ヒトモシとアブソルの話 ぽつり。空から落ちた小さな水滴が一つ地面に落ちて、じわりと地面に広がった。次に少し離れたところにまた一つ。一つ二つ、少しずつ地面を濃く濃く染めていく。叩きつける音の間隔が短くなるまでにそう時間はかからなかった。
そのヒトモシは雨が降り出す前から洞穴の中にいた。周りには他に誰もいない。薄暗い洞穴を好むズバットも、冷たい地面が好きなディグダもいない。静けさの中、ただの一匹だけで洞穴の中で過ごしていた。外に出なかったのに理由は無かった。強いて挙げるなら、洞穴の入口で感じた空気は少しだけ重たくて、なんとなく自分の動きが鈍くなったような感覚があったから、だった。
ヒトモシがその違和に気付いたのは、洞穴の中にはぽうぽうと増えた小さな炎。続けてたたっ、たたっと走るような、弾けるような音だった。そこでヒトモシは先程の予見が当たっていたことに思い至る。雨音だ。外の雨は少しずつ勢いを増しているのか、呼応するようにゆらゆら、青い炎が多数揺らめく。
5064