Etoile Polaire silencieusement brillante「みんなまだ来ないねぇ……」
斎藤一は静かな夜の森の中でぽつりと呟いた。
彼は現在一人ではなく、マスターである藤丸立香と一緒にいる。立香は木にもたれて座る斎藤の膝を枕にし、彼の着ているスーツの上着を体に掛けて静かに眠っている。
本来ならこの場所には何人かのサーヴァントと共にいるはずだったけれど、何故かレイシフト時にはぐれてしまった。
幸いお互いのいる場所は把握できたので、はぐれた仲間は立香のいる場所に来る事になっている。
仲間と合流できるのは後一時間ほど。斎藤はそれまで立香の体力を消耗させないように、彼女を休ませていた。
斎藤は眠る立香の髪を指で梳いてから頭を撫でる。
魔術の徒としても、数多の英霊を使役する立場としても、立香はまだまだ足りない部分が多くある。
だけど彼女の真っ直ぐな性格や一所懸命なところは、他のサーヴァント同様に自分も立香をマスターと呼び慕い、己の剣を彼女の為に振るうまでになった。
そして彼の立香をマスターと慕う気持ちは恋慕に変わり、斎藤はその想いを持て余すようになった。
立香は北の極点に輝く星のように、確かに斎藤の目の前にいる。けれど、影法師の存在の自分は星を追うだけで、その光を掴むことはできない。
けれど、今だけ。全てが終わるまでは立香の側に。
「……好きだよ。立香ちゃん」
斎藤は届かない気持ちを苦しそうな声で呟く。すると声に反応したのか、立香のまつげが震え出した。
「…はじめちゃん?どうしたの?」
立香は目を覚まし、眠そうな声で斎藤に尋ねてきた。年若い彼の主人は心配そうに斎藤を見つめている。
「なんでもないよ、マスターちゃん。まだ合流まで時間があるから寝てな」
「うん…」
斎藤が微笑みながら言うと、立香は安心したのかまた眠りにつく。眠るとき、彼女は少しだけ斎藤の膝に擦り寄るような動きをした。
「…タイミング良いなぁ」
さっきの言葉を聞かれなくて良かった、と斎藤は胸を撫で下ろした。
先程の呟きは誰にも聴かれたくない自分の我儘だから、立香はおろか他の人にも聞かれては困る。
彼は眠る主人の髪を指で梳きながら、彼女を見つめた。
「頼むから…俺から離れてくれるな、ずっと、そばに居ろ」
斎藤は完全に寝入っている立香に聞こえないような小さな声で呟く。
今この時だけは誰にも邪魔をされず、二人だけで居られる事を許された時間。斎藤はそれなら自分の気持ちを少しだけ呟いても良いだろうと思った。
自分の気持ちを知らない立香は斎藤の膝枕で静かに寝息を立てていて、たまに擦り寄るような動きをしている。
いつの日かこの想いが、静かに輝く北極星のような彼女に届いて欲しい。
斎藤はそんな事を思って彼女の頭を撫でながら、仲間の合流を待った。