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    越後(echigo)

    腐女子。20↑。銀魂の山崎が推し。CPはbnym。見るのは雑食。
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    越後(echigo)

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    或監察シリーズ。あるもうまいのこうでい。!注意! 気分が良い話ではありません。

    ##或監察
    ##小説

    或蒙昧の拘泥 おふねは幸せであった。
     小料理屋のお運びは性に合っていたし、器量よしの看板娘としてちやほやされるのはもっと具合が良かった。
     おふねのいいひとはここの常連客で、羽振りもよい。言うことをよく聞いて、ほしいものは手に入れてくれる。男とやりあえる頭の良さと気性が気に入ったのだと言ってくれた。おふねは満更でもなかった。
     最近、新人が入った。亀子と名乗った女は、幼く映る見目よりも、ずいぶん年かさのようだった。地味な彼女は名前の通りのグズでのろまで、間が抜けていた。
     周囲から邪険に扱われるのをかわいそうに思い、おふねはよく目をかけ、ときにはかばってやった。亀子がこちらを慕う目で見上げるのは心地よかった。いろいろと覚えの悪い亀子はよく迷子になっているようだったし、ものの場所を忘れてしまうようだった。そんなとき、気まずいのかこそこそと、おふねだけにものを聞きに来ることがあった。快く教えてやると、頭を深く下げて礼を言う。
     ありがとうございます。誰にも聞けなかったのです。おふねさんだけです。
     ぽつりぽつりと、さとの訛でもあるのか。言い方を気にして、いつもうつむきがちに、低い声で彼女は話す。おふねは器量のよく要領のいい自分と比べて、この女を心底哀れんでいた。

     今日も亀子は盆をひっくり返してしまい、おふねの目の前で叱咤されていた。うつむいた背は縮こまり、いかにも哀れな亀の様子である。
    「およしよ。お客様もいらっしゃることだし」
     意地悪なものいいで、やたらと亀子を詰める使用人の男に申し出る。男は苦々しい顔で捨て台詞をはいて離れていった。小さな声ですみません、と亀子は謝った。
    「良いのよ。あなた、あんなに意地悪をされて、つらくはないの。私でよければ、口をきいてあげるから」
     いえ、と亀子はもじもじしだす。遠慮しているのだろうとおふねは微笑んだ。
    「そうだ。別のお手当をもらえるお仕事があるのよ。簡単だから、あなたにもきっと出来るわ」
     おふねはそっと、亀子の荒れた手をとった。ずいぶんと固く豆のある手は、これまでの苦労をしのばせている。要領が悪く、器量もそれほどない、頭のわるい、それも女であるのならば、これまでどれほど泥をかぶってきただろうか。
     おふねは心底、自分を慕う亀子を不憫に思った。そっと手の内に紙を挟み込んでやり、笑みを向ける。亀子はハッとした様子で顔を上げ、おふねの様子を伺うとまた目を伏せた。亀子はおふねの手を放し、紙を握り込む。おふねさん、ありがとうございます。と、小さく礼を言うと、深く頭を下げた。

     いいひとに紹介された『仕事』をする時分は、いつも夜更けのことである。
     おふねは母屋からはなれた物置で、床をはずす。ひとつ置いてある包を取り出すと、後ろについている亀子に手渡した。着物についてしまったホコリをはらいながら、おふねは立ち上がる。
    「これを、奥の間にいるお客さんに渡すんだ。その前に、とんとん、と戸を二回叩いてすぐ、とんとんとんと三回叩く。そしたら、一回返ってくるからね。最初はわたしも付いていくから、心配ないよ」
     緊張した顔つきの亀子に微笑みかけ、さあと背を押して物置の外にむかわせた。
     内庭のひんやりとした夜気を通り抜けて、店に戻る。無駄に足音をたてぬよう廊下を進む。二番の奥座敷が今宵のお客さんとの待ち合わせ場所だ。おふねが先導し、亀子はおそるおそるといったていで後ろをついてきている。
     おふねがとんとん、と戸を二回叩く。間をおかず、とんとんとん、と三回叩く。一回、返答がきた。
     そこに、あれ、と亀子がふいに間の抜けた声を出した。いつもの調子と比べ、どこから出たのかと思えるほどに大きくてよく通る声だった。奥から顔を出した客も、おふねも、亀子の顔がむいた庭へ目を向けた。
     そこで、おふねの記憶は途切れている。

