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    越後(echigo)

    腐女子。20↑。銀魂の山崎が推し。CPはbnym。見るのは雑食。
    こことpixivに作品を置いてます。更新頻度と量はポイピク>pixiv

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    越後(echigo)

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    全年齢ギャグ。山崎に相変わらず夢がつまっている。真選組への捏造過多。同じく捏造された監察方(篠原、吉村)がちょっとだけ出ます。山崎がかわいそうな扱いをうけるシーンがあります

    ##或監察
    ##小説

    或祭騒動の裏側 今日の真選組屯所は、なにやら朝から慌ただしかった。
     出歩く隊士がやたら多く、併設された道場で素振りする者、敷地内のあちこちを歩いては観察する者、複数で寄り合って何かを相談している者、と、普段とは明らかに様相を違えている。また、見る者が見れば、そのほとんどが年若い、そして最近入隊したものばかりだということに気づくだろう。古株、特に隊長クラスの者たちはいつもと変わらぬ動きである。ただ時折、慌ただしさに何かを楽しむように目を細めたり、こっそり笑みをこぼす者もいた。
     このちょっとした騒ぎは、これから始まる祭りの前哨戦である。
     対テロ組織特別警察である真選組は、その用いられ方から、他の警察組織よりもやや腕っぷしを基準に採用する部分がある。その腕というのも、一通りの道場剣術をおさめるというより、実践で使えるかどうか、を見るところがあった。隊長格と対する試験などがそれに当たる。
     そのような試験を乗り越え、めでたく入隊したばかりの彼ら新隊士に、隊長格まで織り混ぜての合同訓練が告げられた。
     実践形式の模擬戦闘。使う場所は道場から庭まで真選組敷地内。建物内は通行不可、使用禁止。参加隊士は自分の名入ハチマキを身体の見える場所にくくりつけること。戦闘においては身体と竹刀以外の使用は禁止だが、不意打ちは可能。徒党を組んでも良い。気絶もしくは降参するか、ハチマキを奪いとられれば敗北。多少の怪我は大目に見る。訓練終了時の手持ちのハチマキで評価を下し、査定に反映する――ざっとこんなルールだ。なんでも何処かの道場で行われている実践訓練を参考にしたらしく、なかなか本格的だ。
     前準備を許された新人たちはここが最初の正念場と張り切っており、隊長格は有望な新人発掘のチャンスとほくそ笑む。
     皆が浮き足だっている中、ひとつ違った緊張をはらんだ部署があった。真選組監察方だ。山崎、篠原、吉村の三人が参加することになっている。
     もちろん各自ハチマキをつけ、戦闘訓練に参加するが、彼らには他に何よりも優先すべき目的があった。
     ――新入隊士に紛れた、招かれざる客の炙り出し。
     仇敵真選組に潜入し、瓦解させようと企む攘夷浪士にとって、たびたび行われる入隊試験は絶好の機会である。もちろん、試験の場でも選別を行っているがすり抜けて潜入する者は多い。
     そこで、わざと全隊士たちが注目する訓練を設けることで、大きな隙と思わせ、行動にうつらせる。そこを抑えるのが監察の役目だ。この事実を知るものは、計画の主導者である副長土方十四郎と監察方、協力者となってくれる数人の隊長だけだ。腹芸が苦手な局長には伏せられている。
     そうでなくても、ニコニコと父親ばりに新人隊士の様子を見守る彼には副長は伝えづらいのではないか、というのが山崎の見解である。言ったら十中八九殴られるので言わないが。
     計画の邪魔にならないよう、局長には協力者の隊長をあてたり、適当な新人を誘導するようにしている。訓練最後に残るのは、だいたい一番隊隊長の沖田か、副長の土方、局長の近藤と決まっているから、ここからはひとつのエキシビションである。彼らの実践試合が、隊士たちへの良い刺激になり、組が引き締まる。
     監察たちだけで、あらためて訓練の打ち合わせを行っていた山崎はぐっと伸びをした。こちらは新人たちとは違った緊張がある。
    「そろそろ時間です。行きましょう」
     冷静な篠原の声に、吉村が頷いて立ち上がる。
    「うん。じゃあ、俺はトンボから見てくるから、篠原はカマキリ、吉村はバッタをよろしく」
     それぞれに疑惑の新人を渾名で指定する。観察の時間が始まった。
    ◇◇◇

