椿の名のごとく椿は枯れるとき、首が落ちる様に花が丸ごと落ちるため縁起が悪いとされています。魔界で自生することはなく、人間界の主に東洋の方に生息しており──
「暇だ…」
寒さが厳しくなりつつある夕方、魔王ハイルは仕事が早く終わった為、図書室で暇つぶしをしていた。
(夕飯まであと2時間、本を読むのも飽きた…何かすることは…)
暇を持て余していると誰かが近づいてきた。
「ハイルじゃないか、調べものか?」
そう話しかけてきたのは魔界No.3のセウ=シェーンだった。
「セウ!いい所に来たな!話し相手になってくれないか?」
「それは構わないが何をしてたんだ?花の図鑑…お前、花に興味があるのか?」
「いや、興味はねぇな。暇だったから適当な本読んでただけだ。見てくれよ、人間界には──」
「ほう、そんな物が──」
2人は話に夢中になっていた。ここが図書室だと忘れるぐらいに…
「少々静かにして貰えませんかねぇ…?(💢'ω')」
「わ、悪い…つい…」「すまん…」
流石に声が大きすぎたのか司書に怒られてしまった。
「夕飯までまだ1時間半あるな。手合わせでもするか?」
「そうだな、僕達がここに居ては周りが迷惑する。中庭にでも行くとしよう。」
本を片付け移動を始めた時、城内放送がかかった。
『ハイル様、至急執務室までお戻りください。また、城内にいる者は速やかに地下に避難してください。理由は後ほど説明します。』
締めの鐘が鳴り、放送が終わる。
「今の声グロムだよな。何が起こってんだ?」
「分からん。だが城の者を避難させる程の事があったのだろう。急ぐぞ、僕も同行する。」
「そうだな。」
2人は急いで執務室へと向かった。
「おいグロム!さっきの放送どういうことだ?何があった!!」
「ハイル様!緊急事態です。勇者が現れたという情報が入りました。おや、セウさんいらしてたんですね。」
執務室で待っていたのはやはりハイルの側近である魔界No.2のグロム=エルマーノだった。
「はぁ!?勇者!?」
「着々と城に近づいているようです。」
「そこじゃねぇ!!勇者っていったら400年ぐらい来てないはずだろ!!なんで今更…」
そう、勇者と呼ばれる存在は先々代の魔王の時以来魔界に現れていない。
「市民はどうしたんだ?」
「電撃コウモリに連絡を回してもらって各砦に避難させています。」
「流石だ、仕事が早いな。」
「市民のことも大事だがこれからどうするんだよ!俺勇者とかじいちゃんから聞いたことしか知らねーし!てか、なんでお前ら冷静なんだよ!!」
「落ち着いてくださいハイル様!」
「そうだぞハイル、勇者とはいえ所詮は人間だろ?」
「違ぇよ!!じいちゃんの話だとバカみてぇに強いんだぞ!」
話の内容はこのようなものだった
勇者は普通の人間とは比べ物にならない魔力を持ち、天使と似たような力を使う。また、勇者の持つ剣で傷を負うと再生することが出来なくなる。先々代は片腕を失ったが何とか勝利を収めた。
「そんなに強い人間がいるんですかね?」
「さぁな、勇者なんておとぎ話なのではないのか?」
しかし、そんな話を聞いてもグロムとセウは信じていないようだ。歴史にも城の資料にも残っていないのだから仕方がない。
「その話が本当だとしてもハイルは歴代魔王の中でもトップの魔力を持ってるんだ。大丈夫だろう。」
「そうですね。ほら行きますよ。貴方は王なんですからどっしり玉座で構えていればいいんです。セウさんは西の砦に戻って市民の安全を確保してください。」
「了解した。」
「待て待て待てっ!無理だって!!腕なくなるって!!」
ギャーーーーーー!!!
