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    beryl_pudding

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    beryl_pudding

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    オズフィガwebオンリー『雷鳴の共犯者』ドロライのお題「栗」をお借りしました!
    雷とガル博がはじめて直接お話しして距離を縮める話
    ※カップリングはオズフィガですが称号組(オズ+アサ)(フィ+スノホワ)の描写強め。
    その他設定の捏造や齟齬あります

    コミュニケーション、メルトダウン「CNSC?」

     幼い手が掲げた可愛らしい広告のポップ体は確かにそう記していた。真ん中にはいつぞや見た桜色……ではない、薄明るい黄色のソフトクリーム。
     ああもうそんな季節なのか。そういえばいつから外出してないんだったかと冷めだしたコーヒーを啜ってぼんやり考えていると、頬を左右からぶに、とつつかれた。

    「フィガロちゃん反応うすーい」
    「せっかく我らがフィガロちゃんのために『この秋限定!魅惑の栗グルメ特集』を紹介しとるというのに!」

     ぷりぷりと可愛らしく怒る双子のスノウとホワイトは、何を隠そうフィガロのアシストロイド。自ら進んで行動し、喜怒哀楽があり、主人であるフィガロにも楯突く様子はとても単なる機械に思えないが、彼らは『カルディアシステム』という最新機能を搭載したれっきとしたアシストロイドであった。

    「とか言ってお二人が食べたいから俺を行かせる気でしょう」
    「あ、ばれちゃった」
    「だってフィガロちゃんが外出許可をくれないんだもん」
    「どの口が言ってんですかね。……安全性が保証できるまで、まだまだ様子見ですよ」

     彼らはカルディアシステム──アシストロイドに心を与える技術──を入れたことで喧嘩に発展し、お互いに破壊し合ってしまった前科がある。再生は可能でも、スノウとホワイトを心の拠り所としていたフィガロにとって、その出来事は大きな傷となって残っていた。ホワイトが修理を終えてもしばらくはスノウに隠してきたが、目を背け続けるのも良くないだろうと二人を会わせることにしたのは、ごく最近だ。

    「むう……でも!せめてコレは食べたいのじゃ~!」
    「おねがいフィガロちゃ~ん!かわいい我らのために一肌脱いで♡」

     コレ、と指さされた広告はやはり先ほど見たCNSC……ChestNut Soft Cream(チェス・ナッツ・ソフト・クリーム)の略でつまりは「栗のソフトクリーム」のことだ。フォルモーント・シティ名物といえるCBSCを販売する企業が新しく秋限定のフレーバーを出したらしい。わかりやすさと小洒落た感じを内包するそれはいかにも若者向けの風合いであり、双子が好む甘い菓子。フィガロはきゅるきゅると可愛い子ぶった瞳から受けるおねだりに思わず頬が緩んだ。

    「買わないとは言ってないじゃないですか」
    「本当かの!?やったー!」
    「これでオーエンに馬鹿にされずに済むのう!」
    「オーエン?ああ、昨日来てたっていう……」
    「そうじゃ、いきなり帰ってきたと思ったらソフトクリーム片手に自慢だけして行ってしもうての。このままでは気が済まんかったんじゃ」
    「あ、我らが食べたかったのもフィガロちゃんが栗好きだからっていうのも、どっちも本当だからね」
    「はいはい」

     喜ぶ二人の会話に相槌を打ちながら手元の端末を操作する。あそこは最近デリバリーサービスを始めたらしいから助かるな……と思っていたが、不意に液晶が暗くなって操作が出来なくなる。スノウがアクセス制限をかけてきたようだ。

    「あ、ちょっと」
    「いい機会じゃし外に出るがよかろう?幸い今日はお散歩日和じゃ」
    「引きこもるのはよいが、運動せねば体は鈍るし自律神経も乱れる。普段と違う環境に身を置くことで仕事人間のフィガロの気持ちも一旦リセットされるじゃろう」

