パッと会場内が暗転し、にわかにどよめきが広がっていく。
緊張と怒号が走る客席の中で、ひとり俺だけがうろたえなかった。でも、落ち着いているわけじゃない。ばくばくとうるさい胸に片手を当てて、深呼吸を繰り返す。これが正念場といわれる時なのだろう。混乱は長くは続かない。やがてスタッフから合図が送られ、いよいよだと思わず生唾を飲み込む。
そして俺は意を決すると、握りしめていたスイッチを入れたのだった。
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「……せーのっ、あのトキ! どのトキ!? SAMATOKI'Sキッチン~! わー、パチパチパチ~!」
「あ? ンだよそのダセえタイトル、聞いてねえぞ!」
「シーッ! 左馬刻、もうカメラ回っとる」
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