     気づいたときには、荒縄でぐるぐると戒められ、地面に転がされていた。目の前に黒服の男が数人、その全員が帯刀している。
     真選組。江戸で知らぬものはない、幕府の武装警察に、おふねは捕らわれていたのであった。
     首に縄をかけて、詮議の為の部屋に通された。冷たい椅子に座らされ、机を挟んで目の前に腰掛けたいかつい男が、横柄な物言いで名を呼ぶ。おふねの身上をあげて確認していき、おふねが質問をしようとすれば、恫喝された。戸の傍にも男が一人立って、冷ややかな目をおふねに向けている。
     あんまりではないか、とおふねは心中で嘆いた。自分が何をしたというのだろう。今日も真面目にあくせく働いて、亀子とともに急な入りの仕事をしようとしていた。
     そうだ、亀子は。あの哀れで不器用な女はどこに行ったのだろう。先程から少しも話題に上がることはない。
     ――もしや、逃げおおせたのではないだろうか。
     おふねは歯噛みした。喉の奥から唸りのような声が出そうになるのを抑え込む。
    「あの女はどこへ行きましたか」
    「……女?」
     怪訝そうな隊士に、おふねはゆったりと語りかける。
    「亀子ですよ。いかにも鈍臭そうな女です。私達と一緒にいた、あの不細工な、グズですよ」
     おふねはしなを作りながら、高く哀れな声をあげた。
    「ねえ、おまわりさん、私は何も知らないんですよ。あいつが全部悪いんです」
    「今はお前の詮議中だ。余計な口は慎み、質問にだけ答えろ」
     だが、隊士は傲岸な態度を変えることはなかった。おふねは目を吊り上げ、叫びだした。
    「あの女を! 亀子を捕まえとくれ! あいつが悪いんだよ! 私じゃない! 私じゃない!!」
     立ち上がろうとするのを、控えていた隊士が取り押さえる。ますます興奮し、ツバを飛ばしながらおふねは喉の奥から叫ぶ。
    「何で私だけを、他にもいるだろう? 極悪人が! 私は言われた通りのことをやっただけ。何で私だけなんだい! みんな捕まえてきなよ!! このクズ!! 役立たず共が!!」
     私だけじゃない、私だけじゃない。おふねの高い声は、部屋中に響いた。

    「これで全部か?」
    「は、はい。俺が知ってる範囲は……」
     へへ、と薄ら笑いを浮かべ、手もみをせんばかりの男に、山崎は冷えた視線を投げかける。
     麻薬の売買が行われている小料理屋に踏み込み、捕縛できたのは末端の売人である男女と客のみであった。本来ならば繋がりの強い攘夷浪士たちの居場所に踏み込みたかったが、潜入捜査をしてまもなく、どうやら得られる情報には限度があると踏んだ。こちらを嗅ぎつけられて線を消される前に捕縛し、牽制をかねて小物から情報を絞れるだけ絞ったほうが良いと判断し、指示を下したのは山崎だ。
     その推測はおおむね当たっており、早めに路線を変更したのは当たりといえど、いささか残念な結果に終わってしまった。潜入は楽じゃないんだけどな、と、未だかゆみの残る頭皮を山崎はぼりぼりとかいている。
     男はぺらぺらとよく喋った。拷問も尋問もするまでもなかった。男の中では勝手な司法取引が行われているらしく、情報を喋れば喋るほど無罪放免となっているらしい。そんなはずはないのだが、勝手に喋るぶんには手間がはぶけるので、好きにさせている。
     先程おこなわれた連絡によれば、もう一人の女にはずいぶん手間がかかっているらしい。なんでも自分のやった罪を認めないが、話すことは罪の内容そのものだとか。やたら話す割には、関係のないこと自分のことばかり入るちぐはぐな自白で、調書が書きにくくて仕方がないと隊士はこぼしていた。
    「で、お前と組んでいた給仕のおふねも、これ以上は何も知らないんだな」
    「はい、あいつは何の役にも立ちませんよ」
     男は肩をすくめ、ありありと侮蔑の色を浮かべてせせら笑った。

    「器量と愛嬌はそこそこにあって、頭は足りないものだから、言われたことだけやるし、周りはだれもあいつが危険とは思わない。都合が良かっただけでして。へへ、へへへへへ……」
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