うさぎもいると思うけど」

    「……あそこはダメだ……オレは動物に嫌われている」

    「なんだそりゃ?それなら、そうだな……」

    ふむ、と言う表情をしながらシキは一那へ「明日の朝、慰霊碑の近くまで来れたら、代わりにいいもの見せてやるよ」と伝えた。酒の入った愉快な夜は、半分寝てしまった一那の姿を見てお開きになった。



    翌朝は澄み切った冬晴れで、木々の多い慰霊碑周りの空気がシンとしている。一那は昨日の酒が少し残っている頭でぼんやりとシキを眺めていると、しゃがんで何かを探しているようだ。

    「おいで、いい子だ」
    そういうと、カサカサと音を立てて茂みから白い猫が出てきた。シキに慣れているようで、手のひらから餌の鰹節を貰ってぺろぺろと舐めている。

    「こいつ、気まぐれだけど大人しいから、撫でても平気だぜ」

    「……オレでも、か?」

    「ほら、うさぎじゃないけど真っ白だろ?」

    一那が恐る恐る背中を撫でると、ふんわりとした毛並みがとても暖かかった。口をもぐもぐさせながら、猫は何くわぬ顔をしている。

    「あたたかい」

    「うさぎも可愛いけど、猫も可愛いだろ?」

    「ああ」

    猫があくびをする。
    世の中が平和だと、冬の朝の日差しはこんなに暖かいと感じるものだったのか、と一那は思った。



    純の志献官は戦う必要がなくなったため、順次解散の命令が出ていた。
    そんな中でも、たまに行政から降りてくる煩雑な復興業務のために四季も一那も防衛本部に残っており、そのまま年を越していた。最近はずっと2人で国立大劇場の演目に出かけていたし、庭園の動植物を眺めに行ったりした。もっとも冬なので動物たちはあまり活動的ではなく、寒さでじっとしていたが。

    年が明け、燈京駅前は以前よりさらに活気が出ていた。
    来月には列車の運行が一部の区間で再開するらしい。復興業務の帰りにシキと2人でメシを食いに入った食堂で、近くにいた常連らしき客たちが話しているのが聞こえた。

    どうやら新しく「ハコネ」と言う場所まで鉄道が伸びるらしい。

    「ハコネ」

    「知ってるのか?一那」

    「昔読んだ小説によく出てくる温泉街の名前だ」

    「へぇ温泉、いいじゃん。行ってみるか?」

    「え?」

    シキは以前から鉄道が乗って見たかったというので、切符を買い、2人でハコネという本物の温泉街に行った。かなり侵食が進んでいたためか、まだ掛け流しの源泉ではなかったが、復興の一貫で湯屋が多くあり、一緒に風呂に入って一泊して、また鉄道に乗って燈京へ帰った。



    そんなふうに、一那はシキと色々な場所に行った。
    流石にもう1人でもいけるだろう、と言われそうな回数になったが毎回、シキは付き合ってくれた。2人で一緒にどこかに行ったり、何かをするのが、充実していて、楽しかった。

    いつの間にか一那にとってこのあたたかい時間は、手放すのが惜しいものになっていた。



    ******

    「これは土産だ」

    「!?えっ!?一那が土産を買ってくる時空って何これ!!何があったの?」

    「シキと行った」

    「四季と!?箱根まで行ったの!?」

    復興事業のために同じく防衛本部に残っているイザヨイに、先日の鉄道旅行の土産を渡すため、久々に寮の部屋を訪れた。旅行に行ったら土産を買う、と読んだ物語の中に度々出てきていたのを思い出したので、折角なのでイザヨイに買って帰った。シキは「別に土産なんていらないだろ」と言ってはいたが……。