     流れるように外出を促され、さては最初からそのつもりだったな?と苦笑する。確かにしばらく出ていないことを自覚したばかりだったため、今回は潔く腹を括った。

    「あー……わかりましたよ。直接買ってきます、他にご要望は?」
    「素直でよろしい。後は気をつけて帰ってくることじゃ。ほんとはついていきたいんじゃがの~あ、これGPSね」
    「折角だしおめかししちゃおっか!白衣は目立つし、タンスの肥やしにも日の目を見せてやらんとの」

     くるくると動き回る双子にフィガロはされるがまま身支度を整えられる。出かける、つまり人と会うという億劫さは凄まじいが、思考を秋の味覚に切り替えてなんとか乗り切ることにした。






    『よ、ようやく買えた……』

     フィガロは人気の少ない路地まで来て、やっとの思いで一息ついていた。お目当てのワゴンは人の集まる広場の一角に止まっており、カップルや家族連れの並ぶ行列に三十路も過ぎた男が一人並ぶのは大層な苦行であった。
     眼鏡をかけて一応の変装はしているが、後ろに並んでいた女子高生らしき集団からは「あれガルシア博士じゃね?」などと話されて気が気がじゃなかった。声をかけられる前に順番が来て本当によかったと思う。テレビ向けの顔がプライベートで出来るかといえば別なのだ。ハイクラスらしくなく気さくで親しみやすくハンサムで、「セクシーな知的人物」として通っている以上イメージダウンは避けたい。あのガワのガルシア博士だからこそアシストロイドに好意的な者もいるのだ。

    『あ……溶ける前に食べなきゃ』

     スノウとホワイトの分はクーラーボックスに入れているから大丈夫だろうが、ひとつは手に持ったまま。ただ買って帰ってくるのではなく食べながらお散歩することもこの外出で言われたことだった。
     歩いた先で見つけたベンチに腰掛け、プラスチック製の小さなスプーンで先端を掬う。口の中でとろりと溶けたそれは優しい甘さで、疲れた体に沁み渡った。香料でフレーバーをつけた甘いだけのものとは違い、栗の味が濃いそれはフィガロの好みに合っている。
     きっとお二人も喜ぶだろうと来た甲斐を感じながら食べ進めていくと、ふと視界に影が落ちる。フィガロが思わず顔を上げると、逆光の中で輝く赤い瞳と目が合った。

    「ひ、っぃ」
    「……フィガロ」

     そこにいたのは、カルディアシステムの研究にあたってフィガロのスポンサーを務めている男、オズだった。
     どうしてこんな所に。彼は『神の雷』という最強兵器を取り扱う武器商人で、所謂裏社会の人間。だからこそ極秘であるカルディアシステム研究への協力を呼び掛けられた。今は引退したと聞いたが、こんな昼間の往来を歩く人物ではなかったはずだ。

    『ど、どうしよう。オズ、怖くて少し苦手なんだよな……わざわざ話しかけてきたってことは何かあったのか?アーサーの調整に不備でも?うう、確かめたくても目が合わせられない……』

     頼れるスノウとホワイトも居ない中で急に人と直接対峙してしまい、混乱した脳はぐるぐると思考を巡らせるも、この場で起こすべき最適解は何一つ出力できない。彼とのコミュニケーションなど最初の挨拶以降はほとんど双子に任せているし、向こうもアーサーを介している。ハイクラスでは主流になりつつあるやり取りだった。なのにどうして。その間も鋭い視線は刺さり続け緊張でフィガロの呼吸が浅くなりだした頃、不意に視線がつい、と逸らされた。

    「……すまない。失念していた」

     彼はそう言うと視線を逸らしたまま困ったように手をうろつかせ、やがて跪くように屈んだ後にゆっくりと手を伸ばしてきた。

    『こんにちはフィガロさま。本日はいい天気ですね』

     ぴこん。と音が鳴り、オズの手首についている腕時計型の機械から小さな映像が出力される。

    「ぁ……アーサー」
    「はい!お久しぶりですね、メンテナンス以外でフィガロさまとお会いできてとっても嬉しいです!」

     ホログラムで見る銀髪碧眼の少年型アシストロイドは屈託の無い笑みを浮かべており、本当にご機嫌そうであった。つられて強張ったフィガロの頬も緩む。

    「……俺も嬉しいよ、アーサー」
    「えへへ。オズさまもフィガロさまに会えたのが嬉しくて、つい話しかけてしまったんですよ」
    「え?」
    「……」