ハイルは引きずられていった。
「なぁ、俺戦いたくないんだけど…普通に怖ぇし…」
「何を言ってるんですか。人間なんて少し強めに魔力を当てれば簡単に気絶するんですから、戦闘なんてすぐ終わりますよ。」
「そうだけどさ相手勇者だぞ!?光属性なんだよ!最悪こっちが殺られるんだぞ!!俺の魔力を過信しすぎだ!!」
「大丈夫ですって。ご自分の力を信じてください。」
ハイルは必死に抵抗するも玉座に無理やり座らされ、枷を外される。
「では、私は念の為近くに待機しています。頑張ってくださいね。」
「お、おい!ちょっと待てグロm…」
「ここかッ!!魔王!!!」
突然目の前の扉から短い金髪の男が入ってきた。おそらく勇者であろう。
「貴様の首、このオレが叩き切ってくれよう!!」
(うわぁ…勇者来ちゃったよ…なんか怖いこと言ってるし…!こうなったらいっそ魔王っぽく…)
「ふ、フハハハハ!よく来たな勇者よ!だが人間の分際で俺に勝てると思うなよ!!」
「なんだと!一族代々伝わるこの剣の錆にしてくれる!!喰らえ!!!」
そう言うと勇者はハイルに斬りかかってきた。
先々代の話の通り人間離れした動きをしている。
(速い!!防げな…)
咄嗟に腕を出してしまったが剣は服さえも断つことが出来ていなかった。さらによく見ると剣は既に錆びているようだ。
「え?」
「流石だな、魔王。オレの会心の一撃を止めるとは。」
「は、ハハハハ!!まだまだだなッ!!」
(は?今の会心の一撃だったのか?つーか魔力もじいちゃんから聞いた話より大分弱いし、速いのは動きだけだ…こいつ本当に勇者か?)
「次はそうはいかないぞ!いつまでも座っていられると思うな!はぁ!!!」
(聞いてた話と違う…グロムの言う通り魔力を当てて気絶させるか…?)
ハイルは己の魔力を解放し、勇者に向ける。
すると勇者は容易く吹っ飛び意識を失った。
「マジで気絶した…」
「お見事ですハイル様。やはり勇者などおとぎ話でしたか。」
「いや、俺も疑ったがコイツ本物だな。この剣じいちゃんの話で聞いたやつだ。だいぶ錆びてるけど…それにちゃんと光属性だしな。」
「ですがこの方が本当に勇者だとしたら弱すぎませんか?お爺様の腕を切ったという存在とは程遠いような…」
グロムは倒れている人間が勇者だとまだ信じきれていないようだ。しかし、普通の人間は光属性など持っていないため、この人間は正真正銘勇者である。
「確かに弱すぎだな。だがなんで今になって俺らに攻撃を仕掛けてきたのか気になることもある。コイツには洗いざらい吐いてもらおう。グロム、手伝ってくれ。」
「かしこまりました。」
2人は勇者を担ぎあげ、医務室へと連れて行った。
「おーい、サナーレ。ベッド空いてるか?」
「空いてますけどどうしました?また銃弾でも埋まったんですか?」
医務室に入り声をかけると、医療班隊長のサナーレ=シーニィが奥から出てきた。
「その人誰です?」
サナーレは2人に疑問をぶつける。
「こいつは勇者だ。」
「ハァ!?何でそんなのが城にいるんですか!」
「先程放送をしたはずですが、聞いてなかったんですか?避難要請を出したのですが。」
「聞いてませんね…そうだ、医務室のスピーカー壊れてるんでした…」
「そういうのは早く言え。とにかくベッド借りるぞ。グロムは避難指示取り消してこい。」
「分かりました。失礼します。」
グロムは医務室を後にし、執務室へ向かった。
「で?この人間をどうするつもりなんです?」
勇者を寝かせると再びサナーレは疑問をぶつける。
「とりあえず目覚めるまで放置だな。」
「医務室使うのはいいんですけど危険なんじゃないですか?一応勇者なんですし。縛っときます?」
「いや、そこまでしなくていい。武器は取り上げたし、なんかこいつ弱かったしな。」
