詩をいくつか本と海
本のなかを泳いでみたい
文字列は海で頁数は水深
頁を捲ると波が立ち
文字がさざめく
文字の海はどんな味がするだろう
「海」なんだから、やっぱりしおからいのかしら
それとも「あ」と「い」で味が違うのかしら
「辛」という字は辛くて
「甘」という字は甘いのかな
「味」という字は?
「人」は?
それこそしおからい海の味かもしれない
だって人間は涙の方が多いから
産まれる時に笑顔だったら
違うかもしれないけど
「愛」なんて怖くて食べれないな
不味かったらいやだから
「恋」も同じだ
言い訳の味がしたらいやだ
やっぱり泳ぐのはやめにしよう
こわいことが多すぎる
物語は終わる
本は閉じられる
閉じられたら
まっくらで泳げないから
どうせなら開く側になってやろう
物語を始めてやろう
そのほうがきっとおもしろい
文字を食べる
文字を食べれるようになったら
「読む」という行為はなくなるのだろうか
文字を見て
口に含んで
咀嚼して
胃の中に収めて
それでおしまいなんだろうか
今まで「読ん」で
たくさんたくさん
意味を考えて
表現を尊んで
文章を愛でて
物語を賞賛してきたのに
単調な味に変わってしまうのだろうか
不味いものは食べなくなるんだろうか
いやだなあ
今だって頑張って
理解しようとしているのに
食べるだけで
理解した気になるのは
それだけじゃ
食いしん坊のばかになってしまうよ
夢のなか
夢を見た
夢の中で僕は
物語の主人公
あるアニメキャラの相棒
空飛ぶ魔法使い
異世界の冒険者
大好きな人の恋人
それでも僕は僕だった
他の誰かになれたわけじゃなかった
「夢の中くらい」
とか
「生まれ変わったら」
とか
言うけれど
違う誰かになってもきっと僕は僕だ
懐かしいゲームを売ったことを後悔したり
売った本を買い直したり
データを初期化しちゃったり
締切日の課題を忘れたり
お気に入りのキーホルダーを落としたり
同じ失敗をするのだ
だけど
もし失敗をしなくなったら
それは誰なのだろうか?
僕なんだろうか?
僕は僕じゃなくなったら
誰になるんだろうか?
僕は魚
僕は魚だった
僕は海にいたけれど
僕は泳げなかった
息ができなかった
からだが動かなった
苦しかった
つらかった
ほかのみんなは上にいるのに
僕はどんどん沈んでいった
みんなは楽しそうに泳いでいるのに
僕は少しも進まなかった
水面の光が遠のいていった
冷たくなった彼は
浜にボロボロで打ち上げられた
当然だ
彼には鰭もエラもない
彼は魚ではなかったのだ
〇〇っぽい
それっぽい詩
それっぽい歌
それっぽい俳句
それっぽい小説
「いいな」と思って
書いてみても
できるのはそれっぽいもの
形が整っていて
傷がなくて
中身がなくて
くだらなくて
下手くそな
生み出してみるとそんなもの
消したくなって
つらくって
虚しくって
でも消せない
もったいない
くやしい
かなしい
だってこれが僕だから
空っぽでも何もなくても
これが僕だから
簡単に消しちゃかわいそうだ
捨てる
ここが捨てられた世界なら
あの太陽も捨てられたのかな
ここが捨てられた世界なら
月のうさぎは追放された?
ここが捨てられた世界なら
星占いに意味はある?
ここが捨てられた世界なら
あの国は亡国であの村は廃村
ここが捨てられた世界なら
僕も捨てられた僕である
だけど
それは生きちゃだめってことじゃなくて
なにもかも自分で決めていいってことだ
ハロー新しい僕
グッバイ僕を捨てた僕
こっちは勝手にやるからさ
もう簡単に捨てないで
いちばん長い
いちばん長い英単語は「smiles」
だってsとsの間に「mile」があるから
と昔学校で習ったけれど
僕からすれば
いちばん長い英単語は「I」だ
自分のことなんて自分にもわからない
他者からだってものさしが変わる
神様に測られるのも
なんだか癪に障る
世界にはたくさんの神があるのだし
つまるところ誰にも「I」は測れない
わからないのだ
だから無限だと言ったって怒られない
「いちばん長い英単語は?」
と聞かれて
「それは僕だよ」
と答えられるのは
なんだかこっ恥ずかしいような
むず痒いような
ばかを言ったような
それでいて誇らしい感じがする
三つ編み
三つ編み・・・・・・かわいい女の子
三つ編み・・・・・・あの子とあの子の結び目
三つ編み・・・・・・複雑に絡まる糸
三つ編み・・・・・・DNAに似てる
三つ編み・・・・・・軽やかに揺れる双子
三つ編み・・・・・・解けそうで解けない
三つ編み・・・・・・男だってできる
三つ編み・・・・・・大人しい文学少女
三つ編み・・・・・・どこまでできる?
海に
海に沈みたい
家のことも
学校のことも
社会のことも
自分のことも
家族のことも
友達のことも
ぜんぶ忘れて
海に沈みたい
暗闇のなか
冷たいのか
寒いのか
熱いのか
温いのか
それだけで
光を見つめて
海に沈みたい
苦しさも
怖さも
痛さも
つらさも
感じたくない
海に沈んだって
無理だろうけど
恋
きみがかわいくて仕方ないのだ
揺れる髪
つぶらな瞳
やわらかな肌
マシュマロの声
天使の笑顔
やさしくて
残酷なきみ
できることなら
口に含んで
胃に収めてくれないか
そうして
きみの中で溶かしてほしい
残させてほしい
それだけでいい
それだけでいいから
笑っていて
泣かないで
傷つかないで
守らせてほしい
振り向かなくたっていいのだ
誰かを見ていたっていいのだ
痛みなんてなくていい
しあわせであって
ぼくはそこにいなくていい
きみにあかるいあしたがありますように
パッチワーク
僕はパッチワークでできている
あれもいいな
これもいいな
って
好きなものをたくさん引っつけて
できたのが僕
だから
僕が作ったものは全部
パッチワークになる
あれはあの漫画から
これはあの歌詞から
それはあの小説から
引っつけてできたもの
0から生み出した考えなんてひとつもない
でも
「これは私だけの考えだ!」
なんて
堂々と言える人はいるのかな
僕が生み出したなにかは
僕が触れてきたものの
僕が好きなものの
証
キラキラしてないはずがない
ドキドキしないはずがない
そうして縫いつけてやれば
世にもきれいな1枚の布ができる