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    sugatani_kkk

    @sugatani_kkk

    まったりマン

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    sugatani_kkk

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    ふわっと過去語り

    過去話(ハルピアver.)ハルの故郷は不死鳥信仰のある地域。そして、ハルの家はその不死鳥信仰の教祖。一族は必ず司教以上の階級。姉以外の全員が不死鳥を信じきって、宗教に傾倒している。例に漏れずハルも司教だったが、幼い頃から不死鳥を信じてはいなかった。

    「まだ生きているなら現れてもいいはずだ。」
    「加護と言うが、それなら不死身が正しい姿なのでは?」
    「幻想種なら禍の星なんて欠陥システムがなくても、加護くらい授けられたのでは?」

    という疑問が常にあった。最終的には「一族の先祖が何らかの大魔術を用い、禍の星が生まれるのと引き換えに長い生を手に入れたのではないか」という思考までいく(実際のところは謎だが、絶対に違うとも言い難い)。
     不死鳥信仰の宗教には、ある習わしがある。それは「禍の星が七つになった年の暮れに、一族で最も歳の近い者が禍星の願いを聞きに行く」こと。
     長命の一族がいるから短命の子が生まれる。一族にとって禍の星は、代わりに死を受け持ってくれている者。そのため、不死鳥一族が短命の子に会うのは義務となっている。
    「我々がなんでも一つ願いを叶えてあげよう。君が代わりに死を引き受けてくれるから我々はここにいれるのだ。」
     傲慢な話だ、とハルは思う。確かにそう。一族は哀れんでいるだけなので。事情には目を向けていても、心情に寄り添っていない。そもそも常人を下に見ている。だから、この習わし(儀式)はトラブルが多かった。泣きじゃくる子、恨み言を言う子、暴れる子、どうしようもない願い事を口にする子。中には殴りかかってくる子もいたらしい。
     ハルはそれを思い出して憂鬱になりながらも、複数人の教徒を引き連れ、自らと同い年の、今代の禍星の家へ訪れる。
    「何か、叶えて欲しいことはあるか?」
     ハルは尋ねる。
    「ありません。」
     落ち着いた面持ちで目の前の少年は答えた。
    「は、」
     今、なんて言った?
    「僕は何もいりません。今が幸せで満ち足りているのでこれで十分です。楽しく生きて、自由でいられれば、これ以上望むものはありません。」
     彼は微笑んで、祈るように語る。そこに嘘は感じられない。
     ハルはそれが信じられなかった。なぜって、自分が彼の立場なら訪れた司教をボコボコにしているからだ。こんな巫山戯た一族のせいで。勝手にわかったような顔をして、と。それなのに、短命の少年は「何もいらない」と言い、そのうえ憎しみ等の暗い感情がどこにもない。本当に幸せそうに見える。意味がわからない。
     当時の彼には理解できなかったのだ。初めから生を区切られて、ここまで落ち着いていられる人間がいることが。
     ハルが頭を捻っていると、後ろからヒソヒソと声が聞こえる。
     ──気味が悪い。本当なのか?お近づきになろうとしているのでは。特別に見られたいんじゃない?何を考えているのかわからない。恐ろしい…。死にたがりか?実は恨んでいるのを隠しているんだ。幸せなんて嘘だろう。
     汚い大人の邪推。ハルは静かに怒った。これだから性根の捻じ曲がった人間は。何でもかんでも発言に裏があると思い込む。ここが外だったら殴り倒していた。
    「そうか。わかった。お前は幸せでありたいんだな?」
     不思議そうな顔をしながら少年は頷く。
    「なら、私がその幸せを守ろう。」
     その場にいた全員が目を見開いていた。
     この時の発言は、純粋な少年を守るための建前にすぎなかった。これが意味を持つのはもう少し後の話になる。
     ハルは続けてこう言った。
    「司祭。今日から私はこの家に世話になる。大司教や枢機卿に伝えておいてくれ。」
     今度は家出の口実であった。本来なら許されないが、彼には権力がある。このくらいの勝手はお手の物なのだ。
     加えて、ハルのなかには“わからないならわかればいい”という思考があった。意味不明だったからこそ、寄り添おうとしたのである。それならば、少年の側にいるのが最も効率がいいと考えたのだ。
     さて、これでうるさくなるのは周りである。
    「そんなこと許されるはずがございません!司教様が一般教徒、ましてや禍星の子の家に居座るなど…!」
    「黙れ。」
     嫌に冷えた声だった。
    「私はここに、この者の願いを叶えに来たのだ。この者は幸せを願い、私はその願いを守ると誓った。それが私の義務だ。…何か、間違っているか?」
     その圧倒的な物言いに教徒達は何も言えなくなり、ぞろぞろと家を出て行った。

     ここまでがハルがアールと出会うまでの話。こうして家出したハルは、普通じゃない地域で普通に過ごすグレイ家で、一般の暮らしを学ぶ。得意料理が家庭料理系統なのもここの影響。ものづくりに興味を持ったのも、グレイ家が創造魔法の家系で、試しにやってみたら楽しかったから。そして、周囲(の子供)から何か勘ぐられる度にボコボコにしていた。
     それからなんやかんやあって今に至る。ちなみに家には一度だけ帰っている。姉とはそこそこ頻繁に連絡を取り合う仲。今は司教の地位は剥奪されているが、本人は剥奪という言い方を嫌う。こっちから願い下げだ、らしい。
     グレイ家で得た経験はハルにとってかけがえのないものであり、今のハルを作る骨格になっている出来事。アールと出会ったのもそのひとつ。


    補足
     工芸科に入ったのは、ものづくりが好きだから。じゃあなんでものづくりが好きなのかと言うと、自分を表現できて楽しいから。ハルは空虚な立場にいたので、自分の手で何かを作ることに達成感を感じたんですね。なにせ、周り馬鹿共と力欲しさに近寄ってくる奴と利用する気満々の奴と取り入ってくる奴と立場とか見た目で判断する奴ばっかりだったので。
     ハル曰く、「あの家には何にもなかった。本当に、空っぽだったよ。存在してるのは俺という人間じゃなく、司教という尊大で空虚な肩書きだ。ガワだけが盛大に独り歩きしていたんだ。中身なんてどこにもない。」
     自分を持っているのにそれを出せない(出しても拒否される)辛さがあったんだな。


    補足の補足
     ハルの家族に愛は全くないです。家系を途絶えさせないためだけの家族。義務の結婚、義務の出産。どこまでも機械的。
     ハルは家出した後一度だけ家に帰った時、「俺は代替品だろ。」と言って家を出ています。実際そうで、姉が幼い頃身体が弱かったので代わりに教祖ができる人物としてハルピアは産まれました。現在は普通に健康なため、ハルの役目はなし。というわけで、特に引き止められもせず、司教もやめ(させられ)て家を出ました。
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