     そんな馬鹿な。と思ったがアーサーが嘘をつくはずもなく、オズが訂正する様子もない。「嬉しくて」の部分はアーサーの解釈が含まれるだろうが、つい話しかけただけ。予期せぬ事態とオズの持つ威圧感でパニックになってしまったが、単に知り合いがいたから声をかけただけということだ。

    「私もここでお話ししたいのは山々ですが、後はおふたりでごゆっくりなさってください」
    「……いいのか?」
    「はい、お二人の親睦を深める良い機会ですから。あ、帰りが遅くなるときはご連絡をおねがいいたしますね。それでは!」

     アーサーがもみじのような手を振ってホログラムがぷつりと消えると、またオズと対峙することになった。彼は自分にただ挨拶をしたのだとは先ほど理解したが、逆にその程度で怯えてしまった自分が恥ずかしくて、申し訳ない。

    「ぁ……あの……」
    「……気分は悪くないか」
    「だ、大丈夫です。その、ごめんなさい。さっきは……」
    「気にすることはない」

     そのままぽつぽつと会話を続けようとするが、すぐに気まずい沈黙がやってくる。ああ、やっぱりコミュニケーションはストレスの元だ。アーサーはどうして俺たちでごゆっくりなんて言ったんだ……?フィガロが身を竦めると、オズがずい、と物理的に距離を縮ませてきた。

    「隣、いいか」
    「あっはい」

     思わず即答してしまったが、フィガロの緊張は増して気が気ではない。路地のベンチにオズと並んで座っているという妙な現実から逃げるように、忘れかけていたソフトクリームに意識を向けた。もう少し溶けている。

    「お前も買ったのか」
    「えっ」

     お前も?と疑問符を浮かべるフィガロに答えるようにオズは持っていたケースを開く。冷気が溢れた中には自分の持っているものと同じCNSCが数個入っていた。アーサー用か。と思ったがオズは一つだけ取ってケースを閉める。一緒にここで食べる気のようだ。

    「外で食べるというのは不思議な気分だ」
    「……あの。もしかして、アーサーに言われて買ってきた、感じですか」
    「そうだが、何故わかった?」
    「俺も同じなので……外で食べてくるっていうのも、スノウ様とホワイト様から言われて」
    「私もそうだな。出不精だからと買い物を提案され、ついでに運動したりフォルモーント・シティを見て回るのが良い。と」

     やはり同じだ。少し親近感が湧いてほっとした所でフィガロはトッピングされた栗の甘露煮に手をつける。

    「アーサーも、栗が好きなんですか」
    「食べたことがないと言っていた。あの子の好みからして嫌いではないだろう」
    「もう好みがわかるんですね……苦手なものも?」
    「ああ、必要なら後で纏めて報告しよう」
    「ご協力、感謝します」

     アーサーはわんぱくに見えて人の顔色を窺うことが得意な、遠慮がちな性格だった。時には自らの不調すらも隠してしまう。カルディアシステムで得た部分にはあまり手を加えたくないため困っていたが、そのアーサーが苦手を口に出せたのなら良い傾向だ。
     スノウ様とホワイト様はその点楽だったな……と思っていると、オズがCNSCを食べている姿が目に入る。あの神の雷が食事をしているという妙な面白さがあったことと、スプーンを使わずにそのまま齧っている意外性がフィガロの興味を引いた。

