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    ひぐち

    @ykir_hero

    @ykir_heroにあげたお話(画像)の保管庫兼ワンクッション用。
    同じ内容をpixivにも上げていますので、お好みで見ていただけたら。
    https://www.pixiv.net/users/660342/novels

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    ひぐち

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    某方への捧げ物でした。キスフェイのやりとりを一部お借りしています。

    ##キスフェイ

    💐 この顔が花を持つともはや嫌味だよな、と隣を歩く部下を見やり、キースは反対方向へ煙を吐き出した。
     消えゆく白い煙の向こう、続く景色は見慣れたそれよりも洗練されている。青や白を基調とした高級感漂うブルーノースの街並みは、担当しているイエローウエストとはかけ離れている。けれどキースとしては、あの騒々しくて雑然としている街並みの方が好みだった。
     落ち着かなさを飲み込み、煙草を咥え直してもう一度隣の男を視界に入れる。制服のままフラワーバスケットを腕に抱えて歩くフェイスの姿は、むしろこの街にこそ馴染んでいるように見えた。
    「……何?」
     キースの視線に気づいたフェイスが、訝しげに整った顔を歪める。それに緩く頭を振り、肩を竦めて煙を吐き出す。
    「いや。マメだなぁと思ってよ。一応チームからも花贈ってるじゃねーか」
     腕の中で細やかに揺れる、優しい色合いの花束を顎でさす。その中央には、祝いの文字と数字が刻まれたプレートが差し込まれている。
     今日は、彼が贔屓にしているチョコレート専門店の周年記念日だと聞いた。
     件の店には、以前バレンタインの際にタイアップ協力したこともあり、フェイスの提案で研修チームとしてフラワースタンドを贈っていた。故に、注文を済ませた時点でキースの中では終わった話になっていたのだが。
     パトロールが終わり、「メシでもどうだ」と誘ったところ、「これからお祝いに行くんだよね」と今日が当日であることを告げられた。あまり気乗りはしなかったが、それが食事をしない理由にはならず、断る理由がない程度には足を運んでいる自覚もあったため、共に足を向けた。
    「まぁ、ね。俺は前からよく行ってたし、顔も覚えられてるからサービスしてもらうことも多いし。こういうのは、気持ちが大事だからね」
    「気持ち、ねぇ」
     自分には無いものだな、と胸の内に呟き、吸殻を携帯灰皿に収める。と、また隣から視線を感じ、顔を向けた。
     艶めく黒髪が揺れる中でフェイスは、悪戯を思いついた子どものように目を細めている。
    「キースも最近よく行ってるじゃん。だからついて来たんじゃないの?」
    「あー……いや。そんなに行ってねぇけど」
    「そう? 最近アンシェルのショコラ、よく貰う気がするけど?」
     笑みを深くしたフェイスの目元に捉えられ、襟足を掻く。
     確かにここ1年で、以前の自分では考えられないほどチョコレートの購入量が増えた。その最たる購入場所は、今向かっている店だ。
     理由は簡単で、彼の機嫌を損ねた時に有効だからだ。それとなく仕事を押しつけた時も、2人きりの時間において愛情が行き過ぎてしまった――例えばマフラーで隠さねばならないような場所に噛み跡を残してしまった時も、いわゆる詫びショコラを買いに来た。
     彼が、自ら機嫌を取れることはわかっている。が、そもそも与えてやりたい気持ちを抱いてしまっている。それに、物理的に謝意を示すことは、今後の関係を良くしておくためにも肝要だと思えた。なるほど確かに気持ちは大事だと頷くと同時に、これだけの感情を抱くようになったことに苦笑いが込み上げる。
    「そう言えば……聞いたことなかったけど、いつもどんな風に買ってるの?」
     らしくねぇな、という表情を読み取られたのだろう。年下の恋人はなおさら楽しそうに頭を傾け、口角を上げている。こうなると厄介なんだよな、とさほど困った気持ちを持ち合わせるわけでもなく吐息をこぼし、新たな煙草を出そうとして――見えてきた店舗を前にポケットへ押し戻す。
    「別に。一番人気のやつくれ~って感じだよ。チョコレートの違いとか、オレにはわかんねーからな」
    「ふぅん」
    「何だよ」
    「別に? まぁ、店員の子に聞けばわかることだけどね」
    「……なんか恥ずかしいからやめてくれ~」
    「アハ! そう言われたら余計に聞きたくなるじゃん」
    「お前はそういう奴だよなぁ」
     楽しそうに肩を揺らすフェイスを見て、不意に浮かんだ感情に目を向ける。
     チョコレートが詫びとして便利だという気持ちはある。けれどそれ以上に、チョコレートという好物を前にした時の、フェイスの表情を見たい気持ちがある。それを認めれば、込み上げる甘ったるさを前に、無性に煙草を吸いたくなった。

    「――周年、おめでとうございます。これは俺から」
     店舗へと入り、フェイスの姿を見るなり小さな歓声を上げた女性店員と、フラワーバスケットを差し出す姿を交互に見やる。
     満面の笑みでそれを受け取る女性店員の腕の下には、新作のチョコレートを並べたショーケースがある。その中に見覚えのあるチョコレートを見つけ、キースはそれとなく顔を逸らした。が、女性店員は視線をフェイスからキースへと移してしまう。
    「キースさんも来てくださったんですね! いつもありがとうございます! 先日ご購入いただいた、ベリーのショコラ、いかがでした?」
     優秀な店員は客のことを覚えているものだと言うが、こういう時は裏目に出るよな、と込み上げる苦い気持ちを飲み込む。
    「あー……美味かったよ。ワインに合ってな。今日もそれくれ」
    「はい! ありがとうございます」
     にっこりと微笑んで商品を包む店員を見つめる視界の隅で、痛いほどの視線を感じる。ゆっくりと顔を向ければ、俺もらってないけど、とでも言いたげな視線に射られた。キースとて、先日購入した時はそのつもりだった。だからこそ今、彼に渡すべく購入したのだ。

    「ん」
    「俺に? ……ありがと」
     朗らかな声を背に店を後にし、再びブルーノースの街並みの中で手にした紙袋を差し出せば、その長いまつ毛をぱちぱちと動かした後でフェイスが手を伸ばしてきた。
    「こういう時には、金を使うのも大事だろ?」
     動機を告げれば納得したようにその顔に笑みが浮かぶ。そうして紙袋へと落とされた視線に安堵し、同時に自分の気分まで良くなっていることに気づき、本当にこの感情はひどく単純だと、込み上げる笑いを噛み殺す。
    「キースにしてはまともじゃん」
    「オレはいつだってまともだろ~」
    「はいはいっとー。……ねぇ、キース」
    「あ?」
     声色が先程よりも深くなり、嫌な予感を抱く。それでも、それを表に出したら負けだと平常を装う。
    「このショコラの色、綺麗だったね?」
    「あー……そうかぁ?」
    「うん」
     笑みを浮かべたフェイスの視線が、キースの胸の内を見透かすように注がれる。
     先程購入したそれは、今向けられている眼差しに近い色をしていた。だから気になって、フェイスへの詫びショコラを買うついでになんとなく――本当になんとなく、購入したのだ。タワーに戻るまでは、彼に渡すつもりでいた。けれど購入理由が理由なだけに、言い出せないまま全てを酒と共に自らの胃に収めた。
     その甘ったるさを思い出し、キースは落ち着かなさを飲み込むつもりで、今度こそ咥えた煙草に火を点けた。
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