     副長の訓示とルール説明のあと、訓練開始の合図がくだされた。皆一斉に動き出す。山崎も竹刀を手に敷地内を移動しはじめた。あちこちで早くも鬨の声が上がりはじめている。この訓練は誰が誰に挑んでも良い。新人が自分の実力を知り、古株が立場に胡座をかかないようにする良い機会だ。自分たちはネズミ捕りが優先でも、皆にとっては大事な訓練、なにも知らない隊士や、隊長はもちろん襲いかかってくる。
     正直、目的のために適当なところで敗北してしまいたい。しかしあまり早すぎると、怪我のひとつもしてない敗北隊士が、訓練中にうろついているという怪しいことになる。なかなか案配が難しいのだ。中盤ごろと見たら原田を探そう。協力者の目立つ頭をあてにして、まずはトンボを捜索した。
     こういうとき、己の目立たない、溶け込む地味さは本当に助かる、と素直に思いたい。山崎は狙われることもなく、戦闘の脇もすいすいと通り抜ける。少し、いやかなり心にくるが、これも任務これも任務と唱えて何故か出てくる涙をこらえた。
     疑惑のトンボくんを見つけた時、何人かと固まっていた。どうやら徒党を組んで、ハチマキ奪取を目指すらしい。狩りの方法としては効率的ではあるが、もちろん最終的にハチマキを手にできるのは一人だけだ。取り分を決めるにしても期限つきにするにしても、自分の有利にことを進めるには相応の交渉力が必要となる。どうやらトンボくんは徒党の中心にいるらしく、なかなかのリーダーシップを発揮している様子だ。疑惑さえなければ、有望な新人として監察にほしいくらいだ。山崎は影で肩をすくめる。
     どうやら話はまとまったらしく、トンボくんから周りの人物が離れていく。固まって動くのではなく、それぞれが指定された配置についての奇襲策だろうか。これもなかなか素晴らしい。
     トンボくんも動き出す。途中でうっかり新人査定モードにはいってしまったが、山崎はターゲットから一定の距離をおいて気配を殺し、追跡モードに切り替える。これが自分も狙われかねない訓練中なものだから、なかなか厳しい。ため息もつきづらいなあと愚痴を頭の中でこぼしながら、篠原や吉村はうまくやっているだろうか、と仲間のことを思った。
     それからの山崎は、トンボくんがなかなかに優秀で、奇襲作戦を成功させて古株からハチマキを奪うことに成功した。まで間近で見てから、一度、場を離れることを考えはじめた。そろそろ人数も減ってきている。自分も原田にハチマキを預けたほうが良いかもしれない。音を立てず、足跡をつけないようにしてその場を離れる。
     作戦が成功して古株からハチマキを奪い、盛り上がる新人隊士の真ん中。ふと、MVPである立案者が何もない方向を見た。
    「おい、どうしたんだ?」
    「……いや、俺ちょっとあっちのほうを見てくるわ」
     怪訝そうに隣の仲間が問いかける。視線の先には何もないし誰もいない。しかし彼は、にっこりと笑みを浮かべ、その場を足早に去る。駆け足にしては音のない動きだった。

