クリスマスの後に。(翔アラ)不意に視界が赤く、そして眩い白に染められていく。あまりの眩しさにぎゅっと目を瞑り、それから片手を翳して瞼を開けば見慣れた部屋が視界に広がった。どうやらカーテンの隙間から漏れる光の筋が丁度、目元に掛かったらしい。
ゆっくりと身体を起こしてから一つ、両腕を上げて背筋を伸ばせば隣からもぞりと布が擦れる音が聞こえる。そちらへ視線を移せば、ふわりとした銀髪が枕と毛布に埋もれていた。
「(……ああ、そうか。昨日泊まってったんだったな)」
起こさないようにそっと頭を撫でてから自身が起き上がった際に捲れてしまった布団を掛け直してやれば、満足そうな笑みを浮かべた寝顔が毛布の隙間から見える。昨夜はケーキやピザ、フレンチフライにチキンとクリスマスらしい豪華なラインナップの飯だったからか、時折「まだ食う……」と寝言を言いながら口元をもごつかせているのが妙に愛らしく、自然と笑みが溢れていた。
「さて、と。アランが起きる前に仕込んどかねーとな」
そっとベッドから出ると適当に部屋着に着替え、顔を洗ってからエプロンをしつつキッチンに立つ。朝からがっつりしたものが食いたいと言っていたから、今朝はラーメンにしようと思う。それも即席のインスタントじゃなくて、スープは一から仕込むやつな!
先ずは昨晩、食べたことがないと言っていたアランのために買ってきたチキンを切り分けた際に取っておいた骨を水で軽く洗い、血合いなどを落としていく。
次に鍋に洗った骨とネギの青葉部分、生姜と水を加え強火にかける。煮立ってきてアクが出てきたら綺麗に取り除いていき、弱火で三十分〜一時間煮込んでいく。この時、スープに浸かっていない部分はひっくり返してまんべんなく熱を通すのがポイントだったな……今回は少量だから煮込むのも三十分くらいで大丈夫そうだ。
煮込んでいる間に骨とともに取り分けて残しておいたチキンを食べやすい厚さにスライスし、ネギの白い部分を白髪ネギに刻んでいく。具材はシンプルだが、このくらいの方が味のバランスがとれて丁度いい。
時間になったらキッチンペーパーを敷いたザルで漉せば鶏ガラスープの出来上がりだ。
あとはここに塩と酒、和風にしたきゃ白出汁なんかを加えてもいいが今回はごま油を加えて少しコクを出すことにした。
それから麺を茹で湯切りしてから器へと移し、あとはスープを投入し具材を添えるだけという段階でガラガラと戸を引く音が響いた。
「……いい匂いがする、」
「お、起きてきたか〜?」
眠たげに大きな欠伸を溢しながら現れたアランを見れば、所々に寝癖がついて毛先が変則的に跳ねている。まあ、普段からツンツンとした髪型をしているからあまり気になりはしないが、後でブラシ入れてやった方が良さそうだな……と、そんなことを考えているといつの間にか隣に立っていたアランが興味深く麺の入った器を眺めていた。
「何、作ってんだ」
「翔沢英雄特製、塩ラーメン!」
「しおらーめん? カップ麺じゃねぇのか?」
「あれはインスタントだろ? こいつは鶏ガラスープから作った一級品だぜ」
麺は市販のだけどなー、と付け加えながら器に盛られた麺に透明なスープ、チキンに白髪ネギにちょっとのきんごまを上から振りかけて完成したラーメンはそこいらの店で出しても良いくらいの出来栄えだ。
「とりがら?」
「まあまあ、いいから食えよ」
「おう……?」
アランには二人分のお茶を、自身は二人分の箸と器を持ってこたつの上に並べる。
向かい合って座布団に座り『いただきます』と手を合わせてから麺を啜りつつ向かいのアランを見遣れば、驚いたように瞳を輝かせてがっつく姿が目に入った。
「……!」
「な? 美味いだろ?」
喋るのが惜しいのか無言のまま頷くと麺やスープをひたすら啜り、寝顔とはまた別の満足そうな笑みを浮かべながらチキンの一切れを一口で頬張っている姿に、不思議と小動物に餌付けをしているような気持ちになる。
「替え玉もあるし、いっぱい食えよ」
「……ん、」
「って、早!」
有無を言わさぬ眼差しで差し出された器を受け取れば、いそいそとキッチンに戻りアランのための第二弾を作り始める。自分が麺を食い終わったタイミングでよかった〜と安堵すると共に、またおかわりするだろうからと今度は多めに麺を茹でて器に盛った。序でに味変に粗挽きコショウも追加で軽く振りかけてやる。
こうして出来上がった第二弾をとん、と机に出してやれば再び麺を啜りつつ「また作れ」と唸る彼に「祝い事でチキン買う機会があればな」と断れば盛大なブーイングが起こったが、アレンジしたラーメンにまた満足そうに上げられた口許に自分もフッと笑顔が溢れたのは言うまでもない。
しゃーない、近々また作ってやるか!