流心〜ドイツ編〜楓吾2
「久しぶりですね、フーゴ」
嫌味なほど美しい顔をほんの少し傾けて、その男は僕の名前を呼んだ。そのまま近づけられた唇を躱すと、小さなため息と共に煙草とライターが取り出される。店の脇の狭い路地に白い煙が広がっていく様子を見て初めて、ドイツに来てから魁が全く煙草を吸っていないことに気がついた。
「こっちに戻ってるなら言ってくれればよかったのに」
「君に知らせる義理は無いだろう」
「冷たいなあ。それが昔のボーイフレンドに対する態度ですか?」
──ボーイフレンド、という言葉を魁以外の人間に使われたことへの違和感が全身に広がる。僕が何も言えないのをいいことに、男は勝手に話を進めた。
「さっきのアジア人が今の恋人?彼、日本人でしょう」
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