    ◇◇◇

     ひどくかすかな気配が急に消えた。つけられている、そう感じたのは訓練がはじまってからすぐのことだ。自分以外は誰も気づいていないようだった。それもそうだろう。恐ろしく静かで、集中していなければ途切れてしまいそうな気配だ。
     真選組の新入試験をくぐり抜け、今日この機会をつかんだ。建物から新人はおろか隊長格まで出払う訓練、これが幸運でなくてなんであろうか。
     天人に下り、国を腐らせる幕府に尻尾を振る狗共に天誅を。同志と誓った思いが胸を燃やす。浮かれきった屯所ならば爆弾を仕掛けることも容易いだろう。そこまでいかなくとも、なにかしらの仕込みをすることで後々役に立つ。そう思っていたが、気配を感じたままではうまく動けなかった。
     だいたいの察しはついている。真選組には監察方と呼ばれる潜入工作などを専門にする部署が在る。おそらくそこの人間があとをつけているのだ。気配を消したということは仲間へのつなぎ、もしくは諦めたか。見逃すという選択を取ることは出来ない。できることならば姿を確認し、自分に有利になるように事を運ぶ必要がある。深追いは禁物だが、ある程度の足をつかんでおきたい。
     建物の影に隠れつつ、またかすかに感じ取れるようになった気配を静かに追う。たどり着いたのは庭端の倉庫だった。油断なく、辺りを見回す。
    「うわ、ホンットに優秀だなー」
     気の抜けた声が上から降ってきた。
    「なっ!?」
     『山崎』と刺繍されているハチマキを腕に巻いている平隊服。それが倉庫の屋根に腰掛けて、足を子供のようにぶらつかせている。
    「な、なんだ。脅かさないでくださいよ先輩」
    「君、気配を辿ってきたんでしょ?」
     内心ぎくっとしたが、ここは正直に答えた方がいい。
    「はい、誰かにつけられているように感じて……奇襲をかけられるかと」
     竹刀に手を添える。嘘はついていない。
    「そうだね。あ、君のさっきの奇襲作戦も見事だったよ」
     へらへら笑う男は、とても実力者とは思えないが、あれだけの尾行を続けられる人間だ。ただものであるはずがない。
    「でも、人員配置がね。あれじゃ相手が一点突破を狙ったら逆に急所になりえる」
     ぺらぺらと良くしゃべる男だ。そしてやはり、先程の奇襲を尾行して見ていたらしい。一向に屋根から降りる様子はなく、竹刀を手にしている様子もない。なめられているのだろうか。それならばまだ切り抜けられる。
    「――あの人の癖を把握してた俺が先に回り込んでなかったらさ、絶対抜けられてたよ」
     声に、心が芯から冷える。相手がへらへら笑いをやめ、すっと目を細めた。こいつは何を言っている。先程の奇襲、たしかに相手が右側から突破を狙おうとするのを止めた仲間がいた。
     ――そいつは誰だっただろうか。思い出せない。そこだけ記憶に霞がかかったようだ。
     あくあくと口が開くものの、声が出てこない。男はゆるゆるとした動きで後ろに手をやり、何か丸いものを取り出した。よく見たことがあるフォルム、間違いない、自分が隊内にこっそり持ち込んだ爆薬だ。
    「な、なぜお前がそれを!!」
     竹刀を握りしめ、目の前の得体の知れない化け物を見据えた瞬間。ぐわっ、と、追いかけていたはずの気配が後ろで膨らんだ。

