ひとりごと─よく晴れた暖かな日差しがさすとある日。初めて猫は蝶に出会った。それはなんてことないことで、ただ気ままに、運命のように惹かれあったのだ。猫は蝶が隣にいるだけでも幸せを感じていた。風に吹かれて飛んでいってしまいそうな儚さをもつその人が同じ場所に、自分のそばにいてくれることのなんと嬉しいことか。他人からの無償の愛を知ったのはこのときであった。
猫と蝶は丘の上の大樹の下で逢瀬を重ね、互いへの気持ちを育んでいった。逢うときが楽しみであったり、"またね"をした後に感じる寂しさであったりは、猫にとってあまり経験していないものでありどぎまぎしていた。知らなかった。僕がこんな気持ちをもつなんて。蝶はあらゆることを猫に教えた。蝶の世界のこと。自身のこと。恋のことも。気付けば二人は好き同士になっていった。
ある日からぱたりと、蝶は来なくなった。繋がりを探してみても、いつもの場所に行ってみてもなにもなかった。ただ大樹の葉の隙間から注がれる光がきらきらと輝いているだけ。
ひとりで木の幹にもたれ掛かって座る。少し前まで隣ににあった温度は風の通り道となってしまった。
膝を抱え込んで縮こまった猫は呟いた。
──ひとりは慣れていたはずなのになぁ。
頬を濡らす雫を乾かすように柔らかな風が吹いた。