遠き影を追いかけてひやり。
明らかに人とは違う温度。叩くというより掴まれる感覚に近く、全身に鳥肌が立つ。
『おい』
聞き覚えのない声。こんな人混みの中でピンポイントに自分に向けられる視線は人以外の何か。たった一夜で体験した恐怖の夜を思い出す。
『行くぞ』
肩を掴む指の力がぐっと強まり、眉間の皺が深くなる。次の瞬間、暗かった辺りが閃光に包まれ、目を開けていられないほどの強い光が突き刺してきた。
「う、っ…」
どうにか体勢を崩さないよう踏ん張り、左手で顔を覆い光が消えていくのを待つ。じわじわと少しずつ、視界が戻る。人の声も遠ざかり、雨が降る前の風の音も消えて。
ようやく見えてきた。
「え」
視界が開けた先にあったのは、倒れる車や脱ぎ捨てられた衣類の山。
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