振袖事変 元旦にお頭や大幹部のみなさんはウタと一緒に初詣に行くことが毎年の恒例になっているらしい。おれはありがたくも今年の会にお声掛けいただき、大晦日の夜からお頭のご自宅にお邪魔している。おれの他にもスネイクさんやライムジュースさんと大幹部の皆さんもいらっしゃっていて、大晦日はご家族と過ごすヤソップさんや元旦の仕込みをしているルウさんなどご不在の方も何名かいらっしゃったけれど、元旦の朝にはお頭のご自宅に集まりになっていた。
大幹部の皆様がお集まりになると、今度は入れ違いにお頭とウタが出かける準備を始めた。なんでもお頭のご家族へのご挨拶と、向こうの奥方様にウタが着付けをしてもらうために、あのゴール・D・ロジャーのご自宅に向かうらしい。
「お頭ァー、そろそろ起きろ」
「んぁ……?」
「ウタは支度終わったか?」
「ばっちり!」
こちらも毎年恒例らしく、皆さん手慣れた様子だ。酒瓶を抱えてお休みされていたお頭を起こして着替えをさせながら、一足先に準備を終えた ウタにスネイクさんが先方への土産を渡していた。
「やべェ!もう時間じゃねェか!――ベックー!おれのネクタイどこだ?」
「あんたの頭」
「ウタ、これが先方への土産だ。エースが育った海で作られた酒とルージュさんがお好きな花の砂糖漬けだ。よろしく伝えといてくれ」
「任せて!──シャンクス!ズボン履いてよ!」
「──ん?ベックー!」
「ソファの下……少しは自分で探せよ」
ちょうどお頭がジャケットを着た頃に、ヤソップさんのスマホが鳴った。どうやら先ほど手配されたタクシーが到着したらしい。
「シャンクスー!タクシー来たってよ!」
「よし!行くぞウタ!」
「シャンクス、コートも……って、もう!行ってくるね!向こう出る時にベックマンさんに連絡するね!」
「お守を頼むぞウタ」
ウタが扉を閉めて、お頭とウタが出かけて行った。ベランダから二人が乗り込んだタクシーが走ってゆくのを皆さんと見守り、やがて見えなくなる。それを見届けた後、部屋に戻って一番にヤソップさんが人差し指を立てた。
「野郎どもーっ!準備はいいかー!」
「おー!」
「第三回!今年のウタは着物か、それとも振袖か対決ーッ!シャンクスが漢を見せたと思うやつは右!ウタが今年も振袖だっつーの!ってやつは左!」
「え?えー?!」
ヤソップさんの掛け声と共に皆さんが部屋に左右に分かれた。お頭が漢?ウタが振袖?部屋の真ん中で残されたおれだけが話についていけていない。みなさんを見上げたままわたわたするおれに気付いたヤソップさんはバチンとご自身の額を叩いた。
「そっかァ!ロックスター、お前は初めてだったなァ!驚かせて悪かったな!」
「いえ…」
「よし決めた!お前は今年審査員だ!」
「はぁ……趣旨をご説明してもらっても良いですか?話についていけていないので、判断が難しいっす」
「いいぞ!いいぞ!──ってことでベックマン、頼む!」
「お前じゃないのかよ」
「ベックマンの方がわかりやすいだろォ?」
「ったく、」
まんざらでもない顔で副船長は煙草を吹くと続ける。
「振袖が着られる女の条件を知っているか?」
「すんません…女は興味がなくて」
「、お前らしいな。──振袖は未婚の女しか着ないことになっている」
「ではこのゲームはウタが振袖か着物のどちらを着るかを当てるってことっすか?」
「加えてその理由がお頭かどうかを賭ける」
「お頭?なんでっすか?」
「ククッ、まぁいろいろあんだよ。男と女にはな」
「は、はぁ……」
「聞いていればわかるさ。ここに座れ」
副船長はヤソップさんと人ひとり分のスペースを空けて座る。おれにお二人の間で座れってことか?恐れ多いが、お二人ともおれを待ってくださっている。お二人の間におずおずと腰下ろしたおれを見届けて、ヤソップさんがパンッと手を叩いた。
「よーっし!んじゃ、改めて行くぞー!!第三回!今年のウタは着物か、それとも振袖か対決ーッ!」