化物と探偵 ~台牧記~【夢の欠片】
愛する家族を乗せた船は蒼穹の向こうへ遠ざかって行く。
すべてが終わった訳ではない。それでもホッとした。
自分のしてきたことが無駄にはならなかったこと。やれるだけのことはやれたこと。それだけでホッとした。
後はこの男に託すしかない。
もう自分に残された時間は後僅かであると知っている。
「まあ、付き合えや」
あれほど怯えた〝死〟を目前にして、なのに心は酷く安らかだった。
ここはかつて暮らした自分にとってたった一つの——楽園。
最期の瞬間をこの場所で迎えられるとは何という僥倖だろう。
舞台装置のようにそこにあったソファーへドカリと身を預けたその瞬間、僅かに残されていた最後の力が急速に失われていくのを感じた。
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