    「わ〜い!温泉まんじゅうだ〜」など呑気な声をあげながら、早速イザヨイは饅頭を頬張っている。もぐもぐと口を動かしながら「しかしさぁ」と話を続ける。

    「一那と四季、いつの間にそんなに仲良しになったのよ?」

    「……仲良し、なのだろうか?」

    「仲良しじゃなかったら一緒に旅行なんて行かないでしょ?」


    「ただオレはシキと一緒に出かけるのが楽しいと、思ってる」

    「ん?つまり一那はずっと四季と一緒にいたいってこと?」

    「一緒にいて、心地がいい」

    そういうと、イザヨイは残りの饅頭をごくりと飲み込んで、まじまじと一那を見つめて真剣につぶやいた。

    「それってさ、もう恋じゃない?」

    「恋?恋や愛はオレにはよくわからない。だが、ずっと一緒にいたいと思ってるのは確かだ」

    イザヨイは顎髭に手を当ててながらブツブツ何かを言っている。あの一那がねぇ、ふんふん。なるほどねぇ。ひとしきりつぶやいた後、一那の方を改めて振り返って続ける。

    「じゃあさぁ一那」

    「なんだ?」

    「四季にプロポーズしたら?ずっと一緒にいたいって伝えたら、OK貰えるかもしれないぜ?」

    「プロ、ポーズ??それはなんだ?」

    プロポーズとは……今まで読んだ本の知識を思い出そうしたが、一那にはよくわからなかった。そんな一那の様子をニヤニヤ見ながらイザヨイがドヤ顔で伝える。

    「プロポーズっていうのは、そーだな。一生隣に居たいと、伝えることだ!」

    「それすれば、これからもシキと一緒に出かけたりできるのか?!」

    「んーまぁ世間一般的にOKだったらそういう意味だよねぇ」

    「…わかった。プロポーズ?というものをオレに教えてくれ」

    食い気味に聞いてくる一那、可愛いな、なんて思いながらイザヨイは、周りから見聞きしたプロポーズのあれそれを伝授するのだった。

    ******

    いつもの着流しではなく、きちんとした厚手の着物に外套を羽織った姿をしていけ。
    イザヨイからそう言われた一那は、濃い灰色と深緑の着物を着込んだ。

    あと指輪を用意して渡すのがプロポーズの基本だと教えてくれた。
    値段は給料3ヶ月分。そういえばオレは自分の給与を知らない。なんとなく金が口座にあることしか理解していないが、メシや本以外で使うことがないのでよくわからない。

    なので駅裏の露天に小さな緑色の石が嵌ったシンプルなシルバーリングがあったので、それを購入し、無造作に着物の懐に忍ばせた。

    プロポーズの適切な場所については、本を色々探して読んでみたところ、夜景がきれいな場所がいいと書いてあった。
    今は役目を終え、使われなくなった鉄塔でもいいかと思ったが季節は冬だ。鉄塔はかなり寒い。
    なので海から燈京の街が見える臨海演習場に呼び出すことにした。今は港の倉庫として運用を変更され始めている場所だ。
    一那的に準備は完璧だった。



    「こんなさみぃところで用事ってなんだよ?ケンカでもすんのか?」

    日も暮れて、誰もいない海辺の演習場に呼び出されたシキはいつもながらに薄着で、寒そうで少し不機嫌だった。

    「いや、ケンカじゃない。プロポーズだ。」

    その目の前で、いつもと違う格好をした一那が真剣な顔で言う。強い風が吹いている。

    「……はぁ?プロポーズ?一体誰が?」

    ますます怪訝な顔をしてシキが尋ねる。聞き間違いを疑っていた。

    「オレが、シキに、だ」

    「は?」

    シキは訳がわからないという顔をしていた。

    「プロポーズって意味わかって言ってんのか?」

    「ああ」

    「本当か?プロポーズって指輪とか渡すやつだろ?」

    「指輪もある」

    「マジかよ」

    一那はゴソゴソと懐から小さな指輪を出した。鈍く外灯が反射しキラリと光っている。不器用に差し出しながら一那が伝える。

    「シキ、オレと一緒に、色々なところに出かけたり、ずっと隣に居てほしい」

    「一那……」

    そういうと少しの沈黙ののち、合わせていた視線を逸らし、シキは下を向いてしまった。
    少し震えているのが見える。きっと寒さではないだろう。一那は何かを間違えてしまったのだろうか?

    「っははは」
    その刹那、シキは震えながら腹を抱えて笑い出した。

    「マジでプロポーズじゃん」

    顔を上げたシキは笑いながら、少し泣いているようだった。笑いすぎたのだろうか?
    これはプロポーズは失敗、ということなのだろうか?急に苦しい気持ちになった。今度は一那が下を向いてしまう。
    しゅんと頭を下げたまま、一那がいう。

    「シキ、お前と一緒にいたいと思うのはオレの驕りだったか?」

    「いや、そうじゃない」

    そういうと、指輪を持った一那の手を取りながらシキがつづける。寒そうにしていたシキの手はいつの間にか温かくなっていることに気づく。

    「ありがとな、一那」

    そういうと、指輪を受け取り、微笑んだ。

    「……これからもよろしくな」

    「シキ……それは……」

    「プロポーズ成功ってことだろ?」

    「……!」

    「これからもおれと一緒に色々な場所に行こう、一那」

    そう呟くシキの表情は満更でもないようだった。
    かける声は温かで、一那はやはりずっと隣に居たいと改めて思った。

    ******

    「全く一体誰の入れ知恵なんだか……」

    「イザヨイに聞いた」

    「まぁ、だろうと思ったよ」

    帰路、ネタバレにため息をしつつ、会話を続ける。
    月がうっすら姿を見せている。

    「次はそうだな、一緒に駅裏に指輪でも買いに行くか?」

    「もうここにあるのにか?」

    キョトンとする一那を見てシキは笑った。

    「ばーか。お前の分だよ」

    明日もその先も、一緒に行こうか。なぁ、一那?



    *おわり*


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