    『うわ、本当に食べてる。いや、人間なことは百も承知だけど、こんな可愛い菓子を……』

     CNSCはオズの口にも合ったようで、みるみるうちに口の中へ消えていく。食べる瞬間に目を伏せた睫毛が殊の外長くて、つい「綺麗だな」と美術品に向けるような感想を抱いた。綺麗なものは好きだ。乱雑で不規則なものより理路整然としたものの方が安心する。彼のすっと通った鼻筋やアーモンドアイはあまり馴染みのないもので、次の試作機の参考にでもするかと思いながら、フィガロはぼーっと、オズの顔を見つめていた。
     ざく、とワッフルコーンの齧られる音が小気味良い。良質な歯だ、咀嚼や嚥下は問題ないようだが味覚はちゃんと機能してるだろうか。異常がないか少し調べさせて──とフィガロが手を伸ばそうとすると、前方を見ていた赤い瞳がこちらを射抜いた。

    「溶けるぞ」

    「へ、あっ」

     危ない。垂れたクリームが手につくところだったのは勿論だが、先ほど完全に現実から思考が飛んでいた。生身の人間をアシストロイドと間違え接触一歩手前など言語道断。やはり心身の疲弊は対人コミュニケーションに起因するのだ……とフィガロは心の中で泣いた。慌てて食べ進めている間にオズは仕返しのつもりかフィガロの顔をじっと見ていて、なるほど良い気はしないと反省して食べたクリームは、もはや味がしなかった。


     フィガロがやっとの思いでコーンを食べきると、路地の先から派手なワゴンカーが走ってくるのが見えた。ポップな曲調の広告ソングと共に色鮮やかなホログラムが散って、祭典のような騒がしさが人気の少ない路地に強襲する。CNSCを乗せたワゴンカーのお通りだ。
     宣伝を続けているのだからまだ別の場所で販売するのだろう。フォルモーント・シティ名物とは言うがワゴンカー一台で売り続けるのはコスパが悪い気がするのだが、何でもコスパで考えるのは良くないとファウストに咎められたばかりだ。そういうものではないのだ、きっと。

    「丁度良い。来るぞ」
    「え?」

     何が丁度良いのかと聞く前に、ドパン!とこれまたカラフルな花火が打ち上がった。直後にフィガロが見たのは視界を埋めつくすほどの巨大な、うす黄色いソフトクリームのホログラム。

    「うわっ!?わあ!」
    「確か、口を開けるんだったか」
    「えっ!?」

     聞いたことがある。この特別仕様のホログラムは味覚や触覚にも訴えかけられるようで、仮想現実、バーチャルリアリティに近い。食品広告にうってつけのそれはナウなヤングにバカウケ……考えてる間に巨大ソフトクリームは二人の体を飲み込んで、全身に甘く蕩けるような感触がまとわりついた。

    「ひぇ」
    「……甘いな。実際のものと似ているが、やはり直接食べた方が精度が高い。冷感が足りないか」
    「何だか、聞いたものより出力高くなってません?アトラクションじみててこれはこれで需要ありそうですけど」

     互いに技術者故か、純粋に楽しむよりもホログラムの技術力や改善に目が行ってしまう。ラボの同僚以外でこんな話はそうそう振れないのに、冷めるどころか踏み込んだ話も出来たのは予想外だが楽で助かる。ああでもないこうでもないとしばらく議論していると、アシストロイドはこうした五感をどう捉えるのだろうという話に至った。

    「アシストロイドに仮想現実はどう感じるか……か。確かに、一見機能が正常でも思わぬところで綻びは出るものだ」
    「一度検証してみますか。クロエ辺りは喜んで協力してくれそうですが、アーサーも楽しんでくれるでしょう。VRなら外の世界を疑似体験させることも可能ですよ」
    「いや……」

     フィガロの提案にオズは歯切れ悪く答える。危険性のある実験ではないから快く呑んでくれるかと思ったが誤りのようだ。気分を害したかと慌てて様子を窺うとオズは何か言いたげな様子で、言葉を探している最中に見える。身に覚えのあるそれにフィガロは辛抱強く言葉を待った。やがてオズが口を開く。

