瞳の先に、桜花の幻影を見ゆ。人がごった返す渋谷スクランブル交差点前。
待ち合わせ時間よりもやや早くに到着してしまった暁人は通行人の邪魔にならないよう傍に避けつつ、手頃な花壇の縁に腰掛ける。
スマホに目を落としている人、同行者と会話に花を咲かせている人、通話している人、多様な人々が足速に自分の前を通り過ぎて行く。
いつもとなんら変わらない見慣れた光景をぼんやりと眺めていると体の前に掛けたボディバッグから僅かな振動が伝わった。…きっと待ち人からの連絡だろう。
鞄の中からスマホを取り出しホーム画面を確認するとメッセージアプリに新着メッセージが届いている。
『悪い、5分遅れる』
内容は至極簡潔。
『分かった、駅前の花壇のとこね』
待ち人──KKからの連絡に自身の所在も含めてメッセを返すと数瞬のうちに『了解』と返事が来た。そのことを確認してから再びボディバッグにスマホを仕舞う。
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