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    さざれゆき3班 https://fusetter.com/tw/4zzYdpyJ#all こちらの

    #さざれゆき又鬼奇譚

    泡沫の小噺 ●

    「絵本読んでたんだ」
     机の上の童話の横に、手土産のドーナツの箱を置きつつ。
    「うん! 人魚姫。知ってる?」
     小さいその子がまんまるな目で見上げてくるのを――伊緒は優しく見下ろして。
    「知ってるよ~。アンデルセンだろ」
    「あんでるせん」
    「ホラここ、書いてある。作者の名前」
    「ほんとだ」
     指先の「ハンス・アンデルセン」から、鉱太郎は人魚姫の表紙をしげしげと眺め。
    「ねぇいおべ」
    「うん?」
    「人魚って本当にいるの?」
    「ん~……鉱太郎はどう思う?」
    「いると思う」
     迷う素振りもなく、鉱太郎は即答した。伊緒は「ほう」とその様子に興味深げに言葉を続ける。
    「どうしてそう思ったの?」
    「あのね……」
     ちら、と台所でお茶の用意をしている祖父を見て、鉱太郎は声をひそめた。
    「じいちゃんがね、じいちゃんの友達が人魚に呪われたって言ってた。だから人魚はいると思う」
    「ほうほう」
    「それでね、じいちゃんはね、友達にかけられた人魚の呪いを解いてあげたいんだって」
    「ほうほうほう」
    「僕、そのお手伝いがしたい」
    「そうかあ~、鉱太郎は優しいね」
     伊緒は鉱太郎の頭にポンと手を置き、柔らかい髪を優しく撫でる。
    「じゃあまずは、しっかり学校行って、いっぱいお勉強しないとだな」
    「じいちゃんにも似たようなこと言われた……」
    「そらそーだ。誰かを助けたいなら、まずは自分を強くしないと。強くないまま手を差し伸ばしても……自分まで引きずり倒されてしまうからね。こういうのを『共倒れ』っていうんだよ」
    「ともだおれ……」
    「助けたい気持ちに焦って、あれもこれもと自分の限界以上に手を差し伸べたら、何も救えないどころか自分まで潰えてしまうから。そこも気を付けるんだよ」
    『いおべ』の言葉は時々、鉱太郎には難しい。だけど、優しいだけでは誰かを助けることは難しいらしいことは伝わった。
    「……だけど、誰かを助けたい、力になりたい、っていう鉱太郎の優しさは本当に立派だ」
     彼にそう言われ、鉱太郎は弾かれたように顔を上げる。立派……ってことはつまり、
    「いいおとこ?」
    「いいおとこ~~~にはまだちょっと早いかな~?」
    「なんだ~~」
    「ふふふ。ほら、ドーナツ買って来たんだよ。一緒に食べよう」
    「うん!」
     テーブルに座る。鉱太郎の祖父がお茶を出してくれる。「じいちゃんも一緒に食べよ」と鉱太郎は声を弾ませ、ドーナツの箱を開けた。

     ――甘い味を頬張りながら。
     伊緒は幼い命と、そして共に歩み続けた老いた命とを交互に見やる。

     ――なあ鉱太郎、知っているかい。
     その絵本の中では、人魚は泡になって消えておしまいだろうけど。
     実は人魚はその後、風の精霊に生まれ変わるんだ。
     そうして300年したら、天国にいけるんだけど……
     愛されている子供と一緒に微笑めば、300年は1日ずつ短くなるんだってさ。


    『了』
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    DOODLE十三 暗殺お仕事
    初夏に呪われている ●

     初夏。
     日傘を差して、公園の片隅のベンチに座っている。真昼間の公園の賑やかさを遠巻きに眺めている。
     天使の外套を纏った今の十三は、他者からは子供を見守る母親の一人に見えているだろう。だが差している日傘は本物だ。日焼けしてしまうだろう、と天使が持たせてくれたのだ。ユニセックスなデザインは、変装をしていない姿でも別におかしくはなかった。だから、この日傘を今日はずっと差している。初夏とはいえ日射しは夏の気配を孕みはじめていた。

     子供達の幸せそうな笑顔。なんの気兼ねもなく笑ってはしゃいて大声を上げて走り回っている。きっと、殴られたことも蹴られたこともないんだろう。人格を否定されたことも、何日もマトモな餌を与えられなかったことも、目の前できょうだいが残虐に殺処分されたことも、変な薬を使われて体中が痛くなったことも、自分が吐いたゲロを枕に眠ったことも、……人を殺したことも。何もかも、ないんだろう。あんなに親に愛されて。祝福されて、望まれて、両親の愛のあるセックスの結果から生まれてきて。そして当たり前のように、普通の幸せの中で、普通に幸せに生きていくんだろう。世界の全ては自分の味方だと思いながら、自分を当然のように愛していきながら。
    2220

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