「そうですか、ベッドは好きに使ってくれて構いませんが私を巻き込まないでくださいね。」
そう言ってサナーレは医務室の奥へ戻った。
「腹減ったな…そろそろ皆地下から出てきてるだろうし夕飯持ってきてもらうか。」
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「ハッ!!」
(ここはどこだ…オレは確か魔王を倒しに来て…一瞬で…)
程なくして勇者は目を覚まし、状況を確認しようと辺りを見回した。
「ハンバーグうまっ!」
しかし確認できたのは美味しそうに夕飯を食べている魔王だった。
「おっ!目ぇ覚めたか、モグモグ。お前に聞きたいことがあってだな、モグモグ。」
「食べながら喋るな!」
勇者はハイルに鉄拳を入れた。
「いってぇ!!殴らなくてもいいだろ!」
そうは言いつつ食べる手を止める。
「お前、オレをどうするつもりだ!?さっさと殺せばいいだろ!?」
「悪魔はむやみに殺しなんかしないぞ。魔界に迷い込んだ人間だってちゃんと送り返してるんだからな!俺はお前と話がしたいだけだ。」
「そんなの信じられるか!」グウウゥゥ…
勇者の腹が鳴り、ハイルが食べていた夕飯を見つめる。
「食うか…?」
「…食う。」
「ハンバーグ美味いな!」
さっき聞いたような言葉が医務室に響く。
「だろ?残り全部やるからさ、質問してもいいか?」
「いいぞ。」
「…なんかキャラ違くね?」
「さっきは警戒してたからな。あと村の奴らに勇者っぽく振る舞えって言われてたんだ。というかお前こそキャラ違うじゃん。」
「あれは魔王っぽくしようと…まぁそれはどうでもいいことだ。なんで今になって魔王の首を狙いに来たんだ?400年間何もなかったのに。」
「それは単純に光属性を持った子供が生まれなかっただけだな。長い間勇者がいなかったもんだからオレが生まれたときは神の子だなんだと大騒ぎになった。」
しかし、光属性を持って生まれたものの力を扱うことが出来なかった。それでも人間離れをした身体能力があったため勇者として送り出されたのだった。
「オレの村は特に悪魔を憎んでるんだよな。被害が多いから。」
「ヴッ、それは申し訳ない…村の名前はなんだ?」
「トイン村。」
「聞いたことある…5年前ぐらいから頻繁に悪魔がイタズラしに行ってる村だな…」
トイン村の人間は怒らせると面白いと、悪魔の中で数年前から流行っている村だ。400年前の勇者の出身もこの村だった。
「確かに人間の怒りを買っても仕方がない…」
「まぁオレはそんなに気にしてないけどな。むしろ飯くれたお前は村の奴らより良い奴だと思っている。資金は少ないし、防具はしょぼいし、伝説の剣も錆びてるし。」
勇者の村人への文句は後を絶たない。
「お前も大変だな。剣が錆びてたのも時が経ちすぎてたからか。そうだ、名前を聞いてなかったな。」
「キャメルだ。椿っていう花の意味らしい。」
「椿か、東洋に咲く花らしいな。魔界には生息しないから写真でしか見たことないが。」
「魔王はなんて言う名前なんだ?」
「俺はハイル=ロワ=シュヴァルツだ。よろしくなキャメル。」
2人はお互いの名を知り、魔界や人間界のことを夜どうし喋り続けた。
翌朝、仲良く寝ている魔王と勇者の姿が発見された。
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「ハイル〜暇だ〜。」
キャメルは暇を持て余していた。魔界で人間がすることなどないのだから当たり前だ。あまりの退屈さに執務室で紙飛行機を作って遊んでいた。
「お前、もう用事がないんだから帰ればいいだろ?」
「やだね。昨日の話で悪魔に興味湧いたからさ、もっと悪魔のこと知りたいんだよ。」
「しょうがねぇな。城下町にでも行くか、一応顔は隠せよ。」
「よっしゃ!」
