忘羨ワンドロワンライ【紅葉】 雲深不知処の秋の深まりは早い。麓に近い山門近くは木々が青々としているが、山の奥まった所にある修行のための岩肌や、穀断ちして修練を行うための裏山の東屋辺りには少しずつ秋の気配が漂い始めている。この山奥に散在する東屋を定期的に手入れするのは比較的年長の内弟子の勤めの一つで、それ自体が修練の一つとして数えられている。周囲の草むしりから屋根や柱の手入れ、井戸の掃除までを二人でこなすのは、なかなか骨が折れる。特に秋の手入れは念入りに行わなくてはならない、そうしないと冬の間に雪で東屋が傷んでしまうのだ。
藍思追は裏山への道を歩きながら、帳面を片手に思案していた。この秋のその勤めを誰に割り振るか――というのが問題だ。今までは藍景儀と二人で修行がてらよく手入れに行っていたのだが、藍忘機が仙督になって以降、藍思追と藍景儀が供につくことが多くなり、なかなかそこまでは手が回らない。
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