神様のいうとおり「穢れる」のは俺だけでよかった。だから、俺は「俺」でいさえすればよかった。ステージの上で浴びるライトの光も、全身で受けとめたありあまるほどの声援も、すべては「HiMERU」のものだった。だから俺は汚れても平気だった。
砂漠のような皮膚に、そっと舌を這わせる。たったそれだけの行為で、女の睫毛は震えた。表面を濡らした唾液は、いつの間にか消えてしまう。春の夜はまだ少し肌寒く、おめでたい俺の頭はもう既にぼんやりとして、ああきっと部屋が乾燥しているせいだ、と安直に結論づけたりした。何を喋って、どんなことをしたのか。靄がかかったみたいに曖昧で、記憶にない。気がついたら朝を迎えていて、俺は裸のまま白いシーツにくるまっている。体液が零れた跡を見て、夢ではなかったことにひどく安堵した。あの行為が夢だったのなら、俺はもう一度、あの悪夢に耐えなければならないということなのだから。せめて夢の中でくらい汚れずにいられたらと願わないわけではないが、それも「HiMERU」のためならば瑣末なことだった。
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