城下町はとても賑わっていた。勇者が来たと騒いでいたのが嘘のようだ。勇者だと気づかれていないとはいえ、自らキャメルに話しかけてくる者や商品を勧めてくる者がいた。
「いい所だな魔界は…」
そろそろ帰るかと言う時キャメルは小さく呟いた。
「別に普通じゃないか?たまに喧嘩してるやつもいるけど結局は仲良いからな。同族で殺り会っても意味無いことは分かってるだろ?」
「普通か…」
トイン村はそんな優しい村ではなかった。悪魔が来ればお前が呼び寄せていると殺される者がいる。子供が産めなければ用無しだと殺される者がいる。小さなミスをすれば罰則が与えられる。
キャメルは勇者だと思われて育てられたため、酷い扱いは受けなかったが、今までずっと殺されていく村人を見てきた。
そんな村で育ったキャメルに魔界は眩しすぎた。
「あんまり長居はできないぞ。今日はやることが多いからな。」
「ああ、悪いな。ワガママに付き合ってもらって。」
2人が城に帰ってくるとグロムが出迎えた。
「私に黙って何処に行っていらしたのですか?ハイル様?」
グロムから物凄い圧を感じる。
「き、キャメルが悪魔のこと知りたいって言うから…ちょっと城下町に…」
「貴方が黙って出ていくから仕事が全部私に回ってきてるんですけど?」
「すみませんでしたァ!!」
ハイルの謝罪が城の中をこだました。
(なぁ、こいつ誰だ?)
キャメルがヒソヒソと話しかけてくる。
(そうか、お前気絶してたから会ったことないのか。俺の側近でグロムっていう名前だ。)
「ハイル様、お話があります。」
「ヒッ、まだ説教するのか!?」
「それもありますが別件です。」
グロムは少しだけキャメルを見る。
「なるほどな。キャメル、お前執務室の場所分かるよな?先に行っててくれ。」
「?分かった。」
キャメルがその場を離れるとグロムが話し出す。
「単刀直入に言いますが、何故勇者と仲良くしているのですか?今まで通り送り返せばいいじゃないですか。」
「甘いな、グロム。俺にはちゃんと考えがあるんだよ。」
「その考えとは?」
「あいつに魔界や悪魔の良さをみっちりと教え込むんだよ。そんで村に返せば俺らの良い噂が広まるって訳だ。良い考えだろ?」
「まあ、悪いことではないですね。」
「だろ?ついでに俺らも人間を知るチャンスって訳だ。」
「考え自体は悪くないです。ですがあまり感情輸入しないようにしてください。他種族を知りすぎるのはよくありません。過去にも…」
「分かってるって。キャメルが帰るってなったときは俺が責任もって送ってくからよ。じゃあ、仕事に戻るわ。」
「まったく…本当に分かっているんですかね…」
半ば強引に会話を終わらせ執務室へ向かうハイルだったが、中から話し声がすることに気づいた。
(中にはキャメルしかいないはずだが…)
不思議に思い扉を開けると、キャメルとセウが談笑していた。
「ーーということがあってだな。」
「なんだそれwおっ、ハイル!」
「何話してたんだお前ら。」
「お前が付けてる枷のこととか魔法が使えないこととかだな!」
「セウ!話したのか!」
「無断で城を出た罰だ。」
セウはニヤリと笑った。
「なんで知ってんだよ…」
ハイルは人間に自分の弱点が広まると思うと気が気でなくなり、仕事が手につかなかった。
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キャメルが魔界に来て2週間が経とうとしていた。
このたった2週間でハイルとの間に明らかに友情が芽生えていた。しかし、友との時間は限りがあった。
「オレ、自分の村に帰るよ。」
「!…何でだ?まだ此処にいていいんだぞ?他の友達だってでき始めた頃だろ…?」
「だからだよ。これ以上お前らと仲良くなって、本当に帰りたくないって思う前に出ていかないといけないと思ってた。オレは、人間で勇者だから。」
