【ヒス晶♀】好きだと思ったひと 好きなひとの部屋で、一夜を過ごした。
そんな言い方をすれば、様々な事実が暗黙の了解のうちに組み立てられて、私たちは言い訳しようもなく恋人同士として扱われる。だけど、薄いカーテンを透かして眩さが睫毛の先をくすぐった朝、好きなひとの温度の隣で目覚めても、私たちはまだ恋人同士にはなれていなかった。緩く瞼を持ち上げれば、少しだけ見慣れたワンルーム。
「おはよう」
と、言った好きなひと、の面差しは淡い逆光に染まっていて、どこか不明瞭だったけれど、微笑んでいるのだと思った。
「おはようございます」
ほんの少し決まりが悪いような照れ笑いで、私は挨拶を返した。ぱちり、と瞼を瞬いて身じろげば、肩からブランケットが柔らかに落ちて、世界がだんだん明瞭になる。好きなひとの温度、昨日のままのブラウス、ローテーブルの上の不揃いのマグカップ、テレビのリモコン。私たちは静かな夜にソファで隣り合って、お気に入りの映画を観ているうちに、いつのまにか眠りに落ちた。
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