    ◇◇◇

    「斉藤隊長、ご協力感謝します」
    「……」
     無口なアフロは、『どういたしまして』と書かれたスケッチブックをそっと取り出す。その足元ではトンボ――と、名付けていた間者が倒れていた。
    「攘夷浪士でなきゃ監察方に欲しいところだったんですけどねー」
     残念、とそこまで残念でもなさそうな声で、山崎はきびきびと気絶したトンボを縛り上げる。
    「『これからどうするんだZ』? そうですねえ……。俺は先に副長に報告するんで、斉藤隊長、申し訳ないですが、これ倉庫にでも放り込んで見張っててもらえませんか?」
     コクリ、と頷く斉藤は、山崎に黙って自分のハチマキを差し出す。見張っていては訓練には参加できないから当然だ。山崎は自分の腕に斉藤のハチマキを結びつけ、ひとつ礼をする。竹刀を回収し、山崎は副長を探しに向かった。
     トンボがおもったより優秀で、このままでは逆に決定的なしっぽを見せないのではないか。そう思った山崎は早々に、追跡役を傍を通りがかった斉藤に代わってもらうことにした。わざとかすかな気配を出して見張ってもらう。自分はさりげなくトンボくん徒党に紛れ、その活躍を間近で観察させてもらった。言動の端々から限りなく黒に近いグレー、困ったことに優秀と判断し、やや強硬手段に出ることに決めた。本当は暇を見てハチマキを原田に預けたかったのだが、残念ながら見つからなかった。斉藤に倉庫まで誘導してもらい、わざと揺らした後に自分が以前押収した爆薬をちらつかせて発言を引き出す。強引ではあったが、あの動揺具合なら尋問で吐くだろう。
     あー疲れた。一仕事終えて気が抜けた山崎は、軽くランニングの調子で走っていた。首を曲げて鳴らし、副長が居るだろう方向に向かっていくと、やけにあたりが騒がしくなっていく。訓練が盛り上がってるようで何よりだ。今何人くらい残ってるんだろうか。ふんふんふーんと鼻歌を歌いながら進むと、竹刀をかまえた後ろ姿を発見した。
    「あ、ふくちょー」
     呼びかける。振り向いた土方の顔が、一瞬で驚愕に染まった。そのむこうから、ひょっこりと茶髪が頭をのぞかせる。
    「おー」
    「なんだザキ! お前も残っていたのか!」
     道場前の広場には、副長、沖田隊長、そして近藤局長の姿があり――その周囲をハチマキを失い観客となった隊士たちが囲んでいた。山崎は竹刀を持ったまま、硬直する。
    「え」
    「そりゃ終兄さんのハチマキじゃないですかィ? やるじゃねえかザキのくせに」
    「なんだと!? ザキ、終と戦って勝ったのか!? やるじゃないか!」
     近藤の声が喜びで満ち、沖田はにやついており、土方は震えていた。
     ――やっちゃったァァァ! と山崎は心で叫ぶ。これは訓練も終盤、強者が集うエキシビションマッチに挑戦者山崎のご登場です!! という状態だ。
    「あの、えっと、いやですね」
    「やーまーざーきィー……?」
     ひくひくと頬を震わせ、瞳孔を開いた鬼が、なんでお前? なんでお前がいんの? と殺気を放っている。わざとじゃないと言いたいが、とてもそんな空気じゃない。視界の端のギャラリーの中で篠原がため息を付いており、吉村がウケていた。助けて! も封じられている。
    「ザキ、安心しなせィ。サクッと退場なんざさせねェからよ……」
     明らかに状況を楽しんでいる沖田が、サディスティックオーラを全開にしている。死にはしないが死にたくなることをするつもりだ。
     ――前門の鬼、後門のドS。どっちがいい?
     山崎はごくり、とつばを飲んだ。
    「横のゴリラァァァァ!!」
     後に山崎は語る。あのときは正常な判断力を失っていた。山崎退一生の不覚であったと。
     山崎がこちらに目標を定めたとわかった瞬間、ゴリラは喜色満面になった。そして大きな胸に飛び込んでくるかわいい部下を歓迎し、おもいっきり胴に払いを見舞った。
     余談。ゴリラの握力は四百~五百キログラムである。
    「いやー、まさかザキが終を倒したばかりか、俺に向かってくるなんてなあ……。俺は、俺は嬉しいよ……」
     近藤は、子供の成長を喜ぶお父さんのように感動し、涙を指で拭っている。そのはるか遠くにふっとばされた山崎は、横に身体が曲がったまま倒れ、びくんびくんと痙攣している。吉村はその様子を身体を折り曲げて笑い、篠原は冷めた目で見つめていた。
     エキシビションマッチが始まり、隊士たちの歓声が江戸の空に響く。祭りもたけなわ――どっとはらい。
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