    「あの子は外に興味があるから喜ぶだろう。だが危険だ。極力人目につかせたくはない。それ故、せっかく手に入れた幼い心が満たされずに苦しんでいるのを知っている」
    「すみません……カルディアシステムはまだ世に出せる段階ではなくて、ですが研究は着実に進んでおりますので、いずれ一緒に出かけることも可能になるでしょう」
    「いや、それもあるが……」
    「はい」
    「……私の、我儘だ。あの子は本当にわんぱくで、最新鋭のボディを持っていても頻繁に破損やエラーを起こしてくる。業務は申し分無くこなせるが、ひと度自由を与えれば制御がきかない。迂闊なところもある。もし外に行きたいなど、とても……」

     目が、離せない。と心から困った様子でありながら優しげに緩んだ目元を見るに、アーサーは思った以上に大切にされているようだった。カルディアシステムを搭載してもアシストロイドという性質上、今の最終権限はマスターであるオズにある。無理に設定や動力を弄ろうとしないのはアーサーの心を尊重しているからだろう。

    「……だから、私の体験を通してアーサーの心が少しでも満たされるならと思って、ここへ来た。あれの味を見たのも、その一環だ」

     オズの考えは案外、フィガロと似ている所があった。フィガロの人生を賭けているともいえるカルディアシステムを入れたアシストロイドを、こうして好意的に見てくれているのだ。単なる機械や道具として扱うのではなく、確かな愛情を持っている。オズは前々から金銭面のサポートをして貰っている協力者ではあったが、『仲間』だという実感が初めて湧いた。フィガロは嬉しく、誇らしかった。つい笑みがこぼれる。

    「……?」
    「ははは、……あ、すみません。アーサーを大事にしてるんだなと思っただけです。でも、閉じ込めるのは良くありませんよ」
    「む……」
    「可愛いあの子の願いを断る気ですか?そっちの方がつらいですよ」
    「わかっている」

     オズは眉間に皺を寄せた苦い顔をしていたが、フィガロは出会ってすぐのような恐怖は感じなかった。むしろこれが所謂ギャップなのか、逆に面白い?なんて言ったら流石に失礼だろう。

    「……承諾は出来かねるが、今日の感想を伝えるときに実験のことも言っておこう。」
    「ありがとうございます。今日の感想……もしかして俺のことも言うんですか?」
    「ああ」
    「なんか恥ずかしいな。秘密にしておいてくれませんか」
    「アーサーは既に私達が一緒にいると知っている。意味はないと思うが」
    「そうなんですけど、いや、アーサーならいいか。何でもないです」

     どうせ自分も帰ったら報告させられるだろうし、と妙な照れくささに頬を掻くフィガロをよそに、オズはベンチから立ち上がった。

    「悪いがこのあと予定がある。今日は世話になった」
    「いえ、こちらこそ……」
    「敬語はいい」
    「え?」
    「最初から思っていたことだ。お前は私より年上で、これからも交流があるだろう。あまり堅苦しいのは好まない」

     そう言って「これは礼だ」と差し出されたのは可愛らしい飴玉で、年上と言った口でこの扱いはどうなんだとフィガロは笑う。

    「わかり……ゴホン、わかった。今日はありがとう、オズ」
    「ああ、また会おう」

     オズの手元の端末が軽いアラームを鳴らしたと同時に、道に黒い車が停まる。フィガロも迎えの車を呼ぶためにタブレットを取り出した。

    「帰るのなら送るが」
    「えっいや大丈夫で、大丈夫だよ」
    「そうか」

     オズは残念そうな声を出したが、少し笑っていたのでからかわれたのかもしれない。フィガロは彼を乗せた車が見えなくなるまでその場でぼおっと立ち尽くしていた。

    「はぁ……何だったんだ」

     やはり人と話すのは疲れる。疲れるが、なんだか心が温かいような、ある種の充足感があることも認めていた。記憶を反芻するようにポケットに入れた飴玉を握る。
     貰った飴は三つ。渇いた口を潤そうとひとつ取り出すとそれぞれ色の違った中で黄色にあたったらしい。丸くて小さいそれはレモン味だろうが、フィガロは先程食べた栗の甘露煮を思い出す。舌の上で溶けゆく甘さを名残惜しく思いながら、この迎えが来るまでの僅かな時間を楽しんでいた。
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