いつもと違うことをしようとすると、ひどくドキドキする。かれこれ数分間、私は乙木家のインターホンの前で震えそうな指先を出したり引っ込めたりしている。
(落ち着くのよ、私!自然にすれば良いの。大したことじゃないわ)
す〜、はあ。深呼吸をひとつして、ついにええいっとボタンを押した。バッグを持つ手に力がこもる。
「はーい! あっ、ネムちゃん! 待ってたよー」
明るく元気な声の応答が聞こえて、玄関扉が開かれた。どうぞ!とニコが笑顔で迎えてくれる。
「お邪魔します」
「いらっしゃい」
リビングの方から、モリヒトくんが顔を出した。
「飲み物をいれよう。紅茶で良いか? ニコはどうする」
「ええ、ありがとう」
「ニコ、アイスティーおかわり!」
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