「でも…」
「ハイル様。」
引き止めようとするハイルをグロムは静かに制す。
「分かってる…キャメル、せめて人間界まで送らせてくれないか?」
「勿論だ。頼むよハイル。」
人間界までの道のりは楽しいものだった。共に過した短い期間を振り返りながら2人は歩いた。しかしそんな時間ですら終わりが見えてきた。
「この道を真っ直ぐ行けばお前が来た道に戻れる…」
「ありがとな、ハイル。って泣くなよ。もう一生会えないわけじゃないだろ?」
「泣いてない…」
「ははっそうか、オレ悪魔がいい奴らだって広めるからな!そしたらトイン村に来てくれ、歓迎するからさ!」
「絶対行く…美味い飯用意して待ってろよ!」
「ああ!じゃあなハイル!!」
そうしてキャメルは人間界に帰って行った。ハイルはその姿が見えなくなるまで見送り続けた。
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4日後の夕方、早く仕事を終わらせたハイルはトイン村のことを考えていた。
「なぁグロム、トイン村行かねぇ?」
「もう行くんですか?この前別れたばかりでしょう。」
「話したいことは沢山あるんだよ!お前が行かないなら俺1人で行くからな!」
「お待ちください。私も同行しますから。」
ハイルとグロムは人間界へと飛び立った。
飛んで来たため、随分早く村に着いたが辺りは真っ暗だった。
「村、暗くないか?」
「寝るにしても時間も早い気がしますね。ですがこっそり行くには好都合では?」
「そうだな。」
確か、キャメルの家は中央付近だと言っていた。2人は村の中を物音を立てないように歩いていく。
すると、村の中央に灯りが点っているのが見えてきた。
「なんだ?キャメルのやつ俺達のために目印を置いてくれたのか?」
本当に歓迎してくれたのかとハイルは嬉しそうに灯りに近づく。
しかし、灯りが照らしていたものはキャメルの首だった。
「は…?」
「これはどういう…!ハイル様、これを。」
キャメルの首から目が話せないハイルとは裏腹に、グロムは辺りに落ちている新聞のような物を拾い上げた。
「勇者キャメル悪魔に寝返る…」
記事はこのようなものだった。
村の者は勇者キャメルの生還に喜んだ。しかし、帰ってきたキャメルは「悪魔は面白い奴らだ」「魔界は良い所だ」等と妄言を吐くようになっていた。三日三晩洗脳を解こうと術をかけ続けたが断念。このままでは村に害が及ぶとされ、処刑が確定された。
キャメルは椿という名を体で表すように打首にされたのだった。
「洗…脳…?害…?キャメルが…何をした?」
俺 が …間 違え た…?
「俺がちゃんと引き止めれば…いや、そもそもすぐに返していれば…」
何故という疑問がハイルを取り巻き、思考が動くことを許してはくれない。
「しっかりしてください!ハイル様!!」
グロムは正気を取り戻そうと語りかけるが、ハイルは硬直したまま何かを呟いている。
すると、2人の気配を感じたのか周囲の家から村人が出てきた。
来た…来た…殺せ…
村人は皆何かしらの武器を持ち、明確な殺意を向けてくる。
(この人数は流石にまずいですね…ハイル様は動けない…ここから逃げるには…)
「少々痛い目にあってもらいます!!」
グロムが地面へ手を伸ばすとたちまち魔法陣が広がり、村人を痺れさせていく。
その隙を見てハイルを担ぎ、グロムは村から脱出する。
ハイルが最後に見ていたのは自分達に向けられる憎悪を孕んだ無数の目だった。
この一件でハイルはトイン村との接触を一切禁止し、人間と極力関わらないようにした。
それでも人間の恨みを買うのは悪魔の性なのである。負の連鎖は断ち切れない。
「俺はもう二度と間違えない。」
魔王はそう誓い、今日も勇者の首を狩る。