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    Traveler_Bone

    骨。

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    Traveler_Bone

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    RPGを想定してる奴

    最後の間数多の敵やボスを倒し、ようやくラスボス部屋の前へと着いた。その扉は自身の身の丈の何倍も大きく、まるで来る者すべてを拒むかのように固く閉ざされていた。しかし、今自身が見ていたのは、その扉ではなかった。その前に、静かに鎮座している…一人の男だった。

    「…ん?ああ、あんたか…よう、久々、だな?」

    その男はこちらをちらりと見ると、片手をあげて挨拶した。こちらを知っているかのように語る理由は、今までの旅路でよく出会っていたからである。それは、ただ孤独な旅人として各地を歩いていたはずなのだが、今回は旅人ではないらしい。もう片方の手に持つ物は、地図などではなく…その者の凶暴性を表すかのような、朱色の鎌であった。

    「…驚いたか?最後の門番が、その仕事を忘れて色んなところ回ってる、って。門番にも休みは必要なんだよ。といっても、ほぼずーっと遊んでたんだが」

    旅人はそう笑うと、上げていた手を下ろして立ち上がった。ちらりと見えたその目には、先ほどの声に似合わず、黒く淀んでいた。しかしながら、正気を失っているという訳でもない。いや、はなから正気などではなかったのかもしれない。ゆっくりとこちらに歩み寄りながら、語りかけてくる。

    「正直なところ、私はそんな戦闘が好きじゃない。出来ることなら、さっさと放棄したいぐらいだ。あんただってそうしたい、だろ?」

    どこからともなくコーヒーカップを取り出し、中の液体を飲む彼は、隙だらけのように見える。今、剣で斬りつけても、魔法で焼き尽くしても、あっさりと勝てそうなほど。しかし、なぜか…本能的に、やめておくべきだ、と脳は判断を下した。ただならぬ何かが、警戒心を高めているのだ。

    「だから…あー、なんだ。今、ここで撤退してくれれば…私は仕事をしなくて済むって話だ。今までの苦労を無駄にしろ、っていうことになるが…そこは、まあ。諦めてくれ。私だって、好きでこの仕事をやってるわけじゃないんでね」

    男はそう苦笑いして、鎌を肩にかける。ここから退くつもりはないらしい。しかし、こちらも撤退するつもりは一切ない。この世界の秩序を守るためにここに来たというのに、武器を持つ手を離す、なんて。そんなこと、自分自身が許せない。

    「…そうかい。あんたは、うちの凝補がやってることが間違ってる、って言いたいのか。俺は、そうは思わねえんだけどな…まあいい。それを決めるのは、俺じゃない。ただ、本当に良いんだな。凝補に、戦いを挑むという覚悟があるんだな」

    軽かったはずの言葉は、一瞬にして重みを増していった。帽子越しに来るその目線は、いつしか睨みへと変化していくのを感じる。彼は、よほど魔王のことを信じているのだろう。だからこそ、狂気に陥った街を知らない。混沌とした世界を知らない。見たいものだけを見て、遊んでいた彼は、何も知らないのだ。
    剣を構える。自身の覚悟を表すように。それに応じて、周りの仲間も杖や盾を装備し、門番へと向ける。世界を救う、それを目的として作られたこの編成は、もう数年経った。最初は争うことなんかよくあったが、最後に争ったのはもういつだったか。それすらも忘れるぐらいに、なくなった。

    「…わかった。なるべくなら、戦いたくなかったんだが。それだけの覚悟があるってことだ、俺が間違ってるんだろう」

    彼の服装が変化する。いつもの旅の服装から、黒い、タキシードのような服装へと。鎌は赤い霧を帯びて、彼の顔からは表情が消える。

    「それなら、お前の力で証明してみせろ。俺が間違っているのだと、その武器で理解させてみろ。それと同時に、俺はお前がこの先に行く者に相応しいか、判断しよう」

    静寂が、空間に満ちる。静かな風が、壁の炎をゆらゆらと揺らす。今もなお、世界では争いが絶えず、苦しみが続いている。それを止めるためにも、この戦いに勝たなくてはならない。
    鎌が振り下ろされ、辺りに重い金属音が鳴り響く。それと同時に、少しだけ部屋が揺れたような気がした。より一層と警戒心を高め、武器を握る力が強くなる。

    「…審判を、始める」

    門番の瞳が、赤く燃えるのが見えて…戦いは、始まった。
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